第64話 正せ
二瓶は話し合いを終えて体の自由が戻ってすぐ、自分の部屋に渡辺と日高を連れてくると、ダイニングの椅子に座らせ、目の前にペレットと水を用意した。
彼女が軽く椅子を引くとキイィと擦れる音がした。気にすることなく座る。
「いただきます」
二瓶がそう言うと日高は「……ます」と追従したが、渡辺は何もしないまま俯いている。
二瓶は自分の分の袋を開け、未だ動かない渡辺の分の袋も空けた。しかし、渡辺にリアクションはない。感謝の態度もない。
「ほら、食べないと……」
二瓶は手本のようにペレットを摘まむと口に入れて噛み、飲み込んだ。渡辺は見ようともしなかった。
「食べられない?」
そう尋ねると渡辺は辛うじて頷いた。
「でも、食べないとますます力がなくなっちゃうよ?」
心配そうに顔を覗きこむと、渡辺は青白い顔でどこか虚ろな瞳をしていた。今日は広間で吐いていないのに、エネルギーを失った顔をしている。
「どうしよう……昨日はレトルトのお粥があったけれども……」
二瓶が混乱する横で日高はゆっくりと自分の分を食べている。
「どうしよう……」
「本当に、食べられない?」
二瓶が少しだけ圧をかけるも、渡辺は反応しない。
「それなら……それならもう、……こうするしかないよね」
二瓶は立ち上がると台所に置いていたミキサーを手に取った。
「こうするしか……ないよね。液体なら食べられるよね」
そしてそこにペレットと水を入れて蓋をし、スイッチを押した。ガリガリとペレットの砕ける音、ウィーンとモーターの動く音がして、少ししてスイッチを切ると、そこには冷たいお粥状のペレットが出来上がっていた。
「ほら、これなら食べられるでしょ。口……開けて……お願いだから……」
二瓶は中身をお椀に移すとスプーンでそれを掬い、渡辺の口元まで持っていった。
「お願い……口、開けて……」
「……ぃ」
渡辺はついに口を開けた。そこに二瓶はスプーンを入れ込んでお粥状のペレットを中に流しスプーンを抜いた。じっと口を見つめ、飲み込んだのを確認すると、二瓶は小さく笑みを浮かべて「おいしい?」と尋ねた。渡辺は小さく頷いた。
「そしたら、ほら、食べよう? 大丈夫だよ」
再び掬って渡辺の口に入れながら、二瓶は説明を始めた。
「大丈夫、洗剤もスポンジも用意してあるから、ミキサーもお椀もスプーンもちゃんと洗って使えるよ。だから、心配しないで食べて、ね?」
それから二瓶は流し込むようにして渡辺にお粥状のペレットを食べさせた。日高は食べ終わっており、ごくごくと水を飲んでいる。二瓶は渡辺に食べさせることに必死で自分の分を食べようとしていない。
「よかった……これで元気になるよね。」
目尻に涙を浮かべながら、彼女はお椀の中のペレットを渡辺にどんどん食べさせていく。渡辺もとにかく口の中を空にしようと飲み込んでいく。そうしないと溺れそうになる。
(……僕、ここにいなくてもいいんじゃないかな)
日高は心の中で思った。無視はされていないが完全に空気であることに変わりはなかった。
(先に歯、磨きたいんだけれどな……)
日高の望みが叶うことはなかった。二瓶は渡辺に食べさせ終わると次の指示を出すことなく、自分の分を食べ始めた。それも、大して急いだ風もなく、普通に食べていた。
*
「っべえって」
橋爪は自分の部屋に戻ってすぐ、他のメンバーが来るのを待ちながら右往左往していた。
「怜誠クン、死んじゃったじゃんか……」
「っす」
まず初めに来たのは森本だった。
「どうします? 怜誠クン、死んじゃったし……」
「俺も分かんねぇよ」
いささか冷たい声で橋爪は言った。しかし、自分でもその声の冷たさに気が付いたのか、「的な?」と着地をぼかした。
「どうするよ」
次に訪れたのは小嶋だ。
「なんかある? 怜誠クン死んだし……」
「いや、今からそれ考える、的な?」
