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涼宮鷹尾の歴史改変日誌~令和のアラサー女子、明治の時代に転生して無双する。電子の技術は最強です!~  作者: 島風


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89/92

89バルバロッサ作戦

1942年6月。 極東で山口多聞や涼宮未来が歴史を塗り替えているその裏側で、欧州の地でもまた、狂気と傲慢が破滅を導いていた。


イギリス侵攻という壁を前に足踏みを続けるドイツ。だが、独裁者アドルフ・ヒトラーの瞳は、さらなる闇――東方の広大な大地を映していた。


『アーリア人による東方生存圏の拡大』それは資源への渇望であり、同時に歪んだ選民思想が生んだ妄執だった。


ヒトラーは、フィンランド相手に無様な苦戦を演じたソ連軍を、そしてその背後に控える東ロシアをも劣等民族と侮蔑しきっていた。


「ドアを蹴り破れば、脆弱な建物は崩壊する」


ヒトラーのその言葉通り、ドイツは同盟破棄の通告すら行わず、歴史上類を見ない300万という大軍勢を動員。ソ連への牙を剥いたのである。


開戦の火蓋が切られた瞬間、ソ連軍を待っていたのは絶望という名の奇襲だった。わずか数日で空軍戦力は地上で灰燼に帰し、ドイツ中央軍集団の装甲師団がベラルーシを自由に駆け抜ける。ミンスク、スモレンスク――次々と完成する包囲網の中で、数十万人単位のソ連兵が、戦う術もなく捕虜となっていった。


しかし、南方のウクライナ戦線だけは、停滞を見せていた。


「ドイツが来るなら、狙いは資源豊かなウクライナだ」


独裁者スターリンのその予想は、皮肉にも的中していた。南西方面軍にはソ連軍最強の近代化部隊と、精強な戦車軍団が配備されていたのだ。


さらに、大自然までもがドイツ軍の進軍を拒んだ。 一見、戦車に最適に見えるウクライナの大平原には、南北を分ける大河ドニエプルをはじめとする無数のトラップが潜んでいた。幾度となく強いられる渡河作戦。そのたびにドイツ軍の進撃速度はすり減らされていく。


業を煮やしたヒトラーは、モスクワへ進軍中の中央軍集団から第二装甲集団を強引に引き抜き、南方への支援を命じる。


「キエフを背後から包囲し、殲滅せよ!」 、と。


だが、両軍集団の間には広大な湿地帯が横たわり、連携を阻む。南方軍集団は、孤立無援の死闘を強いられた。


10月。ついにキエフは陥落した。65万という、もはや天文学的な数の捕虜。その多くがナチスの収容所という名の処刑場で命を散らしたが、ドイツが手にした大勝利の果実は、猛毒を含んでいた。この一ヶ月。ウクライナの停滞を解消するために浪費したこの一ヶ月こそが、運命の分岐点となったのである。




1942年、モスクワを救うためにスターリンが下した決断――シベリア精鋭部隊の引き抜きは、ドイツ軍を押し戻す奇跡を起こしたが、同時に背後に致命的な危険地帯を生み出していた。


その隙を、東ロシア軍は見逃さなかった。


「今こそ、失われた大地を奪還する時だ」


東ロシアの装甲部隊は抵抗の薄いシベリア鉄道を逆行。ついにウラル山脈の玄関口、エカテリンブルグの占拠に成功する。


報告を受けたスターリンの激昂は、氷原を切り裂くほどに凄まじかった。


「一歩も退くな。撤退は反逆とみなす」


慈悲なき死守命令。エカテリンブルグに取り残されたソ連守備兵たちは、補給も援軍もないまま、鋼鉄の牙を持つ東ロシア軍を前に肉の盾となることを強要された。


降伏は許されない。あるのは勝利か、さもなくばシベリアの土に帰るか。凄惨を極めた市街戦の末、ソ連将兵は文字通りの玉砕を遂げる。だが、彼らが血であがなったその数日間は、モスクワ側の防衛体制を整えるための死の対価となった。そうでなければ彼らは浮かばれなかっただろう。


犠牲となった将兵が稼いだ時間で、ソ連軍後方部隊は冷酷な遅滞行動を開始した。


「第一ライン放棄! 第二、第三ラインへ順次後退せよ!」


逐次抵抗を繰り返し、東ロシア軍の進撃にブレーキをかける。そして退却の際、彼らが残したのは、解放された喜びではなく無の地だった。食料、燃料、橋、鉄道・・・果ては民衆が暖を取るための住居に至るまで、すべてを灰にする焦土作戦。


「・・・これでは、進むほどに我が軍の首が絞まるな」


東ロシアの指揮官は、燃え上がる村々を見て苦い表情を浮かべた。解放したはずの住民たちは飢え、凍えている。人道を掲げる手前、彼らに食料と燃料を分け与えねばならない。進撃のための物資は、救済のための物資へと消えていく。


勝利の旗を掲げながらも、その進撃速度は亀の歩みのごとく鈍っていく。広大なロシアの大地そのものが、東ロシア軍を包み込む、巨大な泥沼へと変貌していた。




史実ではロンドンを焼き払ったドイツ空軍に対し、イギリス空軍(RAF)は意趣返し(いしゅがえし)で反撃した。ハリス司令官が命じた千機爆撃作戦。夜の闇を切り裂き、熟練のパスファインダー(先導部隊)が放つ照明弾が目標を鮮やかに浮かび上がらせる。


だが、真の絶望は10月に訪れた。日本から届いた九七式重爆による高高度昼間爆撃。ドイツ軍が当たらないと高を括っていた高度から、正確無比な爆撃が降り注ぐ。さらに11月、英国の基地には、日の丸を冠した四発重爆深山と、四翔のプロペラを回す零戦が集結した。


