第38話 リアナ、孤高の星に、炎を宿して
【孤高の星に、炎を宿して】
――リアナ=クラウゼの回想と誓い――
私は、生まれながらにして特別だった。
王国の中でも由緒正しいクラウゼ家。その一人娘として生を受け、物心がつく頃には既に魔術の才を示していた。火の精霊が笑い、風が私の髪を撫でる。魔術書に触れたこともない幼い私が、自然と呪文を紡ぎ出す姿を、誰もが「神童」と呼んだ。
――だから、私は孤独だった。
誰もが私を遠巻きに見た。
褒めるだけ褒めて、決して本気では相手にしてこない。
周囲の子どもたちは私と話さなくなり、家庭教師たちは「教えることがない」と匙を投げた。
父も、母も、私を誇りに思っていたけれど――それは“家名にふさわしい器”としての評価だった。
(リアナは天才だから大丈夫)
(リアナには、すべてが簡単にできるから)
(リアナは、誰にも負けない)
……違う。私は誰とも“戦って”さえいない。
勝ちも、負けも、知らないまま――ただ、与えられた称賛に囲まれて、息をしていた。
だが、王立魔術学院に入学した日、私は初めて“世界”を知った。
そこには、私より魔力は劣っても、必死に杖を振るい、血を吐くように術式を磨く者たちがいた。
魔導実験で眉を焦がしても、翌日にはまた立ち上がる少年がいた。
魔力の暴走で友を傷つけ、泣きながら謝る少女がいた。
その中に混じっている私は、はたして“同じ人間”だったのだろうか。
私は誰よりも早く術を習得した。
精霊契約も、式法構築も、実戦応用も。
でも、心が満たされることはなかった。
「誰かと、全力でぶつかりたい」
「ただの“強いリアナ”ではなく、“戦うリアナ”でいたい」
そんな願いを、私はずっと胸に秘めていた。
だから、王都に戻ってきた“黒衣の剣聖”の噂を聞いたとき、心がざわついた。
平民上がりで、辺境に捨てられ、そこから這い上がってきた男。
噂の多くは荒唐無稽だったけれど、それでも――
「剣だけで、運命に抗った」その事実が、胸を打った。
(会ってみたい。戦ってみたい。向き合ってみたい)
そう思った私は、王立魔術学院からの護衛任務に自ら志願した。
そして、彼と出会った。
初めて言葉を交わしたとき、彼は私を“天才”としてではなく、一人の“仲間”として受け止めてくれた。
驚いた。
それは、父や母が与えてくれたどんな名誉よりも、重くて、あたたかかった。
……けれど同時に、彼の隣には、もう一人の少女がいた。
氷の魔女、セリア。
無駄のない動き。冷静な判断。だが、彼女の目はカールに向けられると、確かに“揺れる”。
私には、その視線の意味が分かった。
(あの子は、もう“彼の隣”にいる)
胸が痛んだ。
それが“嫉妬”というものだと、すぐに気づいた。
けれど、それでも私は諦めない。
私は魔術に命を懸けてきた。
誰にも理解されなくても、孤独でも、才能が“孤高さ”を生むのなら――私は、それを誇りに変えてきた。
今度は、恋だってそうする。
誰かに恋をするという感情さえ、私にとっては初めての戦い。
(セリア。あなたは剣士。私は魔術師)
戦う“形”が違うだけ。
でも私は、あなたに負けたくない。
私はクラウゼ家の名を背負い、魔術を極めた者。
この誇りを胸に、カールにふさわしいと証明してみせる。
それは、ただの恋ではない。
私にとっては――人生で初めての、“本気の戦い”だった。




