2月
英語と国語、社会はいつも通り解けた。苦手な数学もなんとか、なんとか! って感じで。理科基礎と日本史は、全然上手くいかなかった、気がした。
しかし、共通テストの結果というのは、自己採点の後じゃないと正確にはわからない。
英語は、確かに文章量が極端に多かった。ただ、塾の授業でシャドーイングやオーバーラッピングを通じて英語を英語のまま理解して速読をする練習をたくさんしていたためか、あんまり難しいとは思わなかった。
実は今年は、英語が過去最高に難しかった年だったらしかった。 おれは点数7割を超えていたため、塾の入力システムに英語の点数を入力してみたところ、暫定の教科偏差値が70近くまで行っていた。
しかし、日本史と理科基礎。何が起こるかわからない共通テスト、2つとも、いつも7.5割取れるのに、4割という結果に終わった。
塾のシステムに共テの点数を入力し、とにかく多くの大学の判定を調べた。
旧帝はもちろん、三重大や静岡大、広島大なども全てE判定だった。ネックはもちろん日本史理科基礎。共テの魔物に、殺された。
もう、気づいたらめちゃくちゃ泣いていた。鼻も出てくるし、顔ぐちゃぐちゃで。
「どうしたの?」
塾のA-19席でうなだれているおれに、いつものテンションで話しかける天馬。天馬の方なんて向けないから、パソコンを見ながら、でも涙ながらの声で。
「おれはもう、国公立には行けない。副教科で落としたから。国数英は高いけど、だからと言って私立の有名大行こうとしても、そりゃ俺がたくさんの教科勉強してる時間全部2〜3教科に費やしてる人と戦うわけだから勝てるわけないし」
そう、これが国公立受験の闇。国公立は私立に比べて教科数が多いため、共テ後に私立に転換したとしても、もともと私立志望の人たちに勝てない。だから国公立は落ちたら終わり。終わり。終わり……
「結局、あれだけ勉強しても……」
天馬はおれの話を少しも聞かず、パソコンをずっと見つめていた。そして、口を開いた。
「お前さあ、英語高くね? 何この点数。どうやって取るのあのテストで。意味わかんね」
「ん? ああ、音読で……」
「おれなんて、英語と国語全然ダメだったよ。英語なんて6割いかなかった」
「え……え!? そ、そうなの……」
「うん。でも、物理が9割いったから、物理傾斜配点の医学部国公立、探したらあったから」
真顔で、パソコンの画面を見ながらペラペラ話していく。
「傾斜配点、か……」
「そうそう。傾斜で……」
……ちょっと待って。
すぐにマウスを手に持ち、検索欄にカーソルを合わせた。
何も考えず、「東京外国語大学」って入力していた。
結果は……D判定!
は!? なんで!? あの超名門の東外大で、あの点数でなんで!?
そして、「神戸市外国語大学」って入力した。
判定、C。下に、あと3点足りなければDです、なんていう注意書きが出ていた。
天馬の方を見た。涙でグッシャグシャな顔で。
天馬はニヤッと笑った。
そして、軽く肩パンして、そのまま教室を出て行った。
傾斜配点。基本的に、共通テストは各教科配点が決まっていて、国立の総合大学は大体同じ配点になる。
しかし、学部学科が偏った大学は、その学問に沿った配点になることがある。
例えば理工系。物理を通常の3倍換算なんていう大学もあったりする。
これ、か。
極端に平均が低い年に、いつも通りの結果を英語で残した、から。
外国語系の大学なんて、全く見てなかった。社会系になんとなく行きたいって思って、経済学部とか、人文社会とか、そういうのばっか調べてたから。
『舞の友達のお姉ちゃんが、愛知県立外語大学 に受かったらしいよ』
だいぶ前に母親が口にしていたこの言葉を思い出した。
何気ない会話だったけど、あの時の俺にとって、彩先輩が国公立に受かった事実は結構、悔しかったから。覚えていた。
愛知県立外語大学。偏差値は55〜60。
一回だけ、模試で書いたことある。あの時。初めて三重大と静大でC判定が出た時。名国大の、外国語学部、国際社会学科。唯一社会系の学科で、三大都市圏だから、みたいな思いつきで。その時の結果はもちろんE判定だった。
震える手で、その大学の名前を入れた。
結果は……B判定!!
