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空人形、起つ

「……………………」

 一体これはどういうことかしら。私いままでは全く気がつかなかったけれど、毎日こんな格好をさせられていたということ? だとしたら鬱だわ……。

 でも、髪を染められた覚えはないし、そもそも眼の色は説明しようがない。

『いつまで、鏡の中の自分に見惚れてるつもりだい? さっさと禍渦を壊しに行こうじゃないか。アタシの予想が外れた以上早々に破壊しないとどんどん不幸が広がっていくよ?』

 ああ、そういえば手早く確認できる人間がいたわね。

「……ねえ、満月。私はずっとこんな格好をしていたの?」

『ん? そんなにその姿が嫌かい? だとしたら悲しいね。私の髪と眼はそんなに気に入らなかった?』

「あなたの髪と……、眼?」

『ああ、そうさ。アタシと同調……、合体って言った方がわかりやすいかな? をしたからね。私の外見が深緋の身体に反映されてしまうんだ。ま、その服は違うけど』

 信じられない。でも、実際に自分の眼で見ると彼女の話を信じざるを得ない。

 これは――現実だ。

「…………それで、私はどうすれば良いの」

『おっ!! やっとアタシの話を信じてくれるのかい?』

「ここまでおかしなことが自分の目の前で起こっちゃね……」

 観念するしかない。

『ようし、じゃあ病室を出てこの病院の中をひたすら走りまわって貰おう』

「何それ? それだけで良いの?」

『ああ、いまはそれだけで良い。まあ、そんな簡単なことじゃあないと思うけど』

「?」

 満月の言葉には何か含みがあったが、触れないことにしておいた。どうせ、直ぐに明らかになるだろう。

 そう結論付けて、私は長年過ごした病室から自分の足で出ようとする。そしてドアに辿り着いたとき、足下に何かが落ちているのを発見した。

「? 何でこんなところに花が落ちてるのかしら?」

『ああ、それ君の妹さんが昼間に摘んでたヤツだよ』

「縹が? 本当に?」

『うん。雨の中アタシも手伝ったから覚えてる。何でも大事なお姉ちゃんにあげるんだとさ』

「…………そう」

 私はその花を拾い上げるとベッドに寝かせた縹の手にその花を握らせた。

『花は花瓶に生けるものじゃないのかい? せっかく花瓶があるんだからそっちに――』

「いいのよ」

 満月の言葉を、有無を言わさず遮り私は言う。

「……後であの子から直接貰うから」

 そして私は今度こそ振り返ることなく病室を後にした。


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