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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
幕間 六
104/172

百三 圧

「御屋形様。戦が近うござりまする」

「そうかえ」


 芦屋道子が畳の上へ跪いて報告するのに対し、伊勢政子いせのまさこは大した関心も見せずに一言返すのみだった。


「御屋形様のお考え通り、重税にあえいだ民らが東方にて決起したようにござりまするな。いやはや、敢えて重税を課すことで反乱分子をいぶり出すとは、流石のご手腕。不肖わたくしめ、感服し切りでござりまする」

「ほほ。心にもないことを。お前でも同じことをしただろう?」

「とんでもござりませぬ。わたくしめなど、御屋形様の御命令があってこそ、ようやく人並みに動ける木偶でく人形にてござりますれば。これからも、なんなりとお申し付けくださいませ」

「まこと食えぬ女よ。まあよいわ」


 謙遜し平伏する道子をちらりと一瞥するも、すぐに庭の枯山水へと視線を戻す政子。


「それにしても、たかだか税を倍にした程度でもう根を上げるとはのう。大人しゅう差し出せば儲けものであったものを。いささかがっかりしたわえ」

「まったくでござりまするな。帝の庇護を受けていたにも関わらず、あっさりと反旗を翻すなど、言語道断に存じまする」


 道子の賛同に、ぱちりと朱塗りの扇をひらく政子。


「まあよい。歯向かうと言うのならば、叩き潰すまで。幸い、東方には既に用はなし。邪魔な豪族どもを一掃し、平らにならす良い機会であるな」


 政子の言は、反乱を鎮めた後、東方の土地を国の直轄領として接収することを意味していた。


「道子や。今現在、東方の守りはどうなっておる?」

「は。鹿島が軍が各地に点在しておりまするが、まとまれば五千程になるかと存じまする。しかし、中将貞頼殿が討ち死にした今や、後継者が未だ経験の浅いご子息にて。此度の戦の指揮は難しかろうと思われまする」


 道子の説明を聴いた政子はしばし思案顔を晒すと、扇をあおぎつつ口を開いた。


「なれば道子や。此度の戦、お前が鹿島の子倅こせがれに付くことを命ず。よいな、あくまで名目上はお前は軍師。正当な指揮官をないがしろにしたとあっては、後で鹿島の大将殿がうるさかろうて。少将の面目を潰さぬ程度にうまくおやり」

「これはこれは、難題でござりまするな。ですがご案じ召されるなかれ。このわたくしめ、承った仕事は完璧にこなすが信条にてござりますれば。御屋形様におかれましては、ご安心して吉報をお待ち頂けますよう」

「うむ。東方の田舎者どもを、残らず駆逐してみせよ」

「はは。仰せのままに」


 道子が一礼した後、影に溶けるように消え去ると、政子は口を弧の字に変えて笑みを作る。


「くく。天下分け目の大戦が始まろうぞ。魔性よ、次はどう動く?」


 政子の言を飲み込んだ枯山水を囲む木々は、わずかに紅葉が始まっていた。

 その色付きは、新たな戦の狼煙が上がったことを暗示しているようでもあった。


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