第7話 花は待てども風は吹かず
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「お久しぶりね」
時は流れて、ある日のディナーにエルザがいた。
「どういう風の吹き回しですか?」
心境の変化でもあったのかと訊ねるカロスターク。
「業務連絡よ」
固い表情と声で答えるエルザ。
「業務連絡?」
「五日後に園遊会があるの。あの人の家主催でね。参加するから用意しておいて」
「一人で行けばいいんじゃないか?」
「婚約者を連れて行くからこそ焦らせられるの! 一人で行ったんじゃ、何も変わらないでしょう?!」
バカじゃないの? って言わんばかりの反応が返ってきた。
やっぱり意味が解らない。
カロスタークは理解しようと努力することを諦めた。
◇エルザ視点◇
「……本当に、これでいいのかしら?」
部屋に戻ると、エルザはほんの少し顔を曇らせた。
「さぁさぁ、お嬢様。ドレスの手直しが済みましてございます。こちらで合わせてみてくださいな」
幼いころから付き従っているメイドに、慣れた手つきで鏡の前へと引き寄せられた。
エルザのすべてを知っている相手なので、燃え親代わりどころか自分の体の一部とすら思える時がある。
「だけど、貴族の娘としてはおかしなことなのではなくて?」
エルザは鏡の前でドレスの裾を整えながら、背後の老メイドに問いかけた。
他の令嬢たちと自分に何か『ズレ』があるのではないか?
そんな不安がある。
「そんなことはございません。誰でもしていることでございます。皆さん隠すのがお上手なのです。私のようなものが何人もついておりますから」
お嬢様には、わたくし目が一人だけだから、『ズレ』て見えおるのだと解説してくれた。
しまいには「私が至らないばかりに―――」と泣きだされたので宥めるのが大変だった。
これ以上、不安な態度を見せると厄介なことになりそうだ。
「えっと。ともかく、このドレスを着て園遊会に行くのね」
「ええ。行かねばなりません。今こそ、あの方に想いを伝える最後の機会です」
「でも……カロスターク様を連れて行くのは、さすがに失礼ではなくて?」
「お嬢様。あの方は“婚約者”です。連れて行くのが当然でございます」
「でも、彼は……」
「“彼”ではなく、“あの方”に見せつけるのです。お嬢様がどれほど素晴らしい方かを」
老メイドは静かに、しかし確信を持って言い切った。
「男というものは、失って初めて気づくもの。お嬢様が他の男と並んでいる姿を見れば、きっと心が揺らぎます」
「……そう、かしら」
「ええ。あの方は、きっとお嬢様を迎えに来てくださいます」
エルザはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「わかったわ。連れて行くわ。カロスターク様を」
その声には、どこか不安と決意が入り混じっていた。
老メイドは静かに微笑んだ。
「よろしゅうございます。すべては、お嬢様の幸せのために」
下げた頭の影で、ガラス玉のような目が光り、唇が三日月のように細く、禍々しいほど吊り上がっていた。
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