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地味顔の短期雇用専門メイドは、実は美人です。しかもワケあり、養母は最強。  作者: 小田ゆなこ


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ミモザの城ー王国の御令息・5

 静かな口調に、隠せない苛立ちが混じるのを感じながら、ルナはアランのよく磨かれた靴の先を眺める。


不意に灯りが遮られた。アランが一歩近づいていた。


「指先が白くなる程、身を固くして。震えているのがわからないとでも思うのか」


片膝を着いたアランに、膝の上で握りしめた手を解かれ、目の前に突きつけられる。


……そんなの見せられなくても、わかってる。自分の指だもの。


 見逃してくれればいいのに。仕方なくアランに握られた自分の指に目をやる。長く力を込めすぎたせいで血の気の失せた指の小刻みな震えは、自分でもどうにもしようがない。



気が付かないとは思わないにしても。

「気が付かないふりをして下さればいいのに。とは思いました」


 ルナが諦めて笑いながら肩をすくめて見せると、手を握るアランの力が強まった。更に苛立ちが増したらしい。私の手が握りつぶされてしまいそう、と思う。


「―――執事長は、何をしていた」


執事長さんを止めたのは私です。ルナが答える。


 酔っているとはいえ、ロベールは侯爵家の御令息である。伯爵家の使用人が諫めては問題になりかねない。気分を害したロベールが交流会を放り出して帰りでもしたら、ホスト役を務めるシャルルの落ち度となる。


 その点、ルナの失態であるならば「メイド風情」のした事だ。その場で笑われるか詰られるかして、それで終いとなる。


 ルナはあと数日でここを離れるが、侯爵家とコルバン家は今後も顔を合わせる。自分ごときの為に両家の今後の関係を悪くするのは心苦しいという事を、遠回しに伝える。



「何となく近くにいらっしゃる気がしたのです」


 アランの手からルナは自分の手をそっと抜いた。

壁に寄りかかって床に横座りする自分に、片膝をついて至近距離で話すアラン。これはこれで、誰かに見られたらアランの醜聞になる。


「だからか? 悲鳴も上げず、物音も立てなかったのは」


 何かを探るような視線に耐えかねてルナが目をそらすと、アランの手が伸びた。のけ反ってよけたにもかかわらず、肩に巻きつけたテーブルクロスをぐっと開かれる。


 裂けた衿元が見えると焦るルナに、アランの口角が上がった。獲物を捕らえた猟師のようだ。

ルナよりも固い指が服の裂け目をなぞる。肌に触れる指に、背筋がぞくりとする。


「隠し事は、もっと上手くしないとな」


 間近にある蒼い瞳を見ていられなくて、ルナは目を伏せた。顔が見えないのも怖いけれど見ているよりはマシなはず、だと思う。



「お前くらい守れなくて、何のための男だ」

溜め息と共に囁かれて、思わずルナの肩が跳ねた。


「お前は。声をあげる気も騒ぐ気もなかったんだろう? 聞こえれば俺は、すぐにでも助けに入るつもりだったのに。俺がすぐそこにいると知りながら。いや、知っていたから、か」


図星すぎて、顔が見られない。


 実際、こんな下らない事でいさかいになっていいはずは無いのだ。酒に酔った貴族に絡まれたメイドごときで。

しかも何事もなかったのに、ここまで言われなくてもいいのでは。ルナは開き直る気持ちになる。



「目を閉じていても、何となく分かるものだな」

お前今ロクでもない事を考えていただろう。言われて、驚いて目蓋を持ち上げると、ふわり、髪を撫でられた。


「あいつに解かれたのか」


しかめた顔に、首を横に振る。


「少し乱れたので、自分でほどきました」


 答えるとまた溜め息を落とされた。髪は撫でられたままで、肩に置かれた手もそのままだ。触れる手の温かさが気になって落ち着かない。


瞳で訴えようと、伏せていた目をルナがアランに向けると、ひどく真剣な蒼い瞳に捕らえられた。


「少しは頼ってくれ。守りたいと思っている」


 低い声に、ルナの胸が詰まる。金の髪に蒼い瞳で「守りたい」と言われては清月の騎士とどうしたって重なってしまう。どうかこれ以上思い出させないで。強く願う。


 それでなくともこの城に着いてから、ざわざわと心が落ち着かない。エステレイル姫君がお住まいだったと思うからか。事前に城の見取り図を見すぎたせいで、着くなり見覚えがあると感じてしまったせいなのか。


 その城に清月の騎士によく似たアランが今を生きている。それだけで今、自分がどこに生きているのか分からなくなりそうな程、ルナを混乱させる。


……騎士様とはもう二度と会えないというのに。息を呑むようにして見返していると、優しく頭を抱き寄せられた。


「そんな切な気に瞳を揺らすな」


すぐ側で柔らかい声が響く。


 ルナには「瞳を揺らす」がどういうものかは分からないが、アランの気持ちを静める効果はあったらしい。髪に口付けられているようだけれど、顔が見えるよりは話しやすい。


気はすすまないが、今言わねばならない事がある。


「アラン様」

「なんだ?」


「気にかけて下さって嬉しいのですが、私はメイドです……昨日初めてお会いした」


待っても返事がないので、続けることにする。


「どうぞ、今夜の事はご放念下さい」

幸い誰にも見られていないし、騒ぎも避けられました。何もなかったのですから、と添える。


 アランがルナの髪を撫でる手もそのままで、沈黙だけが重い。


 自分がソフィアと名乗り、アランが黒髪だったのはまだ三ヶ月と少し前だ。思いがけない再会にお互い話したい事はあるにしても、アランの身分を知り公国使節団のメイドとして再会してしまえば、口に出来る事は限られる。


こんな風に話せるのは、今だけかもしれないと分かっている。これは許される範囲だろうか。



「一度頼ってしまえば……どこまでもお気持ちに甘えてしまいそうです」


アランの肩口に顔を寄せたまま、告白する。

「甘えてしまいそうで怖い」とは言わずにおく。


「わかった」

穏やかな声が肯定した。


「お前の気持ちを尊重しよう。我がコルバン家は、今夜お前に守られたのだしな」


 出来の悪い息子が、侯爵家の息子と乱闘騒ぎを起こさなかったのはお前のお陰だ。言ってアランが小さく笑う。


ルナにしてみれば、事の原因は自分にあるので礼を言われても困るのだけれど。


 それを機に、身体を離された。

部屋まで送るというアランの申し出を丁重に辞退する。こんな夜更けに一緒にいるところを誰かに見られたら、今夜の努力が水の泡だ。


必死になって断るルナにアランはまた低く笑った。



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― 新着の感想 ―
ルナとシスターリリーに血の繋がりはない筈。なのに、アラン君の姿にトムやラウールが重なって見えました。 公国よりラテン系?!の王国紳士のアラン君は、ジャスパーより血の気が多いご様子。 本人に迫っちゃう…
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