表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

第10話

 アンジュリーのオフェリアへの心配をよそに、ポーリアはアンジュリーだけを馬車で商会へと運んだ。ポーリアは、「お嬢のことは心配するだけ無駄っスよ。殺しても死なないっスから。」と飄々としている。


 無事に商会に着くと、商館のエントランスで、ゴシック様ドレスを着た見慣れぬ眼鏡女が待っていた。黒髪ロングヘアの彼女は、貴族然とした立ち振る舞いをしているように見えるが、どこか不穏なオーラを放っている。


「ノルトライン公爵令嬢、アンナ=ユリア・フォン・ノルトライン様ですね・・。」


 アンジュリーは、警戒しながら、彼女の意図を図ろうとする。


「違うと言ったら・・?」

「そんなはずはありません。アンナ=ユリア様。」

「・・・それより、貴女は?」

「大変失礼いたしました。わたしは、王宮秘書室のミオ・サラサトゥリエ。リーゼロッテ殿下担当をしております。」


 ミオと名乗った女は、凍っているかのような無表情のままアンジュリーに応える。彼女の視点はどこかうつろげで、どこを見ているかわからない不気味さを感じた。


「わたしは、リーゼロッテ殿下より、貴女を王宮へとお連れするよう、申しつかっております。」

「どういうこと・・・?リーゼは私に逃げるようにと・・・。」

「そのままでございます。殿下は貴女に早く来てほしいと、そういっておいでです。」


 アンジュリーは、この女の発言を訝しみ、剣の柄に手をかける。彼女の挙動を見定めようとするアンジュリーを、見透かすようなを瞳で見つめる。

まるで蛇ににらまれた小動物のように、アンジュリーは動くことができない。その瞳は宇宙を煮詰めたような紫色をしており、のぞき込むと、そのまま精神を吸い取られそうな気持にさえなる。だが、目線をそらせない。


「わたしと剣を交えますか?やめたほうが良いでしょう。商館で武器を抜くのは、その商会への敵対行為ですから。」

「でも、今、貴女を信用できる証拠がないわ。」

「それに、こちらをご覧ください。」


 ミオは懐から手紙を取り出し、アンジュリーに渡してきた。リーゼロッテの直筆のサインがある。そこには、「オスカール家のたくらみの真相がわかった、一度話がしたい」と記載されている。


 いまいち明瞭としない手紙の内容ながらも、アンジュリーにはその手紙のサインは本物だということがわかる。


「手紙はわかったけれど、貴女は本当に王宮秘書室の人間なの?貴女みたいな人が居たら覚えていると思うのだけれど、王宮では一度も見たことないよ。」

「アンナ=ユリア様が、わたしを見たことないのは当然でございます。最近不穏ですから、警備増強のためと雇用された傭兵ですから。」

「また傭兵・・・。」


 道理でその圧が強いわけである。


「ことは急を要します。王宮馬車をご用意させていただいております。同行いただけますね。」

「リーゼがいうなら、行くしかないわね。」


 アンジュリーは、仕方なく彼女に同行して再び王宮へと向かうことにした。ポーリアは、オフェリアの準備どおり逃げなくてもよいのか心配している。オフィリアが、帰ってくるまで待った方がよいといったが、リーゼロッテの火急の用を無下にするわけにもいかない。

 若干の胸騒ぎを覚えるアンジュリーであったが、もし罠であったとしても、さきほど翡翠の魔法少女を倒したこの剣の力があれば、2人を相手にしてもなんとかなるのではなかろうか。急ぎ、アンジュリーはミオが用意した馬車に乗り込んだ。ミオが御者に合図すると馬車が走り出した。


「ミオさん。あなたは、魔法少女について知っているのですか。」

「魔法少女?とは?・・なるほど、魔女との契約者のことですか。」

「やはり、知っているのね。」

「傭兵というのは、雇い主の命令次第では、いろいろな相手と戦うものです。」

「戦ったことがあるの?」

「ええ。もちろん、狩り方も心得ております。」


 ミオは表情を変えずに、ぞくりと背筋を凍り付かせるようなことを言い放つ。


「もし、王宮に悪い魔法少女が入り込んでいるとしたら、貴女ならどうする。」

「どうするとは?わたしは、傭兵です。雇い主に従って行動するまで、殺せと命じられれば殺すのみです。」


 ミオの言葉には、真実味があった。彼女なら、相手が魔女だろうと殺しにいくのかもしれない。馬車の中で沈黙が続いた。


「・・・さて、王宮に到着しました。アンナ=ユリア様。ご準備を。」


 かくして、王宮に連れてこられたアンジュリーだったが、どこか嫌な雰囲気が漂っている。馬車をおりたところで出迎えの兵士も御者もいない。しかも、振り返るとミオの姿は消えていた。

