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地味顔の短期雇用専門メイドは、実は美人です。しかもワケあり、養母は最強。  作者: 小田ゆなこ


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ミモザの城ーそれぞれの想い・4

「そうか……夜は違うあなたが見られるわけだ。夜というより、時間を共に過ごせば、かな?」


 パトリスが興味深そうに、見下ろしている。ルナは、どういう意味だろうと首を傾げる。


「ヘザー嬢を見る温かい眼差しは、あなたらしくていい。先ほどひとり抜け出して、此処で休む憂いを帯びた顔は、ずっと眺めていても飽きないと思いました。でも今。こうして笑顔を間近で見れば、どうにかしてその笑顔を自分だけに向けさせたいと、願ってしまう」



 パトリスの思いがけない言葉に、ルナは目を見開いた。この方が、人前で分かりやすく好意を告げるのはコルバン家に頼まれての事ではなかったか。


まるで告白のようなこれもその一環なのだろうか。ロベールは居ないのに。戸惑うルナは聞き入るしかない。


「まだ、色々な表情をお持ちなのでしょう? どうしたら見せてもらえるのでしょうね」


 背中に添えられた手が腰に下がった事を意識すると、ルナは顔に赤みが差すのを自覚した。

年頃の女性がされるような扱いには、慣れていない。照れが隠せなくて困る。


「ほら。これくらいでそんなお顔をされては、心配になりますよ。逆に」


すぐそばで、からかい混じりに囁かれて降参する。


「すみません……慣れておりませんので、いろいろと限界です」


 恋愛上手と云われる王国男性。中でも人気のあるだろう貴族に仕える護衛だ。お子様の自分など、ひとたまりもない。


 取り敢えず少し距離をあけてもらおうと、パトリスの胸を押した手を取られた。

片手にはグラス、もう片手はパトリスの胸で、上からがっしりとした手が重ねられて、ルナの頭が白くなる。


 恐る恐るパトリスを見上げると、なぜか困ったような微笑を浮かべている。

困っているのは私のほうです、とルナとしては言いたいところだ。


「これを、駆け引きでなくしていると仰るなら。公国の女性は、間違いなく一枚上手(うわて)ですよ」


誉められ方が個性的過ぎて誉められているかも不明だとルナは思う。


 パトリスの片手は腰に。片手は胸に置いたルナの手の上に。では、パトリスのグラスは? と見ると、手摺の上に乗っていた。いつの間に……さすが、慣れていらっしゃる、と感心する。



 称賛の気持ちを込めて見上げるルナを、パトリスも見つめ返す。瞳の色が誰かに似ていると探るうちに、ハリーだと思い当たった。


どこまでも明るいハリーと、屈託のないパトリスは性格も似ているのかもしれない。帰る日が近づいたせいだろうか、久しぶりにハリーを思い出す。


元気でいらっしゃるだろうかと、意識がそちらに向かう。


「他の男の事を考えている」


 指摘されて、しまったという思いになる。しかもそれがそのまま顔に出たことに気づく。その方が失敗だと焦るルナに、パトリスの溜め息が降ってきた。


「わざと……じゃないのなら、本当に罪作りなひとだ」


 これ位はさせて頂いても? 言って頭のてっぺんにキスを落とされた。

ルナは声も出せない。



「今夜で、色々とわかりましたよ。ロベール様にも。ロベール様だけに、そんなあなたを見せたのでしょう? そんなあなたを知っているのは自分だけだ、なんて思わせたのでしょう?」


 少し体を離してはくれたが、パトリスの両手はそのままで、ルナを軽く責めるような口ぶりだ。

ルナには言われる意味がわからない。


「いえ、ロベール様には。意図してではないとはいえ、私が失礼をしてしまい、ご機嫌を損ねたことで……まだ叱責し足りないとお思いなのでは」


談話室で突き飛ばして誘いを断ったことを、出来る限り曖昧にして伝える。


「え? まさかロベール様があなたを気にかけていることは……?」


「存じております。厳しい視線が時々こちらに」


 まだおっしゃり足りないのでしょうけれど、パトリス様が気にかけて下さるので、何もありません。と、この機会に改めて感謝の気持ちを伝える。


「あれは―――そういう視線じゃなくて……」


パトリスが言いよどむのは、珍しい。


「ロベール様が気の毒になってきましたよ。あなたは、ロベール様に好意を持たれていると気がついていない? あれほど熱心に見つめられているのに」


「ええっ!?」

驚きのあまり声が出た。


「ロベール様は『見つめている』のではなく、『睨んでいる』のでは?」


例え、ロベールの目付きが元から鋭いとしても、さすがに「好意」であれはない。ルナはパトリスに教えるような気持ちで告げる。


「好意を持った目というのは、ヘザー様に向けるシャルル様の眼差しでしょう?」


ルナの発言にパトリスが納得してくれたようだ。肯定する。


「確かに」

「でも男には、好きな女性に素直になれない面倒な奴もいるんですよ」


 まさかロベールがその面倒な奴だ、とでも言うのだろうか。ロベールがそういう性格で、自分に好意を持っていると言われても、ルナには全く実感がわかない。



 パトリスに押さえられているルナの手が、上からきゅっと握り直された。


どうかしたのだろうか。怪訝に思って見上げると、パトリスが少し屈んでルナの顔を覗きこんだ。


「ロベール様が怖い?」


聞かれて、すぐに首を横に振る。

好きではないが、怖くはない。



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