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第56話 遣え

 柘植と瑞葉は寝室に置いてある椅子に腰を掛けていたが、柘植はふと立ち上がりベッドの方へ向かうと、ベッドの裏側が見えるようにその脚を持ち上げた。そこにはホワイトボードが備えつけられており、更にホワイトボードには参加者の顔写真の付きのマグネットが貼られていた。

 「瑞葉、聞いてくれ」

 柘植が彼女の方に向き直ると瑞葉は嬉しそうに頷いた。

 「今日松葉が畚野を狙ったことで、ある仮説……それなりの確率であり得たことだと思うが、それが見えてきた」


 瑞葉が頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。柘植はゆっくりと瞬きをするとゴクリと唾を飲んだ。

 「松葉は近いうちにこのゲームを終わらせるつもりだったかもしれない。つまり、近藤のようなことをやる予定だったのだろう」


 部屋の温度がわずかに下がったような気がした。


 「松葉が主張すること――子供にはひらめきがあり、老人には人生経験があるから残しておくべきというのは一見筋道が通っている。全滅の危機に瀕した場合、そういう人たちが打開策を見出すということだが、しかし、その人物らは力の弱い者でもあるわけだ。力の弱い者を残し、逆に力の強い男性たちは腕力があるからということで残し……」

 柘植がホワイドボードに貼られた写真を指差していく。赤いバツ印が付けられた犠牲者の写真の上には生き残っている参加者の写真が並んでいる。


 「そうやって中途半端に頭の回る人たち、まあ、多少語弊はあるがざっくり女性たち、それから筋力の突出している人物、長堂や畚野だな、彼らを減らしていけば……あとは話し合い中のあるタイミングで、強者が弱者を一気に殺すと宣言すれば、時田たちやグループに所属していない男性たちを仲間にして、実行することができていただろう。その頃には自分の意に反する人、頑固な人物はコミュニケーションができないということにして既に排除してあるのだから」

 彼はバツ印の入った写真を何枚か指差した。

 「タイミングは……多分笠原辺りがいなくなったらやってしまう予定だったのかもしれない」


 柘植はペットボトルに口を付けた。冷たい水が火照った脳を冷ましていく。

 「やってしまえば……ゲームクリアだ。毎日死のリスクを背負う必要はなくなる。人数差もある。物理的には簡単な話だろう。あと十数人を残りの50人で叩くだけだ。近藤のように道具を使っても使わなくても本気で殺そうと思えば、まあ、できるはずだ」


 ホワイドボードに貼られている顔写真は「投票箱」の名簿から引っ張ってきたものである。しかし、何故かそこに貼られているとどうにも機械が書いた絵のように見えてしまっている。

 「この仮説に従えば松葉の行動も概ね筋が通る。つまり、私たちの気づかないうちに遠回しの悪意がそこら中に染み渡っていた。あと何日か、もしかしたら1日、過ぎていたら起こっていたかもしれない。見えないようにいつの間にか、囲まれていた。もともとここ自体が危険であることに変わりはないが、余計に危険だった」


 柘植は瑞葉が小さく震えていることに気付いた。

 「大丈夫。もう起こらないことだし、仮に起こったとしても瑞葉は私が守るから」

 彼が頭を撫でると瑞葉は嬉しそうに柘植にすり寄った。

 (しかし、恐らく偶然だろうが、松葉に票が集まったのは運が良かった……。倍率が上手い具合に効いたのかもしれない……。畚野に守りの票が集まってもいたのだろう。本当に……よかった……。私諸共殺されかねなかった)


 柘植は撫でながらも話を続けた。

 「ありがたいことに松葉は秘密主義を取っていたのだろう。元々靴のかかとの内側がすり減っていたし、時田たちや野口たちのところからはそれらしい気配はなかった。つまり、このやり口は松葉だけのところで止まっていたようだ。吉野は……薄々感づいていたかもしれないが……」

