小鳥の絵
「体調はどうかな?」
窓辺の枝に止まった小鳥をスケッチしていたじいやに声を掛け、熱いマグカップを差し出す。ゆっくりとペンを置いたじいやは、小鳥を眺めながら中に注がれたミルクを一口飲んだ。
「お陰様でなんとか……」
「それなら結構」
「何か私に出来ることがあれば良いのですが……」
「ふむ……それならばこの本を、後これとこれとこれとそれもかな?」
ドサドサドサとじいやの隣に魔道書を積み上げ私はニッコリと微笑んだ。
「読んでみてよ。もしかしたら何か思い出せるかもね♪」
じいやが一冊手に取りペラペラと紙をめくる。今手にしているのは【魔方陣の在り方】という基礎本だ。魔方陣無くして魔法を唱えることは出来ない。きっと彼の記憶の手掛かりになるだろう……。
「それと、これから二人で少し出かけないかな?」
「……?」
「少し手伝って欲しい事があるんだ」
私はじいやを引き連れ、近くの森へとやってきた。
「何を採るのですか?」
「いや、獲るんだ……アレをな」
私が指差した方角に見える緑豊かなその一部に、僅かながら生物の気配が見える。
「……ほう。自然の一部に擬態する生物ですか。見たところ大きなトカゲに見えますな」
「……やっぱり君は面白いな。君が居た世界にも似た様な生き物がいるのかな? 私には気配しか見えないが君はやはり素晴らしい物を持っているな」
「いえいえ、たまたまでございますよ」
その大きさ大人の半分ほど。己の体の色を背後の色に変え敵をやり過ごしたり、獲物を狙うときに忍び寄るのに活用される。
「因みにどの辺にいるのかな?」
「あの木の右側に見える折れかけた枝の下です」
「はいよ、ありがとう」
──キィィィィ……
右手に魔方陣を展開させて捕縛術を解き放つ!
「あ、逃げました」
「…………」
私の魔術網は何も無い枝を捉え、その上を緑色のトカゲがヨチヨチと歩いている。トカゲは直ぐに網と同じ茶色に擬態し私の角度からは何処に居るのか分からなくなってしまった。
「じいや」
「網から降りましてあの木の根元に……」
魔術網を解除し、再び右手に魔方陣を展開させる。
「今度こそ」
「あ、逃げました」
私の魔術網は再び何も無い空間へと投げられ、無を捉えた。
「もしかして……私遅いかな?」
「トカゲもアホではないと言う事ですかな……」
「……疲れた。じいや何か策を頼む」
私は球体魔方陣を展開し「ヨイショ……」と腰掛けた。
「……ならば自然の色を変えては如何でしょうか?」
じいやが人差し指を立てて私を見る。その顔はまるで意地悪そうな少年のようだった。




