魔道大会 ①
馬車を乗り継ぎ、一日掛けてようやく辿り着いた魔道大会の会場。円状の客席の中心で魔法の使い手達がしのぎを削り、その智謀と技量を競い合う。頂点に輝いた者は大陸一の魔法の使い手として、未来永劫語り継がれる程だ!
「ナターシャ殿」
「……何だい?」
「だいぶ緊張なさってますな」
「…………」
座れば手汗と貧乏揺すりが止まらず、立てばその辺をウロウロと落ち着きのない私を見てじいやが心配そうに見つめている。
「周りを見てみるといい。どれもこれも実力のある者ばかりだろう……」
会場に入る前から現地では強者達が群れをなしており、私はその一員でして参加できる事が誇らしく思えた。
「今日は宿で一泊して明日から大会だ。彼等も今日は下見だろう」
「明日が楽しみですな」
「魔道大会は一対一の真剣勝負。しかも対戦表は当日に会場で抽選するから誰と当たるかも分からない。しかし、私はやるべき事をやるだけだ」
「勝つと何が貰えるのですかな?」
じいやが興味ありげに私の顔を覗いた。しかし私は彼には残念なお知らせをしなくてはならない。
「……【名誉】だけだ」
「それはそれは大層な賞品ですな!」
「この魔道大会には身分や貧富の差が関係無く実力者が名乗りを上げ、かつての優勝者にも平民出の者もいる。つまり私にとっても名を上げるチャンスなんだよ」
「じいは常にナターシャ殿を応援しておりますぞ」
「ありがとう」
じいやと共に安い宿へと入った。建て付けが悪くなった扉を開け、案内された部屋へと入る。テーブル一つと小さなベッドが二つある以外特に何も無い簡素な部屋。トイレ、水も中央で共同だ。
「こんな部屋しか取れなくてすまない。大会中はどこも混んでてね」
「いえ、とてもありがたく存じます」
「更に悪いんだが……」
「はい。どうなさいましたか?」
「ご飯は明日の朝だけなんだ……」
「今夜は腹の虫を食べるとしましょう…………」
その夜、私は空腹と緊張で眠れぬ夜を過ごす事となった。しかしその貧しさすら今の私には何処か心地良く思えた。それ程に夢見た魔道大会へ出場。出られるだけで大変名誉なことであり私のありのままを観て貰える絶好のチャンスなのだ…………。




