微かな覚醒、力の一端Ⅰ
ウロボロスによって拘束され、身動きが取れずに居る神無。そんな神無の動きに合わせる形で、紫苑とベルフェゴールはウロボロスへ攻撃を仕掛ける。
両側からベルフェゴールによる影の攻撃、そして神無の背後から姿を現した紫苑は両腕に生成して纏った氷の両腕で殴り掛かっていた。
「っ!」
「『そこの男はともかく、貴様の得意分野は格闘戦ではないはずだ。付け焼き刃の肉弾戦で貴様が我に敵うはずが無いだろう?』」
ウロボロスの指摘は最もだと紫苑も理解しているからか、一瞬だけ表情を強張らせたが……すぐに口角を上げて紫苑は告げる。
「んな事は、あたいが一番分かってるさ。だから、あえて全神経を注いで突っ込んだんだよ」
「『?』」
「正直癪だけどな、この方が確実に捉えられるだろ!」
そう告げながら、紫苑は自分の拳を掴み取っているウロボロスの腕を自身の拳を経由させて凍らせていく。
舌打ち混じりに離れようとしたウロボロスに対し、紫苑はさらに拘束を強くして離脱を阻もうとする。
それに合わせたかのようにウロボロスの背後から、覆い隠すように姿を現したのは大金槌を振り上げながら迫る玲奈だった。
「──シオン、巻き込んだらゴメンね!」
「あたいを気にせずぶっ放せ!玲奈っ!」
拘束に全神経を注いだ紫苑は、自らの犠牲を省みずに確実にダメージが入る選択を取った。
最初の神無の行動を囮にし、奇襲が失敗したと見せかけた上で紫苑は無造作に突っ込んだのはこの為だった。
迫り来る大金槌はウロボロスの眼前まで迫り、そして到達して直撃した。力任せに振るわれた衝撃に包まれ、風圧がその場に居る者達の視界を覆う。
全てが上手く行った……そう思っていたのも束の間、風圧が晴れた途端に玲奈と紫苑の表情は険しいものに変わった。
手加減をしていない。油断をしていた訳ではない。にもかかわらず、振り下ろされていた大金槌は、ウロボロスの眼前で静止させられていたのである。
ウロボロスの眼前に僅かな龍の影が現れ、ピンポイントで防いでいたのだ。動揺を隠せなかった紫苑と玲奈に対し、ウロボロスはニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。
「『今のは惜しかったな。だが、言ったはずだ。我に貴様等の攻撃は通用しないと──双方、吹き飛べ』」
「「っ!?」」
そう告げられた瞬間、紫苑と玲奈は気付けばウロボロスから離されていた。距離が遠ざかっていき、やがて背中に強烈な痛みが広がる。
そこでようやく彼女達は理解した。自分達が、壁に打ち付けられる程に吹き飛ばされたのだと。
「まじかよ……今あいつ、何をしやがったんだ?」
「何もしてないのだよ。ただ彼女達に軽く触れ、その瞬間にこちら側へ離されたのだよ。大した事はしていないようだねぇ」
竜也は動く事が出来なかった事を悔やみつつ、ウロボロスの動きが見えていたベルフェゴールの頬に冷や汗が伝っているのを見て舌打ちする。
その時、竜也は考えてしまったのだ。自分では、目の前に立っている彼の姿をした龍にすら攻撃を当てられないかもしれないと──。




