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ダークエルフのお城訪問

 メリッサの拳が鉄の門を華麗にぶち破った。


 堅牢そうだった鉄の門は、蝶番のところから軽々と吹き飛んで、城の外壁に激突した。レンガの外壁が崩れるすごい音がする。


 俺とベルは、それを。

 呆然と眺めることしか、できなかった。


「……」

「……ど、ドラゴンって、すごいのね……」

「う、うん……」

「ふ、夫婦喧嘩の時は、気をつけた方が良いかもね?」

「うん……」


 吹っ飛んでいった鉄の門を見、メリッサはむっふー! と自慢げな顔で振り返った。女の子らしい細い体からはとても、あの鉄の門を一撃で破壊したなんて想像できない。

 いやまあ、この目で見てたんですけど。しかも多分、あれが全力って感じじゃなさそうだった。絶対ちょっと余力あった。


「さあサトー! 城の中に入ってくれ」

「は、はい……」


 俺たちはおっかなびっくり城門を通り、城の敷地中に入った。


「……さて」


 城の敷地内は俺の独壇場で、頭の中に城内の情報が自動的にダウンロードされてくる。


 ダークエルフの城の名前はトームペア。城主はシノン・ローマンというダークエルフだそうだ。

 城内はずいぶん広いな。その割に入り組んでいて、目的地になかなかたどり着けないようになっている。侵入者を惑わせているのだ。

 けれど隠し通路があるから、その存在を知っている者は、城の要所に素早く到着できる。抜け目のない造りだ。ちょっと忍者屋敷っぽいな。


 それでいて、アーチを多用した荘厳なダンスホール、ねじれた柱や意匠の施された柱で遊び心を加えた執務室などがあって、この城をデザインした者の技量の高さがうかがえる。

 うん、この柱のデザインは参考になるな。ちょっとうちでも真似させてもらおう。


「しっかしまあ、ダークエルフってほんと、ヤクザみたいなんだな……」


 財宝の類は分散して厳重に保管され、出入りは厳密に記録されるようになっている。

 のみならず、城のあちこちに、巨大な武器庫があった。ダークエルフは魔法も武芸にも熟練している(だって寿命が長いので)というから、彼らがこの武器を持てば、恐ろしいまでの破壊力になるだろう。


 まあ、メリッサのお母さん――つまりドラゴンの皇后から、財宝を一つ奪ってしまえるくらいなんだから、このくらいの武力は備えていて当然か。

 逆に言うと、これくらい防備を固めていないと、様々な種族が入り乱れる賭場を仕切るなんてことはできないんだろう。

 メリッサが人型でもあれほどの力を持っていることを考えると、用心するに越したことはない、ということだ。


「で、派手に城門を吹っ飛ばしといて何だが、俺たちは『メリアデスの玉座』さえ手に入れられればいいんだよな?」

「ああ。戦闘は避けられないだろうが、ダークエルフどもと真正面からやりあう気はない」

「じゃあ速攻でカタをつけなきゃねぇ。派手に城門を吹っ飛ばしといてアレだけど」


 俺は城の内部を探り、『メリアデスの玉座』が保管されているところを見つける。


「んー、城のだいぶ奥の方だな」

「どのあたりかしら? あたしなら壁とか扉とか関係ないから、見て来るわよ」

「いいよ、俺が『模様替え』で近くまで運ぶから」

「それはやめた方が良い、サトー。あれは呪われている。近づくとどんな危険が身に及ぶか分からん」


 そうか、呪われてるんだった。それなら先に様子を見てきてもらった方が安全か。


「でも、一人で大丈夫か?」


 ベルはきょとんとする。それからくすっと笑った。


「もう死んでるんだから、何があったって平気よ?」

「いやでも、幽霊祓いみたいなことができる奴がいるかもしれないだろ。俺だって城の中の幽霊ならいつでも消せるんだし」

「そうだったわね。でも、大丈夫。メリッサちゃんは嬉しくないかもだけど、あたしまだまだ消える気ないから~」


 そう言われては無理やり引き留めるのもはばかられる。


「じゃあ……。あの玉座はこの城の最下層、牢屋のすぐ近くで、西側の小さな部屋に保管されてる。この説明で分かるか?」

「ばっちりよ。じゃあ、行ってきま~す」


 ベルはふよふよと床をすり抜けて行ってしまった。


「さて、そろそろ異変に気づいたダークエルフの連中が駆けつける頃だな」

「おう。……ん?」


 『メリアデスの玉座』周辺を探っていた俺は、見知った顔に気づいた。

 これは、なんでだろう? でも確かにこの気配は――。


「サトー」


 メリッサの緊張した声が呼ぶ。

 俺は顔を上げた。城からゆっくりと姿を現したのは、金髪を刈り上げ、派手なレザーファッションに身を包んだ女性だった。

 刈り上げた頭の形は美しく、かすかに尖った耳が、なんかこうパンクっぽくてかっこいい。ダークエルフの年齢を当てるのは無意味かもだけど、外見は二十代前半って感じだ。


 その人の、翡翠みたいな色の目が、じろりと俺を睨んだ。


「メリッサオイオス。人間など引き連れて何の用だ」

「なに、もてなしは不要だ。我らは貴様に預けていた物を取り返しに来たまで」


 メリッサが低い声であざけるように言う。迫力は目の前のダークエルフに全く引けをとらない。

 なるほどこれがドラゴンの王女様。


「……はッ。このシノンが、城から対価もなしに財宝を持ち出すのを許可するとでも?」


 シノン。ああ、この人が城主というわけか。さすがにいきなりドラゴンがカチコミしてきたら、城主が出ざるを得ない、ってことかな。

 低い声に威圧的な見た目。賭場を仕切るダークエルフたちを取りまとめるには、十分すぎる貫禄だ。


「許可が必要だったとは初耳だ。ダークエルフの蛮習に疎いもので、失礼」

「トカゲごときがさえずるな。その鱗、一枚一枚丹念に剥がしてしつけてやろうぞ」


 ずいぶん煽るじゃん? と思う間もなく、メリッサが両の拳を握りしめる。

 シノンはにたりと笑うと、腰に下げた剣を抜いた。

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