最初に宮殿から出てきたのは、リーゼロッテ本人だった。だがその足取りはおぼつかないようである。


「あ・・・んな・・・」

「リーゼ!?」

「・・にげて・・わな・・」


 アンジュリーを出迎えたリーゼロッテの様子がおかしい。リーゼロッテは、焦点の定まらぬ顔で、アンジュリーを見つめるが、しばらくしてぷつりと糸が切れたように、力が抜けて地面に座り込んだ。

その様子を伺いながら、リーゼロッテの後ろから現れたのは、マルチェリーナとルシアンヌだった。


「おまえたち・・!リーゼに・・殿下に何を・・!?」

「何をとは失礼ですね。殿下は我々の理念に深く賛同してくださいましたのよ。」

「理念!?これが?」

「ええ、少し熱く語り合いすぎて、疲れてしまったのでしょう。」

「そんなはず・・・それに、ヴェロニカはどうしたの・・。」

「ヴェロニカ?ああ、あの汚い東方犬か・・。反逆者のスパイ疑惑があって、殿下をたぶらかした罪で、厳しい取り調べを受けているところさ。反逆者の仲間を吐かないと嬲り殺されるかもね。」

「・・・そ、そんな・・!?」

「当然の報いです。」

「・・・させない・・。それにリーゼも正気に戻す・・!」

「ああ、暴れるというのですか?」


 アンジュリーは、変身と同時に剣を抜くが、それを見たマルチェリーナは、自らの杖の先をリーゼロッテの首にあてる。すると、リーゼロッテが苦しそうなうめき声をあげた。


「あらあら、女暗殺者が再び戻ってきて、リーゼロッテ殿下を暗殺した・・・なんて明日の新聞に載ってしまいますねぇ・・。」

「やめて!」


 剣を下ろし、魔法を解除する。


「でも・・そっちがその気なら・・・キリエッ!!!」


 その代わり、アンジュリーは、自らの影を差して、魔女を呼ぶ。


 だが、その呼び声に応えるものはいない。


「キリエ・・・どうして・・・。」

「キリエ様とは、この魔女のことでしょうか。」


 背後から、紫色の光で四肢を縛られ、空中に拘束されているキリエが現れた。そしてそれを操る影が一人。


「あら、魔女さま。お手を煩わせてしまって申し訳ございません。」


 マルチェリーナが、魔女さまと呼んだ相手は、ミオだった。


「魔女さま!?ミオさんが?」

「こんにちは。わたしは混沌の魔女ミオ・サラサトゥリエ。改めましてこんにちは。マルチェリーナ様の契約魔女です。」


 彼女は無表情のまま応える。瞳の奥の六芒星がはっきりと見える。それは、クロウリーの六芒星と呼ばれる魔法陣である。


「さきほど、アンナ=ユリア様は、わたしが、スクラーヴェを戦ったことがあるかとお聞きになりましたよね。わたしは狩り方を心得ていると返しました。すなわち、スクラーヴェを狩るには、その契約魔女を殺せばいいわけです。」


 アンジュリーは、ミオの口元から、ちらりと舌ピアスが覗くのが見える。見てはいけないものをみたような感覚に襲われたアンジュリーはふと目をそらそうとしたが、それを見たミオが、はじめて微笑んだことに気づいた。


「ごめんなさい、アンジュリー。商会についた瞬間からこいつに拘束されてたの。もっと早く気づければ警告できたのに。」

「どうして・・!?」

「こいつは、半分の獣と呼ばれる魔女。一切の魔力を無効化して、精神に干渉する力を持っている。マルチェリーナの契約者がこいつだという可能性に気づけていれば、もうすこし警戒できたのに、ごめんなさい、私の落ち度よ。」


 キリエの謝罪を遮り、ミオがアンジュリーの顎を指でなぞる。


「アンナ=ユリア様。貴女は実に愛らしいお方です。このような光を愛せない魔女ではなく、わたしと再契約をなさる気はございませんか。」

「魔女様?」

「これは失礼しました、マルチェリーナ様。」


 アンジュリーにヘッドハンティングをもちかけるミオを、マルチェリーナが諫める。依然として、マルチェリーナはリーゼロッテを人質にしており、キリエという切り札も失ったアンジュリーは、大人しく彼女らの言うことを聞くほかなかった。

 そんなアンジュリーに、マルチェリーナが勝ち誇った顔で吐き捨てる。


「茶番はこりごりですわ、アンナ=ユリア・・・ではなく、アンナ=ユリア嬢を騙る刺客さん。では、大人しく拘束されていただけますね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