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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
十 争うもの
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百四 削るもの

 諏訪部すわべ高取たかとりによる募兵は順調に進んでいた。


 土蜘蛛の協力を得られた事で、鹿島の兵に気付かれぬよう、地下の隧道を通って移動できるようになったためだ。


 これにて参加を表明しながらも、鹿島の兵に分断されていた後発組も無事合流する事が可能となり、関東の各地から続々と有志が集まってきている。


 その間、福一や打猿、国麿らも、客将として何もしていなかった訳ではない。


 反乱軍同様に、本隊へ招集を受けた鹿島兵を、合流される前の小さな集団のうちに襲撃し、少しずつその数を減らしていた。


 中将貞頼の戦死により、ただでさえ士気の低い鹿島が末端の兵らは、福一により隠形を施された土蜘蛛兄弟の奇襲に耐えられず、容易に蹴散らす事ができた。


 こうした事前の工作により、鹿島の陣営は予定より兵の集合が遅れ、かつその数も本来より大分少ないものとなっていた。


 しかし打猿らも、襲った隊の全てを殲滅できた訳ではない。

 そうして振るいにかけられ、生存して本隊に合流した鹿島兵は、逆に怒りを燃やし、士気が高まっていた。


 言うなれば、土蜘蛛に対抗できる精鋭が、鹿島軍本隊を占める状態になったとも取れた。




「やれやれ。誤算でしたね。削りはもうこのくらいにしておきましょうか」


 地図上にて駒を配していた福一が、溜め息と共に提案した。


 軍議の場には福一の他に、総大将の高取、土蜘蛛代表の打猿国麿兄弟が顔を揃えていた。


「なんでえ、福一。おれらはまだやれるぞ」

「そうだぞお。もっと鹿島の奴らぶっとばしてえ」


 能面に明らかな不満を表すと、土蜘蛛兄弟が騒ぎ出す。


「いえ。いくら我々が神出鬼没の作戦を取っているとはいえ、相手方もそろそろ黙ってはいないでしょう。これ以上刺激すれば、兵が集まる前に戦端を切って来る可能性があります」

「それなら返り討ちにすればいいじゃねえが。なあ?」

「兄貴の言う通りだ。まとめで蹴散らすいい機会だぞ」


 意気揚々と爪を鳴らす兄弟へ、福一は首を振ってみせた。


「我が軍も、兵の招集が済んだ訳ではないのをお忘れなく。そして鹿島が兵は一人でも侮れぬ古強者揃い。これまでは奇襲でなんとかなっていましたが、正面からぶつかるとなれば、お二人はともかく他の兵がもちません」


 福一が宥めるように説明するのに追随して、高取が口を開く。


「うむ……奴らとは度々合同演習をしたものだが、天津人というものは伊達ではなく強きものよ。それにこんな噂も聞いておるぞ。帝都から熊野の道中に潜んだまつろわぬ者ども数千を、たったの五百で制圧したと言うではないか。いかにごろつきどもが相手だとは言え、並の兵ではそうはいくまい」


 福一の言を補強する説を総大将が言い出せば、客将である土蜘蛛兄弟は顔を見合わせて黙るしかない。


「今後は来たる戦に向けて、練兵に励むのが吉と思いますが、いかがでしょう」

「それがよかろうな。打猿殿、国麿殿は、我が軍にとっても最も大事な戦力故、つまらぬ小競り合いで怪我でもされては敵わぬからな。今はしばし身体を休め、本番にて大暴れしてもらいたい」


 期待に満ちた視線を受け、土蜘蛛兄弟は不承不承頷いた。


「そういう事ならしょうがねえな。ちょっとの我慢だ」

「そうだな、兄貴。ここは力を溜めでおこうぜ」


 福一と高取の冷静な判断により、反乱軍の戦支度は堅実に整いつつあった。

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