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逢魔が刻の一ツ星  作者: スズヤ ケイ
九 息吹くもの
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百一 整えるもの

「天下の物流を担う大黒屋から助力を得られるとは、なんたる僥倖ぎょうこう。改めて礼を申す」

「いえいえ、お互い様でございます。これ以上税を上げられては商売になりませんからね。反乱軍が国に勝って頂くための、言わば投資という訳ですよ」


 上機嫌で話す髭面の大男相手に、福一が揉み手をしつつ言を返す。


「くく。正直な事だな。そういう物言いは嫌いではない」


 髭を撫でさすりながら笑うのは、関東は信濃にて兵を募った豪族。名を諏訪部すわべ高取たかとりと言う。


「お褒めに与り光栄です」


 福一は普段から細い目を更に細めて、高取の酌を受け、これを飲み干した。


 白星の指示で土蜘蛛八十女が一つ、青の元へ向かった福一は、反乱軍に助力するよう説得し、次いで打猿達の場所を聞き出し先行して合流していた。


 そして健速に連絡した際に手配した物資を手土産に、諏訪部氏の元へと参じ、協力を取り付けたのだ。


「それにしても、大黒屋が土蜘蛛どもとも商いを行っていたとは驚きだった。あの鹿島が中将を討った軍勢が加勢してくれるとなれば、戦力として申し分ない」


 打猿らが関東を巡って説得をしてきた八十女衆も、すでに諏訪部の陣営に加わっていた。


 最初こそ化け物じみた土蜘蛛の姿に距離を取っていた反乱軍の兵達だが、高取が進んで打猿や国麿と杯を交わす事によってわだかまりは解け、今では種族の壁も無くどんちゃん騒ぎに興じている。


 福一もこの行為には大いに感銘を受け、高取に尊敬の念を抱いた。

 伊達に一地方の主、ましてや反乱を画する者。尋常ではない胆力を備えている、と。


 そもそも国と言う共通の敵がある。味方は多いに越した事は無いと皆が承知しているのだ。


 諏訪部氏は関東でも有数の大豪族である。

 霊域と名高い諏訪湖の龍穴を祀り、その恩恵に与ることで広大で豊かな領土に恵まれ、周辺地域への発言力も大きい。


 そんな諏訪部氏が号令をかけたのだ。呼応する豪族は多くにのぼり、続々と兵が集結している。

 その数、現時点でおよそ五千。土蜘蛛八十女を合わせて八千余り。


 参加を表明しつつも合流が遅れている分も鑑みれば、一万は下らぬ軍勢が出来上がる目算であった。


 しかし相手は国の精鋭、鹿島の軍。

 中将鹿島貞頼亡き今でも、関東に配された兵らの士気は落ちてはおらず、指揮系統も健在である。


 その数およそ五千ながら、屈強なる鹿島の兵は一人でも手強い。


 雑兵が一万集まったところで勝ち目が薄いのは、高取も理解していた。


「おぬしの進言通り、挙兵は今しばし遅らせよう。しかし、いつまで待てばよい」


 高取の問いに、酌を返しながら福一が答える。


「現在、熊野でも挙兵の準備を進めているのです。東南二方から同時に仕掛ければ、国軍も兵を分けざるを得ません。その方がずっと勝率が上がることでしょう」

「なんと。あの帝都直轄の熊野氏までが反旗を翻そうとしているだと。これは朗報よ」


 高取は笑みを大きくし、膝を叩いて喜びを表した。


「もちろん、あちらでも手前ども大黒屋が大々的にお力添えをするつもりです。ご安心ください」

「うむ。あちらはあちらで上手くやることを祈り、我等も最善を整えねばな」

「仰る通りでございます」


 諏訪部氏の信頼を得て、熊野氏との共闘を取り付ける。

 これで福一のひとまずの仕事は無事に済んだ。


 諏訪部高取が話のわかる傑物であったことに、福一は大いに感謝した。


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