第3話 花は時期を待って咲く ~後編~
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この『別のホール』では、両家の親族や縁者が主役を待っていた。
ただし——。
カロスタークの側は親族などの列席者が少なく、アンヌ側は宰相ともつながりのある一族だけに多い。
明らかな差が見て取れた。
「ずいぶんな婚礼ですこと」
だから、こんな声が聞こえてしまうのもやむを得ないことではある。
声を上げたのは、カロスタークとさほど歳の変わらない女性だった。
会場内を見渡し、溜息を吐いている。
「今日は不作ね」
話にならないわと鼻を鳴らした。
相当にご不満がおありのようだ。
「新婦側は見知った男ばかり、新郎側はスカスカ、やんなっちゃうわね」
口に出さなくてもいいだろうことを吐き出しながら、食べ物と酒をあさっていく。
品のない振舞のためだろう。
彼女の周囲には人がおらず、遠巻きに冷たい視線を浴びていた。
「また、あの娘か。誰が呼んだのだ?」
「呼ぶ者などいるものか!」
「呼ばれずとも、酒と男の気配があれば、押しかけてくるのだからな」
「あんなのが一族にいるというのは恥ですな」
「まったくだ。端っことはいえ、一族ではあるからな」
「新郎側の来賓が少ないのは僥倖かもしれん」
「それも情けない話だがな」
「いや。新郎側が少ないのは当然のことだ」
「新興の子爵なのだからな。その分勢いがある。陛下の覚えもよろしいらしい」
遠巻きにした人々の間では、そんな会話が交わされた。
婚礼を祝う意志なんてない。
徹頭徹尾、『儀礼参加』だ。
まともに祝ってるのは新郎新婦の親や兄弟ぐらいのものだった。
「子爵のような方が身内に入ってくれてうれしいよ」
特に、花嫁の兄は我が事のように祝っていた。
「あー、領内の治水工事ですよね?」
頬をポリポリと掻きながら、カロスタークは頷いた。
先年、大規模な洪水があって甚大な被害が出ていたことを知っていたからだ。
「い、いや。そういうことでは・・・・」
利用できると踏んでいたのだろう義兄が曖昧に否定の言葉を出そうとするが、カロスタークは手を振って遮った。
「大丈夫ですよ。私は商人です、ギブアンドテイクが身上。むしろ、明確な理由があるというのはわかりやすくて助かります」
理由もなく親しくなろうとされるほうが困ると笑ってみせる。
「そ、そうか。そう言ってもらえるとこちらも気が楽だが」
「うちの現場を取り仕切っている親方は『竜鱗族』、元々水辺の工事を得意としていますからね。すぐになんとかしてくれますよ」
「ありがとう!」
「頭を上げてください。言ったでしょう? ギブアンドテイクだと。こちらにもちゃんと利益が出るようにしますから、感謝の必要はありません」
タダでやるわけではなく、それなりの便宜も図ってもらう。
相互利益のためだからと言って、カロスタークは微笑んだ。
「助かる!」
それでも、義兄は身体を90度曲げて頭を下げたのだった。
アンヌの実家関係の親族との挨拶が済み、他の招待客のところへも挨拶に行く。
どこへ行っても、儀礼通りの挨拶だ。
どこか、見定めようという視線や、理由もなく見下す視線も混じるが、努めて無視して進む。
あまり好意的ではない空気も漂った。
妬み、嫉みは当たり前。
真の友人はいない。
それが貴族社会では普通のこと。
そこかしこで、似たような会話をしている。
「若造が!」
「金の力で陛下の歓心も、嫁も買うとは大した商人だよ!」
などという心ない声まであった。
それでも——。
漏れ聞こえてくる列席者の声を、カロスタークは笑顔のまま聞き流した。
表情筋の一筋たりとも動かさずに。
ただし、新婦アンヌの耳には入れないよう気を配った。
承知のこととは思うが、実際に耳に入って心地の良いものではないだろうからだ。
あとは、世話係として働いているセザールとフランソワにも気を遣わなくてはならない。
なにかと気疲れの絶えない新郎のカロスタークだった。
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