公爵夫人らに絡まれしたが、礼儀作法の先生の登場で逆に頭を下げられてしまいました
王宮に着いた時、ペトラ先生のお説教で、私は既に疲労困憊の状態だった。
本来は初めての王宮で緊張するはずが、これでペトラ先生の叱責が終わるとホッとしてしまったのだ。
王宮の入り口でイケメンの騎士が扉を開けてくれた。
凄い、王宮は騎士までイケメンなんだ。
その騎士は紳士で手を出してくれたのだ。
「ありがとうございます」
私はその手を取って飛び降りてしまったのだ……
「ニーナさん!」
叱責の声が飛んだ。
そうだった。私はペトラ先生の前にいたのだった。
これで逃げられると安心して、思わず飛び出してしまったのだ。
そんなのが許されるわけはなかった。
「やり直しなさい」
「えっ?」
私は王宮の入り口で皆の見ている前でちゃんとできるまで4回ほどやり直させられたのだ。
イケメンの騎士も何回も付き合わされて顔が引きつっていた……
周りの皆も可哀そうなものを見る様に私達をみてくれた。
私は出来たら穴を掘って隠れたかった。
そんな破廉恥な行為をさせられて、私はペトラ先生に引き連れられて王宮の中をズンズンと中に入っていった。
白亜の城壁で囲まれた王宮はとてもきれいて壮大だった。
私は次々に現れる建物をお上りさんよろしく見ていたのだ。
「ニーナさん。田舎者みたいにキョロキョロしない」
「す、すみません」
私は慌てて前を向いた。
目だけで見るようにする。
このまま、ペトラ先生に連れられて魔法師団長のところまで連れて行かれるのだろうか?
でも、ひょっとしなくても、今日は魔法師団長と一緒に礼儀作法の授業になるんじゃないか……
私は最悪の状態を想像してしまった。
そんな、私休日が……
私の悲惨な想像などものともせずにペトラ先生はどんどん歩いていく。
そして、建物がどんどん立派になっていくんだけど……
絨毯が立派になって、飾ってある装飾も私が見ても高価だと判るものが増えてきた。
そして、金ピカの制服を来た騎士が守っている大きな建物の前で、
「ニーナさん、少し待っていなさい」
ペトラ先生は私を待たせて建物の中に入っていったのだ。
私はホッとした。
「あーーーーら、こんなところで平民のあなたに会うなんて、なんて場違いなのでしょう」
しかし、私は一番会いたくない人物に会ったのだ。
そこにはA組のユリアナがいたのだ。
隣にはでっぷり肥えたけばけばしい衣装のおばさんを連れていた。
「ユリアナ、この女は誰なの?」
おばさんがユリアナに聞いていた。
「さあ、名前は存じませんわ。お母様」
お、お母様?
私は唖然とした。
ユリアナが母ということはこの女は公爵夫人だ。
完全に雲の上の存在だ。
「名前を知らない?」
公爵夫人が怪訝そうな顔でユリアナを見る。
「そうよ。お母様。この女は平民のくせに、厚かましくも第一王子殿下の周りをウロウロしている野良猫ですの」
「何まですって! この女が殿下が何をトチ狂われたか、あの礼儀作法も全く知らない娘を贔屓にしているという平民の女なの!」
目を吊り上げてユリアナの母は叫んでいた。
そして、私の頭の先からつま先まで見ると、
「そんな女が何故、王宮にいるの?」
「さあ、大方約束もなしに来て、あわ良くば殿下に声をかけようと思ったのでは?」
「なんて事なの! 本当に厚かましい、平民の女ね。ここはあなたみたいな下賤のものがいて良いところではないわ。直ちに帰りなさい」
私はユリアナの母に言われたのだ。
「うっ、でも」
私は出来たらこのおばさんの言うようにここから逃げかえりたかった。
このおばさんも怖いし。
でも、申し訳ないがペトラ先生の方がもっと怖かったのだ。
「なんなのこの女。公爵夫人の私が言うことが聞けないの」
眉を吊り上げて怒り出すと、
「そこのあなた」
公爵夫人は侍女を呼び止めたのだ。
「はい。公爵夫人」
