もらったジョブが最弱ジョブだったのですが!?
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古城清掃人、という自分のジョブを見たときは、何かの冗談かと思った。
けれど、俺たちをここへ転生させてきた女神とやらが、あっちゃー、という顔になったので、冗談じゃないんだコレ、と悟った。
「ええっと……。キミは、古城清掃人、かあ……」
「どう見ても外れジョブですよね!?」
「うーん、外れっていうか、最弱? 一番戦闘能力が低いのは『芸人』だと思ってたけど、上には上がいたか~」
「いや、上には上がいたか~じゃなくてですね!? 俺、このジョブで魔物退治とかするんですか!?」
「魔物退治は……できないと思うなあ」
女神は言いづらそうに、けれどきっぱりと言った。
そこそこショックだった。
俺の名前は佐藤。詳細は省くがクラス全員でこの異世界――ブラックフット国に転生してきた。
俺たちを転生させたのはブラックフット国の守護神であるこの女神で、魔族の手からこの国を守るため、俺たちに特殊なジョブを付与した……というのだが。
どうやら俺は最大級の外れくじを引いたようだった。
女神はぐぬぬと唸りながら、
「魔物っていってもピンからキリまであってね。キミたちには最終的に、ドラゴンを倒せるくらいのところまでは、レベルアップしてもらいたいんだけど……」
「俺たぶん、スライムとかも殺せない気がする……」
「いやスライムくらいなら! 全力で頑張れば! 刺し違えるくらいはできるって!」
女神の励ましがむなしい。スライムでさえ刺し違える覚悟でないとだめなのか。
混乱する頭を整理しながら、俺は言葉を絞り出す。
「え、清掃人ってことは、ただ掃除するだけ? 固有結界的に城を出したり引っ込めたりとかも、できない?」
「う、うん……。でも物は考えようっていうか! 古城清掃人はね、どんな城でも居心地よくできるから、皆の魔族退治の拠点を作れるかも!」
「んなもんいらねーよ」
そう言ったのは『剣闘士』といういかにもなジョブを手に入れた、松田だった。
にやにや笑いながら、
「桐原は『詐欺師』だ。その話術があれば、村一つを拠点に差し出させることだってできるだろ。城一つ用意できるから何だっつー話」
と言って、自分の取り巻きたちを見やった。
取り巻きは『詐欺師』『剣士』『魔導士』『弓兵』『治癒師』といった、いかにも有能なヤツばかり。
そもそも松田はクラスの中でもイケメン、成績優秀、サッカー部という三種の神器を元々持っているヤツだった。
その上『剣闘士』である。そりゃまあ鼻高々だよな。
対する俺は『古城清掃人』。なんだそれ。清掃人なんて要するに下っ端じゃん。
「使えないジョブのやつはついてくるなよ。魔族退治は全部俺たちの方でやる」
「あ、あの、でも! 最初は皆固まって行動した方がいいんじゃ……。それにまだ、佐藤くんの仕事が弱いって、決まったわけでもない」
そう言ったのは野村さんだった。図書委員で、いつも物静かで、たぶんクラスの中で一番肌の色が白い女子。
松田は子どもに言い聞かせるみたいに、
「野村さん、古城清掃員とやらが俺たちにどんな貢献をしてくれるのか、言ってみてくれるか?」
「い、今はまだどんな風に役に立つか分からないよ。でも、役に立たないからって切り捨てると、あとで後悔するかも……」
後半、声が尻すぼみになったのは、松田があからさまに嘲笑を浮かべて、舌打ちさえしてみせたからだ。
「ったく、毎日優雅に読書してるやつは言うことが違うな。でもさ、野村さんも『宝石師』なんて戦闘に直接かかわらないジョブなんだから、あんまり出しゃばらないほうが良いと思うけど?」
「でも、」
「俺が野村さんを連れて行くのは、『宝石師』のキミが作り出す宝石で、金を稼げるからなんだ。その辺よく理解しといてくれよ」
野村さんはそれ以上反論できず、俯いてしまった。
松田が言うのも分からないでもない。
それに、何が起きるか分からない異世界では『剣闘士』みたいに分かりやすく強いヤツについて行った方が安心だ。
「……俺さあ、佐藤のその、なんでも分かってますみたいな顔、前から大っ嫌いだったんだよな」
「あっそ。お互い様だけどな、そんなの」
「ま、今となってはこの力の差だ。みじめな負け犬は二度と俺たちの前に姿を見せるなよ」
もうクラスメートという関係を維持しなくてもいいと分かった途端、みじめな負け犬呼ばわりである。
別になんでもいいが、そんなに露骨に手のひら返ししていいのか? 典型的な雑魚キャラムーブじゃないのか? と他人事ながら心配になった。
「女神だっけ? そいつは街から遠く離れた場所に飛ばしといてくれよ。目の前でうろうろされると目障りだ」
松田はクラスメートを引き連れて去っていった。ここから女神が街まで転移させてくれるのだという。
最後まで後ろ髪をひかれたように残っていた野村さんだったが、彼女もまた松田のあとをついて行った。
「ありがと、野村さん」
「……! ごめんね、佐藤くん」
なんか、たぶん、その一言で十分だな、と思った。
皆を街まで送り届けた女神は、はふうと物憂いため息をついた。
「貴重な異世界人だったのに『古城清掃人』なんてジョブで枠を埋めちゃうなんてツイてなーい。ルーレットでジョブが決まるとは言っても、せめてもっとこう潰しのきくジョブを引き当てて欲しかったなあ……」
「あんたが勝手に連れて来て、勝手に妙なジョブを割り振ったんだろうが」
「ごめんてー。しかももう一つごめんなことがあるんだ……。キミたちにあげたスキルは、ジョブに紐づいてるんだけどね、『古城清掃人』はほとんど一般人と変わらない程度のスキルしか持ってないみたいで」
「つまり?」
「古城以外では、キミの身体能力とか運とかスキルは、ぜーんぶ村人レベル」
「……まあ、清掃人に常人離れした腕力が必要とは思えないからな」
俺があまり怒らないのを見て、女神はほっとしたような顔になった。
「お詫びに掃除しがいのある古城があるところに飛ばしてあげる。村からちょおーっと遠いけど、魔物も寄り付かない場所だし、自給自足もできる場所だよっ」
「分かってるよ、松田が街から遠い場所に飛ばせ―って言ってたもんな」
「う……。だ、だぁって『剣闘士』って、一番強いジョブだし、ぶっちゃけ彼が一番貴重っていうか……。長いものには、巻かれとけ? っていうか?」
現金な女神だ。まあ、少しでも罪悪感を抱いているだけましか。
「と、とにかく! キミ的にも、彼らとは無関係なところで、静か~に過ごしてた方がいいと思うのね!」
「それについては同感だ。ついでに当面の金と武器と食料と服と……何かあったときのために、救急セットも欲しい。どれも最高級のにしてくれよ。俺はスライムにも勝てないんだからな」
「はいはい、その辺はサービスさせてもらいます~」
女神は俺にたんまりと物資を持たせると、ブラックフット国に送り出した。