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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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91Over load 大西洋の嵐

1942年3月。 大西洋を東へと進む艦隊の中心、エセックス級航空母艦サラトガIIの艦橋は静寂に包まれていた。


最新鋭のレーダーが刻む規則的な音だけが響く中、レイモンド・スプルーアンス提督は、水平線の向こうを見つめながら自嘲気味に呟いた。


「皮肉なものだな。つい半年前まで、我々は海を血で洗う仇敵同士だった。それが今や、事実上の同盟軍・・・『連合軍ユナイテッド・ネイションズ』か」


「・・・全くです。私の息子はソロモン海で、日本の魚雷に殺られました」


隣に立つ参謀長、ムーア大佐の声は硬い。スプルーアンスは沈痛な面持ちで視線を落とした。


「ムーア君、すまない。この私を、息子を死なせた愚将だと罵ってくれ」


「いえ、滅相もない。提督・・・すべては卑怯な工作で日米を戦わせたソ連の、赤いスパイどもが悪いのです。そう思わなければ・・・この任務、やっていられませんよ」


「そう思うしかないか・・・」


二人の視線の先には、艦隊の先陣を切って進む一隻の駆逐艦があった。 低く鋭い艦影。ユニコーン型マストには、かつて忌むべき象徴だったはずの旭日旗が、今は頼もしい護衛の証として翻っている。


「日本軍の第十七駆逐隊、磯風より入電。敵潜水艦を捕捉、攻撃に入るとのことです」


通信士の声が響く。スプルーアンスが短く問うた。


「敵との距離は?」


「・・・報告されていません。いえ、報告する必要がないようです」


次の瞬間、前方の磯風から一筋の光が吸い込まれるように空へと突き抜けた。それは放物線を描き、遥か水平線の彼方へと消えていく。


「――アスロック、でしたか」


ムーアが忌々しそうに、それでいて感嘆を隠せずに呟く。


「射程50kmの対潜ロケット弾・・・化け物だな。我々は、あんな得体の知れないテクノロジーを持った連中と戦っていたのか。・・・絶望的なまでに、愚かの極みだったな」


1月、日本との講和を果たしたアメリカは、今や日英と手を取り、欧州の火を消すために立ち上がっていた。今の合衆国には英雄が必要だった。対日戦で一度も得られなかった勝利の果実を、大西洋で、ドイツ軍を相手に掴み取らねばならない。


「私は・・・大統領に命じられた通り、英雄になれるかな?」


スプルーアンスの独り言に、ムーア大佐が力強く応える。


「やるしかありませんよ。幸い、大統領は日本軍の最新鋭護衛艦を付けてくれました。至れり尽くせりだ。これで戦果を挙げられなければ、私達は天下の無能者になってしまう」


「それは、この艦に座る将兵全員の同感でしょう」


「・・・ならば、やるしかないか」


彼らが大西洋へと乗り出したのには理由があった。 フランスのブレストを脱出した孤独な女王、戦艦ティルピッツ。そして重巡アドミラル・ヒッパー級、装甲艦からなる強力なドイツ水上艦隊が、大西洋の中心、アゾレス諸島に陣取ったのだ。


Uボートによる群狼作戦がピークを迎え、英国の心臓が止まりかけている今、ドイツ軍は有力な水上艦艇をもって、英米の補給線を物理的に断ち切る作戦に出た。


「敵に空母がいないのが、せめてもの救いだな」


「そうですな。少なくとも、彼らは射程1000kmの主砲を持つ戦艦は持っていません。38cm砲は我が軍の戦艦には脅威でも、500km彼方から攻撃できる機動部隊の敵ではない」


「そうだといいのだが・・・」


慎重なスプルーアンスは、肌に張り付くような危機感を拭えずにいた。 珊瑚海で、レイテ湾で、何度も感じたあのヒリヒリするような脅威。


「哨戒機を上げろ。慎重に、かつ徹底的に索敵を行うんだ」


「イエッサー!」


ムーア大佐がテキパキと指示を飛ばすと、飛行甲板から数機のドーントレスが、爆音と共に大西洋の空へと吸い込まれていった。


アゾレス諸島の冷たい海風を切り裂き、第五八任務群が突き進む。その静寂を破ったのは、受信機から溢れ出した悲鳴に近い怒号だった。


「偵察機より緊急入電! 敵艦隊を発見! 空母一を含む・・・繰り返す、敵空母発見! これは演習ではない! 再度報告、これは演習ではないッ!」


「エアーカバー急げ!」


沈着冷静、電子計算機と渾名される沈黙の提督、スプルーアンス中将が、これまでにない鋭い声で発令した。敵に空母がいる。その事実が判明した瞬間、彼の奥底に眠っていた闘争本能が、あたかも恩師、ハルゼーの魂が乗り移ったかのように激しく燃え上がった。