最後に来たのは竹崎であった。
「ちょい遅れた」
「とりあえず、夕飯にしようぜ」
橋爪はそう言うと、ダイニングの戸棚からペレットと水を4人分取り出した。
「怜誠クンのことはアレだったけど……まず飯にしよう、的な?」
真っ先に夕食にしようとしているのは言わずもがな、なにも思いついていないからである。4人は無言でペレットを貪り始めた。
「つか、どうするよ。怜誠クン死んじゃったけど……」
ただ、食事中でも話をすることはできる。橋爪はそれをド忘れしていた。小嶋が言い出すまで全く思いつきもしなかった。
「どうするも……2択じゃね?」
竹崎が静かに言うと、「2択?」と小嶋が反応した。
「いや、時田たちと合わせるかどうかだけど……」
「……今更合わせる必要、なくね?」
竹崎と小嶋は2人で話し始めた。どことなくピリついた空気が流れているのは十数分前の投票で自分たちが死んでいたかもしれないという現実をありありと思い知ったためであった。
「じゃ、基本的に今までとそんなに変わらないってことでOK?」
「じゃね? 今までみたいに時田たちの仲間の振りして、で、今までのようにあいつらに票集めておけばいいんじゃね。颯真クンも言っていたし……。1つのグループには2割だっけ? 参加者の2割の人数がいると8割ルールに引っかかるからアウトって。だからある程度のタイミングで時田たちが死んでくれれば時田たちのグループの数が減って狙われにくくなるだっけ?」
「そうそう2割以上の参加者が欠席をするとゲームオーバーだから、2割以上のグループは存在がアウトだった気がする。あれだろ? 俺ら話し合いに出ねえって脅しができるからだろ? で、人数を減らしていく必要があるけど、それを時田たちの方にやらせるっていう奴」
「確かにそれ以外ない感じだな……」
橋爪は分かっていた風を装って頷いた。
「じゃ、俺らの投票のやり方は今までと変わらないで時田たちの誰かに票入れて、守りの票は俺たちで回して、ってことで」
(っぶね)
彼は心の中で呟いた。
(あれ、アイディア出てよかった)
額や首筋に熱いものを食べているわけでもないのに汗が噴き出ている。橋爪は気付かれないようにそっと拭うと、再びペレットに手を伸ばした。
(つか怜誠クンいないと話、結構スムーズにいくじゃん)
(いたときは何か聞くのにすごい神経遣っていたからな……。あれ何だったんだろう? 虎王クンの方がヤバい奴だったのに……)
橋爪はペットボトルに手を伸ばして中の水をごくごくと飲んだ。
(あれか……虎王クンいたときは颯真クンいたから制御できていたのか……)
(……怜誠クンには悪いけど……)
彼は唾をゴクリと飲んだ。
(割と、何か納得のいく展開だったかも……今日の犠牲者は……。いずれ選ばれる感がうっすらと現れていたような……そんな感じ……。だって普通に俺らで他の参加者を殺そうってしていたし……ヤベェ奴だったんだよ)
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占い
占い師というものはある意味手品師のようで、探偵のようで、詐欺師のような存在である。誰かの何かを言い当てる方法は2つある。1つは探偵のようなコールドリーディングである。靴の泥や筋肉の付き具合、日焼けの形など、目で見たもので判断をして言い当てるものである。もう1つはホットリーディングで、これは事前に相手の情報を把握した上でさも心の中を読んだかのように振舞う方法である。どちらもうまく使えばまるで自分のことを見透かしているように思われるし、その後の漠然とした占い結果で騙すのが容易になる。でも、中にはホンモノの人もいるのかな? ニニィ分かんない。
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