第8話 目があっても見ず、耳ありて声を聞かず2 ~後編~
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同日、場所は違えども長兄が同様の騒ぎを起こしていた。
会頭である父に言い含められていた彼は、モンモラシー男爵家廃爵後の周辺貴族の動向に釘をさすべく動いていた。
自分たちレッドルア商会がモンモラシー男爵領を牛耳るのに、横やりが入らないよう牽制するのが狙いだ。
効果はともかく、狙いはわかる。
ただ、そのための方法は稚拙極まりない。
周辺貴族は他にいくらでもある。
なのに——。
彼が選んだ会場は、この手のことを行うのに向いていなかった。
なにしろ、ミヌミエーラ『新』男爵の就任を知らしめるための場だったのだ。
場にそぐわないこと甚だしい言動の数々が集まった貴族たちに嘲笑と冷笑を広め、見かねたミヌミエーラ『新』男爵に叱責を受け退場になった。
退場になったところで大人しくしていれば、傷も浅かっただろう。
だが、長兄は不満をぶちまけて掴みかかった。
彼は商人として、周辺だけでなく王国内の貴族をほとんど全員覚えている。
覚えているつもりだったし、事実そうだった。
ただ、ミヌミエーラ『新』男爵は別。
ミヌミエーラ子爵家の三男の顔までは覚えていなかったのだ。
このため、貴族とは思わなかったのだろう。
相手を侮って暴れてしまった。
元軍人で、いずれは将軍にとまで言われていた人物を相手にだ。
勝てるはずがなかった。
不敬罪であり暴力に訴えた。
処理されるのは無理からぬことだったのである。
そして、場所は戻ってカロスタークの実家でも。
立ち去った義姉は、セザールを偽物として騎士団に通報・突き出した。
貴族の詐称。
王族の詐称なら問答無用で斬首刑だが、貴族の場合も最悪死罪だ。
捕えられたセザールとカロスタークはモンモラシー男爵の前に引き出された。
抵抗はしなかったのだが、なぜかいたるところに擦り傷を付け、縄目の状態で。
妹と恩人のそんな姿を見せられて平然としていられるほど、モンモラシー男爵も温和ではなかった。
激怒した男爵によって、義姉を不敬罪で逮捕するよう騎士団に命令が下る。
「男爵令嬢の名前を名乗られたけど、嘘だと思ったのよ! 私は悪くないの! 騙されたの!」
そんな風に、義姉は涙ながらに訴えたのだが聞く耳を持ってもらえなかった。
なぜなら、義姉はセザールと何度も会っているのだ。
弟の婚約者として何度も挨拶をし、会食もした仲。
本物か偽物か、区別がつかないなんてことあるわけがなかったのだ。
「そういえば、服とか装飾品の感想しか聞いたことなかったな」
会食前後の記憶を引っ張り出したカロスタークは、憮然としてそう呟いた。
『義妹』としてどう思うか、そんな話が一度も出なかったと。
つまり――
「……見ようとしなかっただけだろ」
カロスタークは、義姉の泣き声を背に、静かに背を向けた。
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