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拉致られたら学園長になっていた  作者: 津山直太
北の方でちょっと暴れてくる

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第32話 歩も年頃だしな

「総一郎さん、お待たせしました。お腹すいていますよね」


 歩は業務用のタッパーなのだろうか、大きな半透明のケースを持っていた。

 そのタッパーの中には茹でた鶏ムネ肉を割いたものが、大量に煮汁とともに入れられていた。


「お肉、冷凍のしかなくて。食堂にもっていって、できるだけ早く作ってほしいって言ったら、これになりました」

「無理に頼んだんだ。調理してくれただけでもありがたい」


 歩はタッパーをテーブルに置くと、取り皿に肉を盛りつけ、ドレッシングのようなものをかけた。

「これ、料理長の特製ダレだそうです。学園長に是非にって言っていました」


 鶏むね肉がたっぷりと盛られた皿をもって、歩がオレの横の椅子に座る。

 何とか手が動かないものかと力を入れるが、腕は持ち上がらず、手をグーパーするくらいしかできなかった。


「はい、総一郎さん」


 フォークに乗せた肉が口の前に差し出される。


 鶏むね肉の淡白だがうまみを感じさせる匂いと、特製ダレの柑橘系を思わせる匂いが鼻をくすぐる。


 口を開けようとしたところで「あーん」と歩が声を出した。


 夜は言わなかったのになと思って、歩の方へ目を向けると、真っ赤な顔をしてプルプルと震えていた。

 肉を落とさないように必死に耐えているようだったので、慌ててフォークを口に入れた。


 まあ、年頃だし。やってみたかったんだろうな。何も言うまい。


 茹でた鶏むね肉はとても短時間で作ったとは思えない仕上がりだった。


 肉質はやわらかく、ゆで汁につけてあることもありしっとりして食べやすい。

 ゆで汁に中華と和だしが入れられているのだろう、やさしいうまみがしっかりと感じられる。


 極めつけは、このタレ。柑橘系の匂いはゆずとカボス。ゴマペーストと醤油がお互いを引き立て、柑橘系のさっぱりとした口当たり。


 2kgの肉があっという間にオレの胃袋へ消えた。

 300gほどは歩の胃袋に収まったが。


「歩、申し訳ないが、夕飯も同じものを用意してもらえるか?」

「わかりました、準備しますね」


 夕方にはなぜか、3割増しになった茹で鶏が運ばれ、その増えた3割は歩が笑顔で食べている。


「歩の看病で寝不足だろ? それ食ったら休めよ」

「わたしは夜だけですし、大丈夫ですよ。今日だって昼は医療部の人たち来てましたよね」


「あー。あのな、歩には見せられないことするから。一緒にいられると、ちょっと困る」

「でも、総一郎さん両手とも動かないんですよね?」


「手は動かなくても、何とかなるもんなんだよ」

「えっ、どうやってするんですか?」


「歩、オレが何をすると思っているんだ?」

「それはもちろん、お――」


 何かを言いかけた歩は頭から湯気を上げながら、部屋から走り去った。

 まあ、年頃だしな。


「芹佳、2時間たったら起こしてくれ」


 歩がベッドの背を起こしたままで、いなくなったので、オレは座った姿勢のまま目を閉じた。


 ♢♢


「マースーター! あっ、起きた。マスター、2時間たったわよ」


 芹佳の間延びした呼び声で目を覚ます。


「ありがとよ」


 窓の外を見ると夜の帳が下り、街灯が路面をまだらに照らしていた。


「ナツキ、ちょっとだけ能力を開放するから、降りていてくれるか?」


 膝の上で丸まっていたナツキに頼むと「ニャー」と一声鳴いて、歩が座っていた椅子の座面へ移動した。


 深く深呼吸をして、目を閉じる。


 自分の体をスキャンするようにイメージをすると、脳裏に人体模型のようなものが浮かび上がる。


 全身の血管が裂け、筋繊維がつぶれている箇所が次々と露わになる。


 さて、さすがに1日は無理だとしても手足は動くようにしたいな。


 オレは意識を右腕に集中する。


 意識を向けた箇所で血管と筋繊維が修復され、血流が回復していく。


 その瞬間、腕全体が炭火のように熱を持ち、腕をねじ切るような激痛が走った。額からは滝のように汗が流れる。


 右腕が修復されると、凪のように熱が引いていった。


「ふー」


 痛みからの解放で息が漏れる。


 心配そうに見ていたナツキの頭へ動くようになった右手をのせ撫でてやる。


「ニャ?」


 ナツキが驚いたように目を見開く。


 少しだけ休憩して、左腕も同じように修復する。


「久しぶりにやると、しんどいな」


 思わず声が出てしまい、苦笑する。


 右脚を修復したところで、精神的な限界を感じて能力を閉じた。


 全部治すにはタンパク質も足りないな……。


「芹佳、歩に明日も朝から鶏肉を用意してくれるようにメッセージを送っておいてくれ」

「わかったわ。あなたのそれ、センサーで見ていたけど何者なの?」


「オレにもわからん。いつのまにかできるようになったんだよ」

「他にも何かできるのかしら? 内緒だ」


「ふーん」


 膝の上に戻ってきたナツキをなでているうちに、オレはまた眠りに落ちた。


 翌朝、大きなタッパーを抱えてきた歩は、しきりにオレの下腹部を気にしているようだった。


 茹で鶏を盛りつけた皿を持ってきた歩に右手を差し出す。


「えっ! どうして動くんですか?」


 驚きすぎたのか、歩は目を丸くする。


「ああ、ちょっと無理した」

「無理したって治るわけが……。男の人ってあれをそれすると元気になるとか……」


「お前は何を言っているんだ?」

「な、 何でもないです!」


 歩は椅子に座るともじもじしながら、膝に乗るナツキをじっと見ていた。

 この子は何を考えているんだか……。


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