 彼が手を止めると瑞葉の方から頭を寄せていく。

 「知っていたら止めていただろう。自分だけは安全という保障はない。しかし、長堂に票が集まるように仕向けたのが松葉だとすると、吉野か時田あたりに間接的に依頼を出したと考えられるから……何とも分からない。それとも偶然長堂に票が集まったのだろうか?」


 柘植は再び水を飲んだ。瑞葉も真似をしてペットボトルに口を付けた。

 「明日からの話し合いで中心人物となるのは水鳥、笠原、藤田、あとは時田と中川か。一応福本か利原辺りも入ってくるかもしれない。まともなリーダーシップを発揮できそうなのは水鳥くらいだ。笠原は精神的に参っているようだし、藤田は二流の器だ。時田たちは大声を出すしか能がないし、福本たちは……大勢をまとめるようなことをした経験はないらしい」

 柘植はホワイドボードを目の前にしながら頭を動かしていく。


 「水鳥が主導権を握った場合、話し合いのテーマはどうなるだろうか、瑞葉はどう思う?」

 柘植は彼女の表情を読んだ。メモ帳にはっきりと書かれなくても柘植にはある程度分かる。

 「そうか、確かに彼の本業ではないから、そうなるか」

 2人は時折メモに頼りながらも明日以降の展開を話し合った。


 いくつかの可能性を考えたところで彼らはそこまでにした。いくら考えても分からないものは分からない。代わりに彼らは参加者の一番大事な人についての情報を集める作業に移った。しかし、瑞葉の一番大事な人であった佐原については全く取っ掛かりがなく、何も情報を得ることはできなかった。これは毎日のことであったため瑞葉も柘植もさして残念がることもなかった。



*



 「畚野さん大丈夫っすか?」

 時田の部屋で行われている今日の飲み会の主役は畚野であった。いつもより騒がしさが少ない中、未だ足元のおぼつかない彼がビールを飲んで体の震えを止めているところに矢継ぎ早に誰彼が称えるのである。


 「でもあれですよ、松葉から狙われていたのに奇跡の回避をして、しかも逆に松葉を倒すなんてすごいですって」

 高邑は指先が未だ震える畚野に後ろから励ますような声をかけた。


 「やっぱり日頃の行いとか、そう言うのじゃないすか、やっぱすげえっすよ」

 さらにテーブルの向こうから水野が朗らかに話しかける。


 「いややっぱ筋肉っすか?」

 橋爪がくだらない冗談を挿む。畚野は小さく愛想笑いをした。


 「畚野さん握手してくださいよぉ。あやかりたいなぁ」

 隣の出澤がバシバシと肩を叩く。


 「いや、まあ……」

 畚野が何かを言おうとすると室内は無意味にシンと静まる。タバコの悪臭や食べ物の匂いがそこら中に広がっている。

 「まあ、たまたまツイていた感じの……」


 「マジすか。それでもすげえじゃないすか!」

 水野が話に割って入ってくる。


 「メンタル鍛えるのに筋肉って大事っすよね?」

 橋爪が滑った冗談を繰り返す。


 「でも松葉を倒すまでしたんだから、もう実力って言えますよぉ」

 高邑が陽気に語る。


 「流石畚野さんですよ。絶対やってくれると思っていたなぁ」

 出澤がフラフラと手を動かす。


 (……何なん?)

 時田はメンバーの注目をほとんど集めている彼を見るうちに心の中にひどく粘ついた曇りが出てきたのを感じた。それは彼がこのゲームに参加する前から持っている性質であった。

 それは如実に表情に現れていた。その証拠に畚野は慌てて「いや、あれ、俺だけの力じゃないっす。時田さんと中川さんと、あと、マジでみんなのおかげっす」と謙遜をして、場の空気を取り成そうとした。

 「いや、ホントに時田さんと中川さんの後方支援のおかげっす。いやマジで」


 「だよな。やっぱり時田さんと中川さんがいるから俺たちはやってこれてんだな」

 坂本が焼き鳥を片手に言うと、「まあ、そんなこともあるけどよぉ!」と時田はご機嫌になった。中川も同じように笑っている。


 高邑は密かに思った。

 (加藤さんのときは結局守り切れなかったのに……。もう忘れているのか……)