「護衛機付きの低空爆撃だと・・・? 奴ら、我が物顔で飛び回っていやがる!」


迎撃に上がったメッサーシュミットを零戦が紙屑のように蹴散らし、深山が工場地帯を粉砕する。生産ラインを寸断されたドイツは、戦車一両、戦闘機一機すら満足に作れぬ鉄の欠乏へと叩き落とされた。




8月、イギリス海軍はマルタ島という戦略の要衝を維持するため、全霊を賭けたデペデスタル作戦を敢行した。わずか14隻の商船を守るために、空母4隻、戦艦2隻という大艦隊を投入。空母イーグルが沈み、インドミタブルが炎上する大きすぎる犠牲を払ったが、彼らはついに勝利を掴み取った。


飢餓から解放されたマルタ島。そこから発進する潜水艦と航空機が、ドイツ軍の補給線をずたずたに寸断した。砂漠の狐、ロンメル将軍に届くはずの油も、弾薬も、すべては地中海の底へと消えていった。




さらに、地中海の東西から終わりの始まりが押し寄せた。西のジブラルタルからは日英合同の大艦隊が、東のエジプトからは日本軍の別働隊が――地中海は、瞬く間に連合国の内海へと変貌を遂げたのである。


10月、エル・アラメイン。 補給を断たれたロンメル軍の前に立ちふさがったのは、日本が持ち込んだ一式中戦車の大軍団と、歩兵が手にする携帯対戦車ミサイルという未来の剣だった。


「・・・これでは戦いにならん」


誇り高きドイツ装甲部隊も、物量と電子技術の暴力の前には撤退を余儀なくされる。


11月、トドメのトーチ作戦が発動。日英連合軍が北アフリカ西側に上陸し、ドイツ軍を完璧な挟み撃ちにする。砂漠を駆けた狐の伝説は、ここに潰えた。北アフリカの地には、再びユニオンジャックと日章旗が並んで翻った。


欧州奪還の足音が響く中、日本からは10個師団に及ぶ精鋭陸軍が英国本土に続々と到着し始めていた。 それを支えるのは、松型改良型、橘級駆逐艦による鉄壁の護衛網だ。


ドイツが誇ったUボートの群れは、最新鋭のソナーと対潜投射弾の前に、前年の3倍という異常なペースで撃沈されていった。かつては大西洋の支配者だった潜水艦乗りたちが、今やアメリカ東海岸が一番安全だ、と自嘲するほどの惨状。皮肉にも、主戦場から最も遠い場所だけが、彼らに残された唯一の隠れ家となっていた。


イギリスは今、反撃の拠点から、大陸への橋頭保とされ、その姿を変えつつあった。




欧州の地図が日英連合軍の手によって塗り替えられていく一方で、史実の巨国アメリカの前に横たわる太平洋は、もはや戦場ですらなくなっていた。そこにあるのは、一方的な殺戮の光景である。


珊瑚海に沈んだのは、数隻の空母だけではない。ハルゼーという不屈の魂を有した提督と共に、アメリカ海軍の反骨精神そのものがへし折られたのだ。


ハワイを最後の要塞に――。その微かな希望を打ち砕いたのは、海中から現れた音もなき死神サイレントキラーだった。リチウム電池搭載潜水艦。従来の潜水艦とは一線を画す潜航時間と静粛性を誇る涙的型潜水艦が、アメリカ西海岸を完全に封鎖した。通商破壊作戦の餌食となった輸送船の残骸が波間に漂い、カリフォルニアの海岸線は、死の海へと変貌を遂げた。


主力艦隊を失い、補給さえままならないハワイは、もはや、ただの島に過ぎなかった。ポートモレスビーをいとも簡単に奪取した日本軍は、間髪入れずにNSニューカレドニア・サモア作戦を発動。満足な迎撃機すら上がらない空の下、9月にはサモアが陥落。ドミノ倒しのように南太平洋の拠点が日章旗に塗り替えられていく。


サモアに建設された巨大な滑走路。そこに降り立ったのは、アメリカの息の根を止めるための最終兵器だった。


その機体は、既存の航空力学を嘲笑うかのように成層圏を駆けた。四発重爆撃機、連山。 史実とは似ても似つかぬ誉発動機、2500馬力を4基。12,000kmという、太平洋を庭に変える航続距離。6トンの爆弾を運ぶ弾倉。高度10,000メートルを時速700kmで巡行するこの怪物を、捉えられるレーダーも、追いつける戦闘機も、アメリカには存在しなかった。


10月。アメリカ国民は、ようやく自分たちの置かれた悲惨な現実に直面することになる。ラジオから流れる景気のいいプロパガンダは、空を覆い尽くす連山の落す不快な爆弾の落下音によってかき消された。


サンディエゴ、ロサンゼルス、そして工業の心臓部デトロイト。成層圏から正確に投下される爆弾が、アメリカの繁栄を象徴する摩天楼や工場群を炎の海へと変えていく。


「これは・・・夢じゃない。本当に、負けるのか?」


逃げ惑う群衆が見上げた空には、悠然と翼を広げる死神たちが、秋の陽光を反射して輝いていた。1942年の終わり。世界最強を自負した国家アメリカは、建国以来最大の、そして最後となるかもしれない冬を迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
サモアからデトロイトへの爆撃は航続距離12000kmでは帰って来られないのでは?
 略奪者が築いた『チート』国家が‥‥どうなるのでしょうか? 興味深いですねー。
良いぞ!もっと徹底的にやってくれ! 更新が止まって心配してました。
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