↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味顔の短期雇用専門メイドは、実は美人です。しかもワケあり、養母は最強。  作者: 小田ゆなこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/600

ミモザの城ー姫君と執事・3

「ねぇ、バルドー。何を書いたらいいのか分からないわ」


「執事バルドー」に「エステレイル姫」が困った顔を向けた。


「エステレイル姫」は、赤い表紙の日記帳を開き、インクをつけたペンを手に持っているのだが、その紙面は白いままだ。


先程から一文字も書けていない。ルナには何を書いていいのか見当もつかない。



 執事長から「ごっこ遊び」を提案されて、セドリックの為に冊子を入手したいルナは、勿論その提案を受け入れた。


 エステレイル姫と話したのは一度きりで、話し方を真似する自信はない。が、実際―――実体の無い姫君に「実際」という言葉を使うことが妥当かどうかは不明だけれど―――に、エステレイル姫に面識があるのは、セドリックと自分だけだ。


ならば「なんとなくエステレイル姫風」でも、誰にも違いは分かりはしない。求められたのは「ごっこ遊び」であり「物真似」ではない。そこは割りきることにした。


 椿館のマダムカメリアも言っていた。

「全ての女は生まれながらにして女優である」と。

もちろんマダムも、誰かの受け売りだろうけれど。



 ごっこ遊びを始める前に「執事長が執事長のままでは、ごっこ遊びにならない」とルナが指摘した。


一瞬考えて執事長は「では、バルドーとお呼び下さい。王家は『執事長』などと呼び掛けませんからね」と応じた。




そうして始まった「ごっこ遊び」の最初が、

「久しぶりに日記を付けましょう姫君」だった。


 ルナには姫君の日記帳に、勝手に書き加える事への抵抗感があるけれど、昨夜「家財には制約がない」と聞いた。今後書く人もいない日記に一行二行加わっても問題はないだろう、と思うことにする。


 一度お会いしただけのエステレイル姫は、それを気にするほど繊細な方ではないように見受けられたし―――失礼ながら。



 何かの参考になれば。そう思ってルナが前のページをめくると、書かれている内容は日記というより備忘録だった。


その日の行事、参加者。日によっては着用したドレスの色やアクセサリーの石の種類。人からの贈られた物が書き込まれているくらい。


読みやすいが、走り書きのようなページもある。


「事実しか書いてない」


ルナの呟きに執事長が答えた。


「自室から出さない私文書とは云え、誰の目に触れるか分かりませんからね。姫君たるもの軽々しく心情を書き留めたりは、なさらないでしょう」


もっともな話である。ならば、とルナはやっと真っ白な紙にペンを置いた。



 城に着いた日の日付を入れ、フォーチュンカード作りで書き慣れている装飾文字を丁寧に綴る。


「本日、帰城す」


一瞬目を見開いた執事長がすぐに表情を戻す。


「大層美しい文字ではございますが、一行では寂しゅうございますね。もう一言添えては?」


勧められて考える。確かにルナが自分で見ても、頁(ページ)の上部に一行では、物足りない。心情は書かないと聞いたばかりだし……思いついて加える。


「ミモザは今が花盛り」



 隣から見守っていた執事長が、言葉につられるように部屋の窓からミモザの木を見下ろす。


ぶわり。吹いた風が枝を揺らし、黄色の花を巻き上げる。丸い小さな花の玉が風に乗る。


「姫君、ご覧ください。盛りも盛りでございますよ」


 促されてルナも席を離れ窓辺へ寄る。

少し離れた城壁の内側にずらりと植えられた木は、大木が多い。ここ数日で盛りを過ぎるのだろう、黄色の花が一斉に散る様は、風に色がついたようだ。


「今年は盛りが遅かったのですよ。姫君のご帰還を待ったのでしょうね」


執事長が思いやり深い笑みでルナを見詰める。


「バルドーったら」


ルナも笑みを返す。部屋、城、景色と揃う壮大なごっこ遊びだ。



 ルナが清月の騎士を思うように、執事長もエステレイル姫に何らかの思いを持っているのだろう。姫君がくれた鍵を持つルナに、エステレイル様を重ねるのは当然のように、今は思える。


「騎士様だって、エステレイル様と私を重ねたのだから」と。



「書けました。今日はもう書きませんからね」


 日記帳を覗き込んだ執事長に、宣言する。ルナの頁には、絵画的な文字が流麗に記されている。それを示してルナは唇を尖らせた。


「大変結構です。では片付けてお茶にいたしましょうか」


執事長は元あった場所に日記帳を戻すと、テーブルの上を片付け始める。


「私がします」と立ち上がりたいところを、ルナはぐっと我慢した。姫君なら手伝ったりはしないから。



「その前にこちらへよろしいですか」


執事長が隣室のドレッサーの前へとルナを誘(いざな)った。


「城でおくつろぎの時には、髪を下ろしておいででしたよ。当時は」


 言いながら鏡越しに、髪に触れる許可を求める。ルナがうなずくと、執事長はブラシを片手に編んだ髪を手早くほどき始めた。


 みるみるうちに解かれた髪が、背中へとふわりと広がる。前髪を膨らませて一捻りすると、サイドの髪を掬って合わせ、後頭部の高い位置でまとめた。仕上げに光沢のある幅広のリボンを結ぶ。


背中へと流した髪から少し取り分け、胸へと垂らした姿はいかにも少女らしい。


「少し子供っぽいかしら」


 鏡の中の自分が、まとめ髪より愛らしく見えて、ルナとしては実年齢がバレそうでひやりとする。


 そして、執事長がどこで知ったのか。

鏡に映る髪型は、ルナの見たエステレイル姫とよく似ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。