ある程度の地位にありそうな侍女が慌てて飛んできた。
「何の間違いか知らないけれど、ここに下賤な女が紛れ込んでいるわ。直ちにつまみ出して」
「はい。わかりました」
侍女は私の手を掴んで連れて行こうとした。
「ちょっと止めてよ。私は王宮からの呼び出しで」
「何を言っているのよ。勝手なことを言って」
「そうよ。あなたなんか下賤なものが王宮から呼ばれるわけはないでしょう。どうせ、かつてに王宮に来て、殿下に声をかけようとしているのね」
「ちょっとそこのあなたもこの女をつまみ出すのを手伝いなさい」
公爵夫人は側にいた騎士たちにも声をかけたのだ。
「どうしました」
「この下賤な女が王宮に忍び込んだみたいなの」
「何だと」
騎士たちが慌てて私の腕を掴んだのだ。
「ちょっと離しなさいよ」
私が叫んだが騎士たちはびくともしない。
ユリアナが笑ったのが見えた。
「お待ち無さい。何をしているのです!」
そこにペトラ先生の声が響いたのだ。
「ああああら、ペトラ先生。こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
ユリアナは微笑んで言った。
こいつは凄い。不機嫌なペトラ先生の前でびくともしていないのだ。さすが公爵令嬢だと私は思った。
「私は母と王宮に潜り込んだ野良猫を王宮の外につまみ出せと依頼しているところですわ」
ユリアナが得意げに言ってくれるんだけど。
でも、後ろのおばさんの様子が今までと違って少し変だ。必死にユリアナに何か合図を送っているんだけど、ユリアナは気付かない。
ペトラ先生はユリアナの母を見るとにこりと笑った。いや、でも、目が笑っていない。
「エーミルさん。お久しぶりですね」
「はい、ペトラ先生」
今まで尊大に構えていた夫人が急に大人しくなった。いや、少し震えているような気がするのは気のせいだろうか?
「あなた、娘の教育もまともにできていないのかしら」
ギロリとペトラ先生は公爵夫人を睨みつけるんだけど。
「えっ、ペトラ先生。あなた公爵夫人の私の母にその言い方はないので……」
「止めなさい。ユリアナ」
公爵夫人は慌ててユリアナの口を塞いだ。
「も、申し訳ありません。ペトラ先生」
慌てて公爵夫人が頭を下げたのだ。
それにはユリアナまで呆然としてみていた。
「私はあなたの学生時代に口を酸っぱくして言ったことがありました。覚えていないとは言わせませんよ」
「いえ、その」
「言いなさい」
「はい。学園在学中は身分の差で差別することを禁じるです」
何故か公爵夫人が直立不動なんだけど。
「そう。なのに、今の貴女の娘の言動はなんですか。この子は制服を着ていますよね。すなわち学園生です。その子を野良猫と呼ばすとは、どういう教育をしているのですか」
「いえ、あの、その」
「どういうことなのです。エーミルさん」
返事もままならない公爵夫人に切れたペトラ先生が一喝した。
「も、申し訳ありません」
公爵夫人は真っ青になって頭を下げている。礼儀作法の時に習った謝る姿勢だ。やっばりペトラ先生は公爵夫人よりも偉かったのだ。
「あなたも謝りなさい」
「でもお母様」
「さっさとしなさい」
抵抗しようとしたユリアナの頭を思いっきり下げさせる。
「私ではないでしょう。謝る相手が違います」
ペトラ先生は私をの方を向いて言ったのだ。
「えっ、しかし」
「エーミルさん。私は今から妃殿下にお会いするのですが」
「申し訳ありませんでした」
公爵夫人が頭を私に下げてきたのだ。
ええええ!
私は唖然とした。
「ユリアナも早く謝りなさい」
「申し訳ありませんでした」
不平不満ありありの顔でユリアナが頭を下げてくれた。
何これ? 宇宙の星の高さくらい偉い公爵夫人とその令嬢から頭を下げられてしまった。
私は完全に固まってしまったのだ。
御忙しい中ここまで読んで頂いて有難うございました。





