レオンとハリーと幼いルナと・5
しばらく歩くと広間の灯りが届かなくなり、散策道のランプも置かれている間隔が広くなった。
さすがにここまで来る客人も少ないようで、空いていた木製のベンチを見つけ、レオンはルナに腰かけるよう勧めた。
「ありがとうございます」
腰を下ろそうとして目測を誤ったか足元がぐらりと揺れ、慌てる前にレオンの腕がルナの肩と肘を支えた。
「先ほどから少し顔色が悪いと思ったが……疲れが出たのではないか?」
言いながらレオンも隣に座る。近すぎず遠すぎない距離だ。
「失礼いたしました」
否定はせずに、ルナがうなずく。
「やはりな。少し横になるといい。ここなら人目につかないし、誰か来たとしても、あなただとわかることもないだろうから」
そう口にしたレオンは、ルナの身をすいっと斜めにずらすように腕を引いた。
ルナは声を立てる間もなく、レオンの膝へ頭を乗せるような形で、ベンチに横にされてしまった。
膝枕というものだ。さすがにこれは……と起き上がろうとしたが、握られた腕と合わせて、ルナの額を軽く押さえているレオンの手が絶妙な力加減で、全く身体を動かせる気がしない。
「レオン様っ」
懇願するように声をあげる。
「言ったろう? 姪が懐かしいと。私は姪が疲れていれば、きっと同じようにする。だから、気にする必要はない。元々私が休みたいと思ってここへ来たのだから、あなたも休むのはおかしくないだろう?」
少し低く抑えた、なだめるような調子の声。
「他からの視線が気になるのなら、こうしよう」
続けて、さらりと旅装の埃よけの薄いマントを外した。自分の左肩からマントを斜めに掛け、ルナを覆うように包み込む。
ルナは何と言ってよいのかもわからず、レオンの膝の上から、すっきりとした形のよい顎を見上げた。
「ふむ。これはこれで落ち着かないものだな」
ルナを見おろしたレオンが、微かに笑う。
落ち着かないのは私のほうです、とルナは言いたいところだが、横になってみるといっそう疲れを自覚した。
身体がベンチに沈みこんで行くようだ。
「少し顔をこちらへ」
頬に硬い手が触れて、顔をレオンの体の方へ向けられた。
「目を閉じて、外界を遮断した方がいい。そうだな、音もないほうが疲れが取れやすい」
ルナの耳に、レオンの手のひらが乗る。
「こうしているといい。大丈夫、しばらくの間だ」
包まれた身体は温かく、額に置かれた手から伝わってくる体温は、慣れない大人の男性のものだというのに、ルナの緊張を解いた。
それを不思議だと思う思考力もない。
レオンの声も物音も、もはや少しも伝わって来なかった。
……なるようになればいい……
ルナは思いきりよく、考えることを止め、温かい微睡みに身を委ねた。
だって、このあと教会まで帰らなくてはいけないもの。少しでも体力を回復しなくては……などと自分に言い訳をして。




