第24話 敗北と勝利 ~前編~
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ついに決勝戦が始まった。
「これで、ようやく終わりか」
疲れ果てた様子で、カロスタークが息を吐いた。
無意識にだろうが、左手が腹をさすっている。
『腹痛』になっているらしい。
トマが胃薬を出すタイミングを注意深く図っていて。
ギョームは横目で見て、微笑まし気だった。
結論から言ってしまえば、クレールたちが優勝した。
かなり拮抗していたが、決め手になったのは魔法使いの質だっただろう。
状況に合わせての切り替えが下手過ぎたのだ。
範囲魔法にするべきか、単発にするべきか。
氷にするか風にするか、はたまた炎なのか。
器用貧乏と言えばいいだろうか?
味方を巻き込みかけたり、威力よりも速度が求められる場面で強力な魔法を使おうとして機を逃したりと、そんなミスが多過ぎた。優秀なのだろうが、多岐にわたる選択肢が逆に足元をすくった感がある。
もう一つの決め手は、セザールの働きだ。
試験だというのに、実戦並みの気迫で戦い抜いていた。
ちょっと引いてしまうほど迫力があったとは、一番近くで見ていたクレールの証言である。
「俺の名は鉄壁のミュラー。俺は大切な人を必ず守る!」
優勝が決まった途端、大男が吠えた。
クレールとセザールの前に立って、盾を構えて見せている。
『後ろの二人は俺のだ』そう言っているようにしか見えない。
実際、そう言いたいのだろう。
「俺は大切な人から片時も離れはしない。知らぬ間に奪われていたなんて無様は晒さない!」
声高に叫んでいる。
視線は、会場の隅で観戦していたカロスタークに向けられていた。
思い切りのいい個人攻撃だ。
子爵家の美男子とはいえ、他の男に女をとらるのは『しっかり自分の手元で監視していないからだ』。
そういう主張だった。
ザワリ。
会場がざわめいた。
言われっぱなしだったカロスタークに動きがあったのだ。
リシャールがセザールを抱き寄せたのを見て、思わずといった感じに立ち上がっていた。
一瞬、『しまった』と顔をしかめつつも、カロスタークは舞台へと寄っていく。
明らかに自分を標的とした攻撃では無視もできない。
軟弱者と謗られるのは王立学院での評価に直結する。
試験はどうでもいいが、世間の風評はそうもいかないのだ。
「来たな。生っちょろい商人め!」
鼻息荒く、蔑みの言葉を叩きつけるリシャール。
主審はまだ舞台上にいるのだが、平民なのか止めようともせず傍観している。
観客の中には野蛮な物言いに眉を顰める者も見られたが、止めに入ったり批判の声を上げたりということはせずにいた。
残りの大部分の生徒は、逆にリシャールを応援しカロスタークを煽り始めている。
「前にも言ったが、お前なんかにセザールやクレールはもったいない。俺に譲れ!」
変わらぬ主張。
カロスタークは溜息を吐いた。
「前にも思ったが、その言い分には同意できない」
「あ゛ぁ゛。ふざけんな!」
「ふざけているのは君だろう? そちらの二人はれっきとしたレディだ。『物』じゃないぞ。譲れとか、ふざけるなよ」
「っ! あ」
言い方がマズかったと自覚したのか、リシャールの目が泳ぐ。
会場にいる女性たちも、言葉の言い回しに気が付いて視線を冷たいものにした。
野蛮な物言いに眉を顰めていた人たちの中には、うんうんと頷く人も出る。
立場が逆転しようとしていた。
鉄壁のリシャールによる一世一代の『漢』アピールの舞台だが、だんだんと尻すぼみになりつつあった。
言葉の使い方を間違えただけで、窮地に立たされている。
『俺に譲れ』ではなく『俺が相応しい』とするべきだったのだ。
当人も気が付いたが、もう挽回するチャンスはなかった。
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