魔道大会の呼び声
その日のじいやは具合が悪そうだった。と言うか見るからに顔色が悪い。
「だ、大丈夫かい?」
「昨日は失礼致しました……何やら美味しい飲み物を頂いたのですが、そこから記憶が無くなりまして……アレは何だったのでしょう?」
「あれは『葡萄酒』だな。創立祭では必ずと言って良いほど振る舞われるからな」
「今でも頭痛と吐き気が……うっ!」
「少し横になっているといい」
「すみません……」
私はじいやの背中に治療用魔法陣を貼り付けた。しかし魔法陣が発動してもじいやの二日酔いは治まる気配が無い。
(……やはり彼にはこの程度の魔法は効かない様だな)
彼の体質に深い興味を示しつつ、顔色の悪さを見ると少し可哀相に思えてきた。
「今水を持ってくる。待っていてくれ」
「すみません…………」
私は家の裏にある井戸へと急いだ。
──バシャーッ
桶いっぱいに水を汲みコップに掬い取る。自然の水は微量のミネラルを含んでおり、魔法で出す水より遥かに良い水だ。
「……私の水汲みがそんなに面白いかい?」
「いや、中々様になってると思うぞ? そのまま絵にするもの良さそうだ」
振り向くとそこにはフルダーンが壁にもたれながら、両手で構えた四角に私をフレームインさせていた。
「昨日はじいやが世話になったな。彼には酒を飲ませない方が良さそうだ。今も吐きそうな顔で寝てるよ」
「……それは悪いことをした」
フフン、と鼻を鳴らし腕組みのまま切り株に腰掛ける。一つ一つの仕草から何とも言い難い嫌悪感を感じるのはきっと愛称が最悪だからだろう。
「……それで?」
きっと彼のことだ。じいやの具合を見に来たとか言いつつ私に面倒事を頼みに来たに違いない。早々に帰って貰うとしよう……。
「実は昨日話すつもりでいたのだが言いそびれてな。今年の魔道大会の特別枠に君が選ばれた」
「!?」
──ボチャン
あまりの事に手にしていたコップを桶に落としてしまう。
「本当か!?」
「ああ、本当だとも。君さえ良ければな」
「ああ!! 勿論出場するとも!!」
私は彼から齎された吉報に心を弾ませた。魔道大会は年に一度行われ、地方の名だたる魔法の使い手達がお互いの力をぶつけ戦い頂点を競う、それはそれは由緒ある大会なのだ!
「魔法の使い手ならば一度は夢見る魔道大会に出られるなんて!!」
「そんなに喜んで貰えて良かったよ。それじゃあ……」
彼は後ろ向きに手を振り、ローブのポケットに手を入れながら去って行った。私は急いでじいやの部屋へ駆け込んだ。
「じいや! 私魔道大会に出られるよ!」
「……ウップ!」
「……ゴメン。水忘れた」
逸る気持ちを落ち着かせ、私は再び桶へと向かう。顔を洗い完全に冷静さを取り戻し、じいやの所へ……。
「じいや、さっきはすまない」
「み、水を……」
私はその手にあるべき筈の物が無いことに気付いた。
「ご、ごめんごめん! どうやら私もダメになってしまった様だ」
念願だった魔道大会に出られる事になり、私の心は完全に浮ついていた…………。