 「だな! そろそろまたステージ始めっか!」

 時田は大声で注目を集めると「森本! 今日はお前からだ!」と最初に宴会芸を行う人物を名指しした。


 「うっす」

 森本はステージまで上ると、スケッチブックとスタンドを「ににぉろふ」で取り出し、自分の横にセットした。


 彼は表紙を捲った。そこには当然何も書かれていない。

 「えーっと、こんなバラエティ企画は嫌だ」

 しかし何かが書かれているような風に振舞えばそれらしく見えるのである。


 「お前小学生だろ! どんだけ前のネタだよ!」

 時田が茶々を入れる。森本はアドリブを挿む余裕がないほど背筋をピンと伸ばしている。

 「まずは『余命七並べ』。病院や老人ホームに行って余命1ヶ月から13ヶ月の人まで先に見つけた人の勝ち。ちなみにジョーカーは過労死寸前のスタッフね」

 小さな笑いが起こった。森本はページを捲った。


 「次、『コンプライアンスダウトしりとり』。コンプライアンスギリギリの言葉でしりとりをして、NGワードをダウトできなかったら負け。もちろん間違えてお手付きをしても負け。民放各局のアナウンサー同士が社のプライドをかけて競い合い、果たして勝つのはどこでしょう?」

 今度は大して笑いは起こらない。森本はすぐにページを捲った。


 「えー『リアル発癌神経衰弱』。これはねカードの表に発癌性物質が書いてあって、裏には何ガンを起こすのか書いてあって、それを揃えていくってゲームね。ホントにガンになるかはプレイヤーで試してみる、なんちゃって」

 ドカンと笑いが起こる。何が面白く何がつまらないのか、彼らの感性はここにいないものには分からないだろう。


 「最後、『白い粉大食い選手権』。これね、怪しい粉じゃなくて小麦粉。これを24時間ただただ食べ続けるっていう苦行。水と塩と白い粉だけを食べて、最後に一番たくさん食べた人の勝ち。もちろん料理なんてさせません。ひたすらに苦しそうにする芸人の顔を笑いながら眺めましょう」

 言い終えると森本は最後のページを捲り、お辞儀をした。

 「おわり。ありがとうございました」


 「まあよかったんじゃね?」

 「絵があればありかもな」

 時田と中川からの評価は何をもって何様なのかと言われそうなものであった。


 「次、畚野さん! 今日のことが忘れるくらいでかいことをやってみぃ!」

 時田がテンションを高くして言うと、唇を震わせながら愛想笑いを浮かべていた畚野はジョッキをぐいと掴み、ビールを思い切り流し込んだ。

 「おし……、おっし、行きます!」


 「おうやれやれ!」

 中川が景気よく吠えた。


 ステージ上に上がった畚野は「じゃあ、片足スクワットやります!」と宣言し、左足を空中に持ち上げるとその姿勢のままゆっくりと右脚だけで屈伸運動を始めた。


 「あれ、絶対にきついって」

 「なんかああいう妖怪いたよなあ。一本ダタラだっけ。確か……」

 田名網と高邑が感心しきっている。


 平然とした顔で一定速度の上下運動を行う畚野はある意味不気味であった。ただパフォーマンスに集中していることは見て明らかである。平然とし過ぎている。つい先ほどまで見せていた恐怖がどこにも表れていない。


 「あれで両足離して出来たらホンモノだよな!」

 時田がそう言うと部屋に笑いが響いた。それをきっかけに畚野は左足を床に戻した。

 「いやーもう限界っす。両足離すのはまた今度ってことで」


 「今度ならできるのかよ!」

 再び時田がヤジを飛ばし、その笑いを受けながら畚野はステージから下りた。


 彼の震えはいつの間にか収まっていた。アルコールが効いているところに負荷をかけたのだから、頭の中がぼんやりとするのは当然のことであった。恐怖に焦点が合わなくなっている。



