百八 進むもの
東の鹿島軍と反乱軍の小競り合いがいよいよ始まり、朝廷の注意が戦に向いたと判断した白星は、すっかり快癒した身体をもって即座に動き出した。
行く先は帝都の北西。鬼の総本山と謳われる大江山である。
白星の想定した通り、帝都の北の守りは薄く、街道の巡回兵も少なかった。
そも一般兵では白星の隠形を見破ることすら叶わぬこと。
横を星子と雑談しつつすれ違っても、全く気付かれることはなかった。
「ふむ。帝都には力ある術師がおらぬという健速の言はまことのようだの」
「みたいだね。もしいたら、見張りの兵士に隠形を見破る術くらい教えるよね」
白星の呟きに、星子が肯定の頷きを返した。
「うむ。なればこそ、黒き衣の者の意図がわからぬのよ。確かに国の兵と行動を共にしながら、その術は教授しておらぬときた。まるで利用だけしておるように思えるの」
「……帝都の人達は騙されてるのかな?」
「それはまだわからぬ。国の中にも派閥がいくつかあるらしいでな。それぞれの思惑が絡まり合っておるのやも知れぬ。それを解くには、わしらの手持ちの情報はあまりに少ない」
「そっか……でも、何のためかは知らないけど、須佐の里を滅ぼした事だけは絶対許せない……!」
肩を落としつつも、瞳に怨嗟の焔を燃やす星子に、白星は笑みをこぼした。
「うむ。それでよい。相手の出方がわからぬ以上、仇討の初志を貫くのみよ。それを万全とするために、わしもこうして首を集めておるのだからの」
白星は言いながら懐から地図を取り出すと、福一から聞いていた勢力図を重ね合わせた。
「そろそろ帝都の支配圏を抜け、鬼の跋扈する地に入るようだの。覚悟はよいか、星子や」
「……あのね、白星」
「うむ?」
意気揚々と踏み出そうとした白星に、星子が俯き加減で尋ねる。
「首が全部揃ったら、白星はどうなっちゃうの? 八岐大蛇になって、帝都だけじゃなく国全部の敵になっちゃうのかな」
「かか。それはわからぬ。しかし、六つ集めてもわしはこうして変わらぬであろ? 仮に八つ揃い、この身が変化したところで、ぬしとの盟約を反故にすることはあり得ぬ。それほど、我等神霊にとっては盟約とは絶対のものなのよ」
「本当?」
「かか。わしが嘘をついたことがあるか?」
「……そうだね。意地悪はいっぱい言うけど、嘘は言わないもんね」
「安心したならば、そろそろ引っ込んでおれ。出迎えが来おったでな」
星子をお守りに押し込めると、白星は目前を流し見た。
まだ距離はあるものの、大小様々な鬼が群れを成しているのが視界に入る。
「さて。まずは大江の尖兵が力、見せてもらうとするかの」
地に打ち付けた白鞘が、不敵に微笑む白星に呼応するようかつりと鳴った。




