魔道大会 ⑧
「で、さっきまでの記憶が無いと言う訳ね……」
「はい…………オェ……」
宿のベッドで死にそうな位に酷い顔をしたじいやが横たわっている。正直宿に戻るだけでも一苦労だった…………。
「貴方、魔方陣無しで魔法を使ってたわよ。……どう言う事かしら?」
「……ずみまぜん……わだじにもざっばりでふ…………」
じいやは怪しい嗚咽を繰り返し、もう戻す物が無いのに吐き気が止まらない苦しみで藻掻いている。
「…………でも……あの時のじいやは格好良かったわよ?」
「そ、ぞぅなんでふか……?」
不意に笑みがこぼれ、じいやが更に吐き気を催す。
この人にはまだまだ謎が沢山あるが、私は不思議と嫌な感じがしなかった。
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやずみなざいまぜ……オエッップ!」
──バタン……
自室へと戻り、ベッドに腰掛け頭の中を整理する。
じいやの失われた記憶は、きっともう一人の彼が何か知っている筈。あの時じいやは…………。
ゴロツキ風の男に蹴飛ばされ盛大に飛ばされたじいやが落ちた先……その先には酒樽があった。
──もしかしてお酒がキーなの!?
お酒を飲むと性格が変わるタイプの人だったとは……。
……!!
そう言えば魔道学校とフルダーンとの試合の時も…………
やはり魔道学校へ向かう途中に見えた龍はもう一人のじいやが発動させた魔法だったのかしら……?
何よりどう考えても、彼との試合で私が勝てるとは思えない。だが、酔ったじいやが代わりに試合に出ていたとしたら…………
そう考えれば辻褄が合う………………
何はともあれ、これ以上じいやにお酒を飲ませてはいけない。
そう思いながら私は睡魔を迎え入れた…………。