**



 笠原の部屋に集まったメンバーは彼が話を切り出すのを待っている。

 (あと、来ていないのは有松君……)

 栗林は前方にある空席をチラリと見た。そこが埋まっていないがために、笠原がただじっと椅子に座っているのは明らかであった。彼は体を動かすこともなく、雑談に興じることもなく、ただ静かに座っていた。


 (どうしたんだろう……? 何かあったのかな……)

 その何かがあるはずはないと栗林は思った。広間から自分の部屋に戻り、そこで何かをして、ここに来ることができなくなってしまうようなことは思いつかない。ただ寝落ちしたとも思えない。集合時間までは若干の余裕があるとはいえ、どうにも不安になってしまう。栗林はスマホを手にして「投票箱」を開いた。

 (生きているよね……)

 そこには有松が生存していることが記されていた。


 そして数分後、栗林の不安を余所に、最後の1人である有松がやや遅れて笠原の部屋に現れ空いていた椅子に腰を掛けると、笠原はようやく口を開いた。


 「さて、みんな揃いましたね」

 輝きのない目がそこにいる子供たちを捉えた。

 「何か連絡事項のある人は……いますか?」

 ほんの少しだけ衣擦れの音がしただけであった。手を挙げる者は……いない。他のグループのように仕事の結果を報告することもない。


 「それなら、明日の投票先は田名網……田名網十三にしましょう。守りの票は順番通り小野君で。何か意見のある人は……いますか?」

 (……)

 ここでもまた口を開く者はいない。笠原の暗闇の中のような表情に圧倒されているのか、元々何も提案すべきことを持っていないのかともかく、笠原以外に話すものはおらず、不気味なほど静かだった。


 「……そうですか。解散する前に1つ、言っておきましょう」

 小さなざわめきが生じた。いつもなら先の台詞の後そのまま解散の流れとなっているにもかかわらず、である。今日は何かがある。


 (な、何、言うの……?)

 栗林は小さく震えた。笠原が目を見開いた。


 「悪いことをすれば、必ず報いがあります」

 それは学校の先生が言うような道徳的な、しかしややラジカルな発言であった。

 「松葉さんは人を人と思わないような言動が見え隠れしていました。恐らく元の世界でも同じようなこと、いや、もっとひどいことをやっていたに違いありません。その結果があれです。他の参加者から反感を買って、亡くなりました」


 彼らの頭に松葉が雄弁に語る姿が思い浮かんだが、それよりもインパクトのある光景に押し流された。つまり、透明なケースの中で彼が感電して苦しみながら死んでいく様子である。渡辺が口元を手で抑えた。


 「悪事に手を染めれば、必ずどこかで返ってきます。吉野さんも同じでした」


 (でも、そんなの分からないじゃない……。決めつけだよ……)

 栗林は自分でも不思議なくらい冷静に笠原の発言を耳にしていた。


 笠原は淡々とただ言った。

 「私たちは生き残るために時には他の参加者を出し抜く必要があるでしょう。しかし、何事にもやってよいことと悪いことがあります。戦争にだってルールはあるのです。そのラインを越えれば巡り巡って自分に返ってくることを忘れないようにしてください」


 (そんなの……みんなが守るとは限らないんだから……私たちだけが守っても、意味、ないじゃない……)

 栗林は俯いて前の椅子の背を見つめた。


 笠原のくすんだ表情の中に一層深い闇が見えた。

 「そうなったらもう、先生には助けようがありません。自己責任になります。そのことを必ず覚えておいてください」


 (助けようがないって……そんな……)

 栗林はブルリと震えた。

 (でも、悪いことをしなければいいんだよね。それなら守ってくれるんだよね……)


 「では、また明日」

 その言葉をきっかけにメンバーたちは逃げるように各々の部屋へ帰っていった。栗林も同じようにスマホを取りだすと「カードキー」を選択して自分の部屋に帰った。



 部屋に戻った彼女は真っ先に「7SUP」を立ち上げると、袴田に『またお部屋にお邪魔してもいいですか?』とメッセージを送った。


 (笠原先生についていって本当にいいんだよね……? 悪いことしなければ助けてくれるんだよね……?)

