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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
十 争うもの
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百五 揃えるもの

「信濃の布陣は滞りなく進んでいるようだ。我々も事を急がねばなるまい」


 福一との蜃での連絡を終えた健速は、軍議の場に揃った面々を見回した。


 土蜘蛛御殿の庭先に据えた机を囲むのは、御殿の主、五馬。

 大黒屋改め須佐の民代表として健速に、補佐として千歳が。

 熊野からは領主、熊野芦名が。

 そして先日合流した白路の民より、白銀の毛皮持つ巨大な狼達の長が、頭を低く伏せて人の視線に合わせていた。


「元々物資は足りておりますのでそちらの心配はありませんが、信濃に比べ、こちらは少々兵が足りません」


 健速の発言を受け、千歳が淀みなく現状を説明する。


 熊野の直下の兵が二千。

 須佐の民が二百。

 土蜘蛛衆が五百。

 伊勢より結集した新兵が千。

 そして新たに参じた白路の民五十を加えても三千七百と五十の少数であった。


 しかし各長達もその点は認識しているため、質問の類は出ない。


「うむ。そこは質と策で補うしかあるまい。練度の高い熊野の兵と土蜘蛛を中央に据え、我等須佐の術師と、白路の民で両翼を補佐。後方に育成中の新兵を配するのがよかろうと思うが、如何か」

「……白星殿は我等を直接戦に使わぬとは言われたが、同胞が危機とあらば立たぬわけにはいくまい」

「我等も対岸の火事ではない故な。異論はない」


 健速の言葉に、芦名と五馬がそれぞれ頷く。


「待たれよ」


 しかし白路の長が流れを止めた。


 健速が目を合わせ、問いを発する。


「何かな、白路殿」

「我等白路の民は、人の戦に慣れていない。故に足並みを揃えて戦うにはいささか不安が残る」

「では如何すると?」

「我等のみで先陣を切り、敵軍の陣形を食い破って見せよう。天津の兵は異能の者と聞く。異能には異能。我等あやかしをまずぶつけるのが得策であろう?」

「……なるほど。鹿島が軍は膂力りょりょくこそあれど、敏捷性に乏しい。貴殿らの速さをもって襲い掛かれば、恐慌に陥れることは可能か」


 一考した健速が、納得したように髭を撫でる。


「しかし白路の民は寡兵……五十あまりと聞いている。体格では勝るとは言え、少々危険ではあるまいか?」


 芦名が心配気に声を上げるも、健速はにやりと笑って見せた。


「何、馬鹿正直に正面より突っ込むことはない。我等須佐の隠形術をかけて、奇襲をかけるのは如何かな?」

「ほほ。よいのではないか。一手目で戦場を乱し、我等一軍が突っ込めば後は乱戦となる。その後は各々遊撃に回ってもらえばよかろう」


 賛同した五馬が流し目を送ると、白狼はわずかに頭を上げて頷いて見せる。


「名誉ある先陣を駆けられるならば、それで異存はない。白星様の名に賭けて、見事役目を果たして見せよう」

「これは心強い。聞けば白路の民は、白星殿の最初の眷属とのこと。我等の内で最も白星殿の加護が強いはず。そうそう心配は要らぬであろう。どうかな、芦名殿。まだ不安な点はおありかな?」

「いや、安心した。先手を任せよう。ただ、くれぐれも無茶はしてくれるな。我等も同じ白星様の信徒。背後は任せてもらおう」

「うむ。ようやく白星様のお役に立てる時が来た。存分に暴れさせてもらう」

「応!」


 落ち着くところに収まり、それぞれが不敵な笑みを浮かべて頷き合った。


「続いて挙兵の機だが、まず信濃が狼煙を上げてから……」


 その後も軍議は詳細を詰める為に続いた。



 南の兵、熊野、土蜘蛛、須佐、白路の同盟軍も、士気は旺盛。着々と戦支度を整えていた。


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