第1話 無職、再就職先でいきなり拉致される
鉛色の空が春の日差しを遮る。
空が重いと、空気すらも重く感じるものだ。
心なしか、朝の渋滞もいつもより進みが悪いようだ。
オレの乗るバスも一向に進まない。
サラリーマンが運転手へ大声で文句を言うものだから、車内の雰囲気は最悪だ。
渋滞は運転手の責任じゃないだろう。
バスを降りてタクシーに乗るとか聞こえてきたが、頭が悪すぎる。
流れない外の景色を眺めていると、サイレンを鳴らしてパトカーがバスを抜いていった。
この渋滞の原因は事故かもしれない。
乗客たちも同じことを考えたのか、一斉にスマートフォンを操作している。
調べたところで渋滞が解消されるわけでもないので、オレは再びどんよりとした空を見上げた。
雲の重さが限界を迎えたのだろうか、窓に水滴がつく。
次第に雨の勢いが増してきて、水滴が滝のように流れる。
窓から見えていた景色がぼやけ、外を見る気もうせてしまう。
気持ちもずいぶんと重くなってきた。
帰ろうかな。
帰ったら怒られるか。
結局、30分ほど遅れて目的地に着いた。
30分は早く着くように家を出たから、合計1時間のロスだ。
全くもってついていない。
バスが事故で遅延したことを説明して、遅刻したことを詫びると応接室に通された。
座ってお待ちくださいと言われたが、座って待つことも憚られて、結局立ったまま待っていた。
ドアを叩く音が3回した。
「はい」
答えると、三つ揃いのスーツを着た壮年の男が入ってきた。
「待たせてしまって、申し訳ない」
そう言われたが、遅れてきたこっちは何と言ったものかと考え、口を開く。
「こちらこそ、予定の時間に遅れてしまい、申し訳ありませんでした」
「事故でバスが遅れたんだってね。聞いたよ」
椅子を勧められ、恐縮しながら腰を下ろす。
「時間も惜しいので、本題に入らせてもらおう」
目で頷き、話を促す。
「学園で働いてみないか?」
「はい? いや、え? どういうことですか?」
「もちろん教師ではなく、別のポジションを用意した」
「この会社の一般職で応募してご縁がなかったんですが、学園の職員になれるんですか?」
「そういっているんだが」
「なります。ならせてください」
――きっと外に出たら、晴れやかな空が迎えてくれるんじゃないか?
そんな希望を抱いた瞬間だった。
「学園長をやってもらう」
「……はぁ? オレ、ただの若造ですよ。いきなり学園長なんて無理です!」
これ、きっと外へ出たら嵐になっていないか?
悲しいかな、無職を続けるほどの蓄えのないオレは、結局、契約書にサインをしてしまった。
「御子柴総一郎。これで契約成立だ。早速、学園へ出向いてもらう」
「い、今からですか? 何の準備もしていないですよ。せめて明日からとかじゃ――」
男が目の前で契約書をひらひらと振る。
「契約書に書いているだろ。君はすでに私の命令下にある。学園まで時間がかかるんだ」
男が指を鳴らす。
するとドアから警備服を着た2人の男が入ってきて、オレの両脇に手を入れ、無理やり立ち上がらせた。
そのまま駐車場へ連行され、黒塗りの車へ乗せられ、目隠しをされた。
シュッとスプレー音がした一拍後。
オレの意識は、深い闇へと落ちていった。