 笠原のつい先ほどの異例とも言える発言が気になって仕方がない。それどころか以前からの笠原の言動がだんだん不気味で信用できないものになっていく。


 (私、言われた通りにやっているだけだし、だから、悪いことなんかいないし……大丈夫だよね? こんなこと考えているのも見抜かれていて……悪いことしているってことになるのかな……?)


 悶々と思考する栗林を止めたのはスマホのバイブレーションであった。「7SUP」にメッセージが届いている。栗林は袴田からの返信を確認するとその場から姿を消した。



*



 別宮と若林は鷲尾の部屋を訪れていた。そこには作業用の机と椅子が急ごしらえで置かれており、元々訪問者を受け入れるような態勢がなかったことは明らかであった。

 「……どうします? ええと、松葉さんが亡くなりましたが……」

 鷲尾は2人を順番にじっと見つめた。


 (若林さんは大丈夫だ。別宮さんは松葉さんに染まりきって……いないか?)

 彼は素早く観察した。若林は俯いていながらも肩が開いている。別宮は唇を結んでいるが、これは単に緊張による彼女の癖である。2人とも一見するとただこの場に慣れていないだけにも見えるが、鷲尾はこれから言おうとすることが安全かどうかを見極める必要があった。

 (指先の動きも……つま先の向きも……大丈夫だろうか……)

 しかし、何も言わないわけにもいかない。彼は意を決して言葉を選んだ。

 「松葉さんが亡くなりましたが、僕たちは松葉さんのやり方にこのまま則っていくべきか、それとも別のやり方を選択するべきか……どう思います?」


 「生き残るためなら松葉さんのやり方がいいんだと思います。でも……」

 若林が俯いたままぼそりと言った。


 「でも……ですか……」

 鷲尾は目の前の相手をじいっと見つめた。若林は一瞬だけ顔を上げて目を合わせ、さっと目を逸らし、「はい、でも……」と口にした。


 鷲尾には若林が何を思っているのか大方見当がついた。しかし、彼がそう思っていたとしても、別宮のスタンスが分からない以上、お互いに決め手となる部分を言うことはできない。

 「僕たちが今まで集めてきたものは全部松葉さんの部屋にありましたから、全く同じことをするのはなかなか難しいでしょう。物を用意できてもうまく使えるとは限りません」

 「でも……」の後に続く言葉を上手くフォローしながら会話を続けていく。


 「そうですよね。松葉さんのやり方を完全に引き継ぐことはできませし……。ですから……別宮さんはどう思います?」

 はっきりと核心の部分を言えないまま、若林が会話のパスを回す。


 「私、ですか? ……うん……、お2人と同じ、だと思います」

 別宮は苦し気に目を細くした。


 (本人もよく分かっていないみたいだ)

 鷲尾はじいっと見つめた。

 (ここで直接的に否定したら……もしかしたら爆発するかもしれない。松葉の浸食は予想以上に深いだろう。危ういバランスで彼女は成り立っているような気がする)


 鷲尾は若林の方を向くと眉間に皺を寄せた。その意図を若林は察したようであった。彼はぎゅっと唇を結び言葉を飲み込んだ。


 「では、僕たちは残念ながらやり方が分からないため、松葉さんのやっていた策を続けないことにする、ということでいいですか?」

 鷲尾はバツの悪いような朗らかな顔をした。


 「あ、はい」「はい」


 (表情は……大丈夫だ……)

