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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
十 争うもの
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百十六 押し寄せるもの

 白星が酒呑童子を討ち、大江山の支配権を掌握した頃。


 信濃の反乱軍と相対する鹿島が軍は、小競り合いに痺れを切らし全軍突撃の狼煙を上げていた。


 これ以上無為に時間を浪費すれば、反乱軍の数が一方的に増え続けるだけだと判断したのだ。


 鹿島が兵は全軍一丸となって正面突破の陣を組んで諏訪部の本陣へ突っ込んできていた。


 しかし反乱軍も備えがなかった訳ではない。


 中央に屈強な土蜘蛛の兵を配して敵の勢いを殺し、左右に広げた別動隊にて左右を覆い囲む鶴翼かくよくの陣と呼ばれる陣形をもって、鹿島軍の包囲に成功していた。


 後は数に任せて押し潰すだけに思われたが、さすがは歴戦の猛者揃いである鹿島が兵。包囲が完了した後も、恐慌に陥ることなく反撃に転じ、一進一退の戦を繰り広げていた。



「策はうまくはまったが、今一つ決め手に欠けるか。どうやら鹿島が兵を舐めていたようだ」


 前線からの報告を聞き、本陣に座す諏訪部高取は唸った。


「ええ。よもやここまで奮戦されるとは思いもしませんでした。逆にこちらの士気に関わる程の闘志ですね」


 共に報告を聞いていた福一の顔にも、常の余裕が見られない。それ程に両軍の戦力は拮抗していたのだ。


 万が一このまま中央が突破されれば、本陣を守るのは鍛錬を受ける間もなく戦場に立ったずぶの素人ばかりである。とても鹿島の進軍を止める事などできないだろう。


 そもそもが鶴翼の陣にて左右からの包囲で敵の戦意を削ぐのが第一の策であったのだ。両翼に加わった兵達も鍛錬半ばで、数合わせのため選ばれた者も多い。

 敵に動揺がなかった今、正面を支える土蜘蛛らの踏ん張りに全てがかかっていた。


 高取と福一が不安げな様子で戦況を見詰めているその時だった。


 戦場の中央にて、爆発のような破壊音が轟いた。


「おお、間に合ったようですね」


 福一の顔に喜色が灯り、高取と頷き合う。


 鶴翼の陣を用いるにあたり、土蜘蛛隊の一部を分け、戦場の中央と予想される場所に地下から落とし穴を掘らせていたのだ。


 地下へ引きずり込んでしまえば、後は土蜘蛛達の独壇場である。

 流石の鹿島兵もこの一計には対応できず、次々と大穴に消えて行った。


 鹿島兵のほとんどが地下に落ちた事を確認すると、作戦は次の段階へと移り、穴の縁にずらりと弓兵が並び、仕留め損なった鹿島兵を狙い撃ちにしてゆく。


 土蜘蛛達は固い皮膚を有しており、弓の類は受け付けない。そのため同士討ちは気にせず射撃ができるという寸法だった。


 地下に落ちて怪我をした者は打猿と国麿率いる土蜘蛛隊に止めを刺され、運よく無事だった者も弓矢の餌食となり、鹿島が兵は瞬く間にその数を減らして行く。


 第一波における突撃を受け止めた中央の軍の被害こそ大きかったものの、反乱軍が勝鬨かちどきを上げるのも時間の問題であった。

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