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商人の男と貴族の女ーー婚約破棄から始まる成り上がり――  作者: 葉月奈津・男
【セザール】編 ~柱が折れたら屋根は落ちる~

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第25話 敗北と勝利 ~後編~

5/5

 


「っ?!」

 会場内の全員が身構える事態が起きていた。

 突然、何かの力が膨れ上がる気配がしたのだ。


「これ・・・魔力だよ! 戦略級の!」

 気配を敏感に感じ取ったクレールが警告を発した。


 戦略級というのは極大範囲魔法のことだ。

 一撃で戦局をも変える一撃ということで、こんな呼ばれ方をする。


「待てっ!」

「やめろ!」

 叫びと怒声で視線を転じれば、準優勝となったチームが騒いでいた。

 魔法使いが杖を構えていて、残りの二人が必死に止めようとしている。


「本気出せば勝てるんだ! 戦略級が得意なんだ、これ使わせてくれれば勝てたんだぁぁぁぁ!」

 魂の叫び。

 慟哭とともに、魔力の密度がさらに上がった。

 試合での使用を禁止された、『炎』の範囲魔法が彼の手の中で膨れ上がる。


「わかる! わかっているから落ち着け!」 

「ここは、戦場じゃないぞぉっ!?」

 仲間たちが抑えようとしているが、戦略級魔法の魔法障壁は破れない。

 止めようがなかった。


「戦略級、面白れぇぜ!」

 声を裏返らせながら、鉄壁のリシャールさんが盾を構えた。

 避けようと思えば逃げられただろうに、後ろで立ちすくむセザールたちを見て覚悟を決めたらしい。


『三対三制』の試合をする舞台は魔法も飛び交うため広く作られていた。

 流れ弾対策で観客席との間の緩衝地帯も広く作られている。


 被害は舞台上だけで済むだろう。

 鉄壁のリシャールさんは———。

 頑張ってくれそうなので大丈夫。


 カロスタークは状況を見てそう判断した。

 正しい判断だったはずだ。

 問題は戦略級魔法を使う魔法使いが、直前で我に返ったことだ。


「あ。や、ヤバイっ!」

 舞台上の三人を見て、直撃させてしまうのはマズいと撃ち出す角度を変えた。

 威力を見せつけたかっただけで、人を害する気はなかったのだろう。


「あー、こっちにも人はいるんだけど?」

 頭を抱えたカロスタークは、半笑いでツッコんだ。

 目には諦めがある。

 さすがにここからの生還はあり得ない。


 被害は舞台上だけで済むと考え、避難していなかったのだ。

 観客他大多数はちゃんと安全圏に逃げている。

 トマはギョームが抱えて避難済みだ。


 売られた喧嘩を買わざるを得ず、舞台に近づいていたカロスタークだけが、孤立してそこにいた。

 消し炭になる五秒前、だ。

 誰もが動きを止めてしまった。

 魔法使いも、二度目の軌道修正は不可能だったようで顔面蒼白のまま動かない。


「カロスターク!」

 その状況で、動いた者がいる。

 動けてしまった者がいる。


 セザールだ。


 実技試験中を上回る健脚を見せて走り寄ると、カロスタークを庇って両手を広げた。

 魔法を全身で受けて、カロスタークを守ろうという態勢である。


 直後。

 戦略級魔法が火を噴いた。

 効果範囲を焼き尽くす地獄の業火が解放される。


 赤い炎が、セザールを包み込んだ——。



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