 2人は曖昧であったが、ともかく鷲尾の提案に乗った。ただの口約束に過ぎないことを鷲尾は十分に理解していたが、彼らはひとまず当座の方向性を定めることができた。

 しかし、いつ、松葉の残した悪影響が現れるのか分からない。爆発するのか、それとも音もなく静かに染み込んでいくのか、誰にも分からない。


 「まず、藤田さんや猪鹿倉さんたちとの関係ですが……」

 鷲尾は顎に手を当てた。

 「今まで通り協力していく形が望ましいと思います。その上でなるべく向こうの意に沿った形でいるべきでしょう。人数が減った以上、変に争いを起こす方がかえって危険です」


 「あ、僕もそう思います」

 すぐに若林が賛同した。


 「ええ。これまで話の中身によっては対立することもありましたが、これからは私たちの命にかかわらない限り向こうの意見に乗る方が無難だと思います」

 鷲尾が先と同じ内容を繰り返す。別宮は首を傾げた。

 「でも、猪鹿倉さんたちの意見ばかり聞いていたら私たちが生き残る確率は下がりませんか?」


 「まあ、多少は仕方がないのかもしれません」

 鷲尾が唸るように言った。

 「そもそも彼らと協調していることで元の生き残る確率が上がっていますから、全部まとめればプラスに傾いているでしょう」


 「僕たちは、あの、松葉さんのように大立ち回りができる人間じゃないから、そこで勝負をするのは難しいと思います」

 若林がそう言うと、別宮は「そうですよね……」と勢いの弱い相槌を打った。


 「それから、盗聴器ですが……先程若林さんが言ったように、僕たちに上手く使えるとは思えません。これも諦めた方がいいでしょう」

 鷲尾が言うと、2人は無言で頷いた。


 「でも」

 別宮が声に出した。

 「できることは続けた方がいい……と思います」


 「そうですね。毎朝広間に行くのは続けていいと思います。これまで何も見つかっていませんが、盗聴器や監視カメラなどが仕掛けられていないのか確認することは重要でしょう。安心できますから」

 鷲尾が比較的トラブルに繋がらない業務について触れると若林が続けた。

 「あと、そのまま広間に残って監視するのも続けた方がいいと思います。怪しい行動やこの間の毒殺のようなことがあったら真っ先に確認できるように……これは猪鹿倉さんたちと共同でやっていますから、無理に止める理由もないと思います」


 「そうですね」

 別宮と鷲尾は深く頷いた。


 「それにICレコーダーで話し合いを記録するのも続けていいと思いますが……」

 鷲尾は目線を上にやった。

 「使っていることを誰かに気取られたら少し面倒です。そこまでのリスクを背負う価値があるのか、ないのか……」


 「それなら私……は隠す場所がないし……」

 別宮は今着ている制服を若干恨めし気に引っ張った。


 「と言うことは僕たちのどちらかが隠すとして……僕たちもそうポケットの多い恰好ではないですから……どうします?」

 若林は背を丸めている。


 (僕の服の裏に隠すことはできる。穴を開けないピンで袋を取り付けて、そこにICレコーダーを入れればよい。あるいはポケットに直に入れても目立たないようにすることはできなくもない。ただ……知られた時のリスクは大きい。そして、そこまでする必要があるのかという話だ……)

 鷲尾は「うーん」と声を出して考えているふりをすると、「僕らにもちょっと厳しいですね」と口に出した。

 (第一、録音しなくても覚えていられるはずだ……。多分……)


 「それなら仕方ない……ですね」

 別宮は少し残念そうに肩を落としうなだれた。その姿を鷲尾はじっと観察した。

 (そこまで松葉に染まっていないのか……?)




**



 コピペ


 色んな作品のある部分をオマージュでもパロディでもなく、寄せ集めて真似したものを見かけることがある。それは元ネタに敬意を払っていないどころか、さも自分の発明のように掲げているから実に浅ましい。何事も元をたどっていけば何かのコピペのようなものだけれども、それでも「そこまでするの?」って思えるものもあったりして、自分で考えている人からするとただ汚く見えてしまう。完全にオリジナリティだけでやっていくのも難しいけれども、作品を作る者としてある程度の線引きは最低限のモラルだってニニィは思うな。

いつも読んでくださってありがとうございます。

ブクマ登録評価感想のどれか1つでもいただけますと本当に、本当に助かります。モチベに繋がります。

(ノ・ω・)ノよろしくお願いします!ヾ(・ω・ヾ)

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