79世界地図1941
1942年3月、昭和十七年度予算は無事議会を通過し、丸急計画は実行の運びとなった。私は慌ただしい喧噪の中、客人を待っていた。待ち人は連合艦隊司令長官山本五十六大将。正直、私の未来知識を嗅ぎつけたとしか思えない。太平洋戦争史を知るものなら知らない者はいない提督。史実での彼の苦悩は容易に察する事が出来る。強引に真珠湾奇襲を敢行し、大勝利に終わるも、やはり強引に進めたミッドウェー攻略作戦で主力空母四隻を損失。以後、戦略なき戦いに突入する。彼が無理を承知での大博打とも言えるミッドウェー作戦を計画したのは、全て勝利条件が短期講和以外にないと結論からだ。
彼には戦略性がかけていたという意見もあるが、史実の十倍の国力差、資源に至っては数十倍の差、これを埋める戦略など考え付く人間が果たしているだろうか? 絶対に負けられないが、勝機が微塵も考え付かない。そんな不毛な戦争に身を投げられた哀れな提督とも言える。
私は涼宮戦略研究所の1941年の欧州の分析レポートに目を通し始めた。彼の訪問まで、一時間ほど時間があるだろう。
2月、ロンメル将軍率いるドイツアフリカ軍団がリビアに到着。電撃作戦を展開し、英国軍は僅か数週間で数百キロも後退を余儀なくされた。しかし、ドイツ戦車軍団が前進すればするほど水とガソリンが枯渇するという補給線の問題に直面する。補給トラック自身がガソリンを消費するのだから、砂漠での距離が延びれば伸びる程不利になって行った。
更には地中海のマルタ島を本拠地とする英国空軍、海軍潜水艦隊は片っ端からドイツ軍の物資を撃破していった。この頃、実に70%の物資が海の底に沈んだと推定される。
初盤にはイタリア海軍に勝利を納め、圧倒的な制海権を納めていた。しかし、中盤のシチリア島へのドイツ空軍配備に伴って、地中海の制海権は首の皮一つで繋がっている状態となった。かの Ju87(ユンカース)急降下爆撃機スツーカの登場によって、今度はイギリス軍艦船が次々と襲撃されたからだ。
このマルタ島を巡る激しい戦いが生起し、ドイツ、イタリア軍の激しい爆撃に晒され、英国は逆にアフリカへの補給線を絶たれそうになる。マルタ島は飢餓状態となり、この地への大規模な補給作戦(ペデスタル作戦)が敢行された。
5月のクレタ島の戦いには失敗し、多くの艦艇を失ったが、これにより制海権の維持には制空権が不可欠であることが判明した。
更に終盤、空母カレイジャスと戦艦バーラムをUボートにより喪失。12月におはアレクサンドリア港の戦艦クイーンエリザベス、ヴァリアントと大破、着底させられた。これにより、地中海戦艦戦力ゼロという絶望的な状態となり、地中海艦隊は機能停止へと陥った。
イギリスにとって、本国とエジプトを結ぶ帝国の生命線を守れるかどうかの瀬戸際だった。
だが、史実と違うのは、英国にはもう一つの補給線が存在した。それが日本からの支援物資だった。八九式中戦車などの戦闘車、兵員はありがたい存在だった。
更に日本からの本格的な援軍、山下奉文率いる第25軍が到着すると、一気に勢力が変わった。
イギリスでは砂漠の狐と呼ばれたロンメルより人気の無い、モントゴメリー将軍より、山下中将の奮戦ぶりが伝わり、彼らをして、砂漠の虎と言わしめた。
5月、巡洋戦艦フッドを撃沈され、心胆を寒からしめたものの、ドイツ戦艦ビスマルクを撃沈。海上での制海権死守に成功。
更に九七式戦闘機の援護もあり、バトルオブブリテンの空を制したイギリス。既に空軍に海軍Uボート部隊に大損害を被ったドイツ軍は、ブリテン島周辺の通商破壊工作や空爆がリスクから自殺行為へと変わった。
その為、英国本国から一歩離れた大西洋にはUボートが大量に蔓延り、英国は日米からの補給線の維持に尽力していた。だが、我が国の提供した松級駆逐艦が目覚ましい働きをし、かなりの損害をドイツ海軍に与えたようだ。
どうやら、アフリカ戦線は何とかなるだろう。だが、地中海の制海権の失陥、欧州の要塞化は免れない。英国が僅か二十四機を供与した九七式重爆を千機要求した仔細が見える。英国はドイツ本国の工場地帯をいち早く爆撃したいのだろう。この年、英国爆撃機軍団はドイツの産業都市やインフラへの爆撃を強化したものの、夜間爆撃だった為、命中率が極めて悪かった。しかし、九七式重爆は爆弾搭載量は僅か一トンだが、航続距離三千キロメートル。十分な防弾装備を持ち、高度一万メートルを時速500kmで息切れすることなく飛べる。迎撃機をあまり気にしないでの出撃が可能、つまり昼間爆撃が可能なのだ。数十機の集団爆撃を行えば、戦果は十分に期待できる。
実は、英国向け九七式重爆は他の飛行機同様、デチューン版で、夜間爆撃など、赤外線暗視装置を使うなり、精密誘導爆弾を投下すれば、半径数十メートル以内には着弾する。だが、その二つの機能は殺してある。パスワード入れると使用可能だけど。政府からの要請で従わざるをえなかった。チャーチルさんごめんなさい。
しかし、1942年の今年には、パスファインダー機による照明弾を投下したマーキング、無線航法援助などの簡易航法装置が開発される。これに加えて九七式重爆による昼間爆撃が実施されれば、ドイツ軍の工業地帯やインフラは壊滅する。
だが、心配な点もある。それはバルバロッサ作戦の不在。史実における戦力70%喪失という事態の発生していないドイツ軍と今後対峙しなければならない。
私はレポートに第二陣目に目を通す。それは東ロシアとソ連の紛争に関するもの。東ロシア、ソ連、どちらを正式な国として承認したかは国によって異なるが、いずれにしろ、各国とも内戦と考えている。この内戦は熾烈なものとなり、エカテリンブルグでは死屍累々と互いに戦死者を出し、どちらも全く引かない総力戦となっている。推定戦死者数、二千万人。
アナスタシア様は未だ独身を貫き、祖国統一まではと心血注いでいる。彼女は血の涙を流しながら、戦地に兵を送り続けているのだ。
我が国の一式中戦車や隼戦闘機が供与出来れば、戦局はかなり楽になる筈だが、政府から許可は下りない。再三の申し出も、私とアナスタシア様との私縁で、戦略物資や兵器の供与は出来ないと突っ放された。政府は現在の東西に分離しているロシアの状態を良しとし、統一ロシアの誕生は地政学から、危険だと判断していた。理解は出来ても、心が納得できない。
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