「攻撃隊編成開始! 急げ! 一秒も無駄にするな!」


「イエッサー!!」


飛行甲板が戦場と化す。広いデッキ上では、重機が唸りを上げてアベンジャー雷撃機に魚雷を、ドーントレス爆撃機に爆弾を次々と揚弾していく。


「日本軍駆逐艦磯風より入電!」


「何だ!?」


「方位北西100kmに敵機と思しき機影あり。確認されたし!」


「わかった、戦闘空中哨戒機(CAP)を直ちに急行させろ!」


磯風の電探が捉えたのは、ドイツ空軍の双発爆撃機Do17の偵察型だった。驚くべきことに、この機体にはドイツの最新鋭レーダーが搭載されており、スプルーアンスの機動部隊の位置は、すでにアゾレス諸島の基地航空隊と、ドイツ軍空母の両方に露見していた。


「発艦準備完了! カタパルト・フックアップ!」


「直ちに出撃せよ!」


「アイ・サー! ローンチッ!」


イエローシャツを纏ったカタパルト士官が膝をつき、前方へ力強く指を差し降ろす。 ――シュッ、ドォォォン! 油圧カタパルトが、空気を震わせる咆哮を上げた。重量6トンを超えるアベンジャーが、わずか数十メートルの滑走で時速140kmへと加速され、大西洋の空へ放り出される。


色分けされたベストを着用したレインボー・ギャングたちが、一分の隙もない統制で甲板を駆け抜ける。これこそがアメリカ航空母艦技術の結晶。30秒に1機のペースで射出された編隊は、30分とかからず空中集合を完了し、地平線の彼方に潜む敵空母へと突き進んだ。


だが、戦況は甘くはなかった。


「磯風より再入電! 方位北西100、北東120・・・双方から、大規模な敵攻撃隊が接近中!」


「何だと・・・!?」


スプルーアンスの表情に苦い影が差す。アメリカ軍は、ドイツ海軍の質と量を完全に見誤っていた。政府が彼に預けたのは正規空母わずか2隻。他の空母は輸送任務に回され、海軍上層部も、そしてあのドイツ空軍ルフトヴァッフェをも、心のどこかで侮っていたのだ。その傲慢の帳尻を、今、彼一人が押し付けられようとしていた。


「磯風より入電――『我、対空戦闘を開始せり』!」


通信士が叫ぶのと同時に、水平線の先で磯風から、眩い光の尾を引くロケットが、一発、また一発と天を衝いた。


「・・・な、なんだ、あれは?」


驚愕するスプルーアンスに、ムーア大佐が震える声で説明する。


「対空誘導弾・・・ミサイルです。一隻で24の目標を追尾し、6つを同時攻撃可能。さらにネットワーク機能により、4隻で96目標を追尾、24目標を同時に遠距離で粉砕する・・・。日本が誇る対空ミサイルの傘。これほど心強いとは・・・!」


「ムーア君!」


スプルーアンスの瞳に、静かな、だが確かな火が灯った。


「防空軽巡アトランタに伝えろ。日本軍に、アメリカ軍の射撃精度の高さを見せてやれと!」


「アイ・アイ・サー!」


空を埋め尽くしたドイツ軍攻撃隊は、まず磯風たちの放つ対空ミサイルによって半減され、生き残った機体も、最新レーダー射撃を行うアトランタ級軽巡やフレッチャー級駆逐艦の弾幕によって次々と火だるまになっていった。


そして、その頃、ドイツ機動部隊の鉄壁の防御を抜けたアメリカ海軍精強のヘルキャットが、アベンジャーが、ついに捉えた。


大西洋の波間に浮かぶ、空母グラーフ・ツェッペリンを基幹とするドイツ機動部隊。その上空に、そう、鷹が舞い降りた。

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