待って本当に!? 受験サイトのパストナビで配点を調べる。
英語・国語に超傾斜。国際社会学科で調べたからかな、今回うまく行った公民にも傾斜がかかっている! 理科基礎・日本史・数学の配点が低い……そっか、いつものおれなら確実にE判定だけど、今回の、今回のおれの共通テストの結果がたまたま、この大学の傾斜配点に、ピッタリマッチしているのか……!
ずっと、不安だった。3年間ずーっと。不安、というか正直、ずーっと、絶望していた。
本当に国公立に行ける、なんて、本当は、思ってなかった、から。
それでも、努力した。
とにかく努力した。
結果は、静大も、三重大もE判定。まあそりゃそうだって、泣きながらも思っていた。
そんな時に、天馬に気づかされて。
意外な展開で。まさかの展開で。
射程圏内に、神戸市外国語大学とか、愛知県立外語とかが入ってきた。しかも、あの超名門、東京外国語大学で、D判定が取れるなんて、思ってもいなかった。外国語学部なんて考えてもいなかったし、対策もしていないし。
やっぱ、共テって、何が起こるかわからない。
……ていうか。
いける。
いける!!
いけるかもやん!! 本当に!! 国公立!!!
次の日の学校、昼下がり。岩田が前を歩いている。
話しかけないほうがいいかな。共テ上手く行ってなかったらどうしよ……
でも。
岩田は、ずっと一緒に、追試とかのプレッシャーと戦ってきた仲間だから。
なにか、ヒントをくれるかもしれない。
「岩田! 久しぶり」
「久しぶり。共通テスト、どうだった?」
「まあまあ、できたよ」
「おれも! 同志社大学、射程圏内だって! しかもチャレンジで早稲田も、もしかしたら行けるかも!」
「マジで!?おれたち、頑張ったな。あそこから」
「ああ。あの、追試地獄から、這い上がったんだよな」
「うん」
「二次試験も、頑張ろうな」
「おう」
おれたちは、グータッチをした。
そうか、岩田は国語が苦手だったから、有名私立志望に転換して理系を対策したのか。結果、同志社、早稲田を射程圏内に入れられた……!
冷静に考えればそうだ。この高校、偏差値60を超える高校だ。3年間、ずっといたから忘れてたけど、ここ受かった時、すごく嬉しくて、喜んだもんな。
赤点とか追試って、苦手な教科につくから、全教科受験の定期テストと違って、大学受験は、配点を調節できるから、赤点だから頭悪い、とか、言えない世界なんだ。
頭で分かってはいたけど、やっぱ、共テ終わると色々、実感する。分かってくる。受験戦争は、定期テストみたいな、真面目な奴が勝つ、とか、地頭いい奴が勝つ、とか、努力すれば、とかではない。
受験は、残酷で、理不尽で、トリッキーで、運ゲーで、正攻法が存在しない。正攻法があると信じた奴が負けるような世界。でもだからこそ、必勝法が、攻略法が、無数のパターン存在して、それを上手く利用したものが勝つ。これが、受験戦争の本質か。
1年以上前から定期テストより模試を重視していた天馬は、これにすでに気づいていたから、なのか。そっか、あいつは医学部志望の天才……
国際社会学科。
1、2年は英語能力を高めつつ、国際の基礎を勉強します。3年生からは国際文化コースと国際社会コースに分かれ、国際社会コースでは国際経済や国際法、グローバル金融などを勉強します……。
結構、面白そう。
公民好きだから、公民の勉強深められるのか!
経済学部ばっか調べてたから見えてこなかった景色。
外語大の外国語学部にこんな学科があるなんて、全然知らなかった。
ここにいけば、経済も法律も社会学も国際も、勉強できるのか……!
超いいじゃん!!!
最終進路希望調査の紙に、愛知県立外語学部の外国語学部、国際社会学科を書いた。
そして、欄外に、「ここをどうしても受けたい!」って書いておいた。職員会議で却下されないようにする対策で。
担任の先生とも面談を重ね、国公立二次試験は、愛知県立外語大学に出願した。
そして。
運命の2次試験が、始まる。




