レオンとハリーと幼いルナと・6
「やあ、珍しいものを見ているようだね、ボクは」
身動きひとつせず、規則正しい呼吸のみ静かにするルナに膝を貸しているレオンのすぐ後ろから、軽く明るい声がした。
予測していたかのように、レオンは振り返りもせず、驚きもしない。
ベンチの後ろまで灯りは届かない。木立のすぐ脇にいるであろう人物の様子は、まるで窺えなかった。
「お前が先だっただろう」
唇をほとんど動かさずに、レオンが応える。
「いや、屋敷に入ろうとしたらキミ達が見えたから、合わせて移動してきたんだよ。で、その子はなに? まさか庭に出る目眩ましってだけじゃないんでしょう?」
男は、暗がりから踏み出さずに会話を続ける。
「察しがいいな。お前に会わせておこうと思って、連れて来た」
「え? まさか協力者にするつもり? この子どこかのご令嬢でしょう?」
「いや。教会の娘だそうだ。今夜は寄付集めに寄越されたらしい」
ひょいと、レオンの肩越しにルナの顔を覗く気配がした。
薄明かりのなか、男の手入れの行き届いた濃い茶色の髪が美しい。
「へ~え、じゃあ、その服も寄付された物なんだね。ずいぶんいい品だから、ご令嬢かと思ったよ。なるほど教会の娘ねぇ。今まで考えたことがなかったけど、存外使い勝手がいいかもね」
レオンは肩を軽く上げるだけで、口を開かない。
「髪は結構長いんだね。色は……ヘーゼル? う~ん美人さんかもしれないけど、特徴のない顔だねぇ。目の色は?」
見知らぬ男に観察されているとは、全く気付く様子のないルナの目は、しっかりと閉じられている。
「暗くて分かりにくいが、見たところ髪色はヘーゼルというよりパッションブロンドだ。瞳は灰色」
「ますます地味だね。かえってそれは都合がいいかも」
男の明るい声は、どこまでも楽しげだ。
レオンはルナの耳にあてた掌を全く動かさず、会話を続ける。
「お前の同意が得られたら、動こうかと思うが。近々に面接をしてくれ」
「了解。うん、こういう小さな町は、大人の男より案外こういう子が向いているかもしれないね。明日にでも接触してみるよ」
承知したと、男が一・二歩遠ざかった。
そこで、ついでのように聞く。
「ところで、どうしてこんな状況になってるのさ?顔を見るだけなら、慣れない膝枕なんてする必要ないんじゃない?」
レオンは一瞬、間を置いた。
「どこか懐かしい気配を感じて声をかけたら、少し顔色が悪いようだった。お前への面通しを兼ねて休ませようとここまで連れて来たら、足元をふらつかせた」
レオンの口ぶりは独り言のようだ。
「懐かしさの原因は、姪が同じ年頃のせいかと思い、遊び疲れた子供を休ませるのと同じようにしてみた、というところだ」
もう整理できていたのであろう思考の流れを、淡々と説明する。
「懐かしい……ねぇ。ねえ、レオン。ボクには姪はいないけれど、その子には馴染んだ気配を感じるんだよ。その子のまとわせている気配が、ボクには好ましいんだ。……どうしてだろうね?」
変わらぬ明るく軽い声は、最後は自問するように小さくなった。
足音もなく気配が遠ざかる。
同時に闇が深くなったように感じられる。
レオンは、膝の上ににあるルナの顔に目を向けた。
先ほどよりは、唇に色が戻っている。多少は休息できたのだろう。
「さて、いつ起こそうか」
無防備な少女の寝顔から目を離さずに、レオンは思案を始めた。




