第25話 敗北と勝利 ~後編~
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「っ?!」
会場内の全員が身構える事態が起きていた。
突然、何かの力が膨れ上がる気配がしたのだ。
「これ・・・魔力だよ! 戦略級の!」
気配を敏感に感じ取ったクレールが警告を発した。
戦略級というのは極大範囲魔法のことだ。
一撃で戦局をも変える一撃ということで、こんな呼ばれ方をする。
「待てっ!」
「やめろ!」
叫びと怒声で視線を転じれば、準優勝となったチームが騒いでいた。
魔法使いが杖を構えていて、残りの二人が必死に止めようとしている。
「本気出せば勝てるんだ! 戦略級が得意なんだ、これ使わせてくれれば勝てたんだぁぁぁぁ!」
魂の叫び。
慟哭とともに、魔力の密度がさらに上がった。
試合での使用を禁止された、『炎』の範囲魔法が彼の手の中で膨れ上がる。
「わかる! わかっているから落ち着け!」
「ここは、戦場じゃないぞぉっ!?」
仲間たちが抑えようとしているが、戦略級魔法の魔法障壁は破れない。
止めようがなかった。
「戦略級、面白れぇぜ!」
声を裏返らせながら、鉄壁のリシャールさんが盾を構えた。
避けようと思えば逃げられただろうに、後ろで立ちすくむセザールたちを見て覚悟を決めたらしい。
『三対三制』の試合をする舞台は魔法も飛び交うため広く作られていた。
流れ弾対策で観客席との間の緩衝地帯も広く作られている。
被害は舞台上だけで済むだろう。
鉄壁のリシャールさんは———。
頑張ってくれそうなので大丈夫。
カロスタークは状況を見てそう判断した。
正しい判断だったはずだ。
問題は戦略級魔法を使う魔法使いが、直前で我に返ったことだ。
「あ。や、ヤバイっ!」
舞台上の三人を見て、直撃させてしまうのはマズいと撃ち出す角度を変えた。
威力を見せつけたかっただけで、人を害する気はなかったのだろう。
「あー、こっちにも人はいるんだけど?」
頭を抱えたカロスタークは、半笑いでツッコんだ。
目には諦めがある。
さすがにここからの生還はあり得ない。
被害は舞台上だけで済むと考え、避難していなかったのだ。
観客他大多数はちゃんと安全圏に逃げている。
トマはギョームが抱えて避難済みだ。
売られた喧嘩を買わざるを得ず、舞台に近づいていたカロスタークだけが、孤立してそこにいた。
消し炭になる五秒前、だ。
誰もが動きを止めてしまった。
魔法使いも、二度目の軌道修正は不可能だったようで顔面蒼白のまま動かない。
「カロスターク!」
その状況で、動いた者がいる。
動けてしまった者がいる。
セザールだ。
実技試験中を上回る健脚を見せて走り寄ると、カロスタークを庇って両手を広げた。
魔法を全身で受けて、カロスタークを守ろうという態勢である。
直後。
戦略級魔法が火を噴いた。
効果範囲を焼き尽くす地獄の業火が解放される。
赤い炎が、セザールを包み込んだ——。
評価いただけると続編を書く意欲に直結します




