第21話:領地経営(後編)~宿場町の夢~
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「で、問題はこっちか」
カロスタークは地図を広げ、ため息をついた。
「……オルトレオーネ子爵領の町のことですか?」
シャルルが静かに尋ねる。以前のような尊大さはなく、今はただ、淡々と報告を受けるだけの存在になっていた。
「ああ。管理権を手に入れたはいいが、ド田舎で特産品もない。正直、どうしたもんかと頭を抱えてた」
「……申し訳ありません」
「いや、謝ることじゃない。マイナス面も見当たらないからな」
使い道を考えればいいだけだ。
で、その使い道だが・・・。
カロスタークは地図を指でなぞりながら、ふと目を細めた。
「……あれ? この町、三つの領地に接してるな」
「はい。ですが、どこからも遠く、交通の便も悪く……」
「いや、道はある。見てみろ。各領地を繋ぐ道はしっかり整備されてる。ただ、町には繋がってないだけだ」
「……つまり?」
「道を繋げばいい。町を通るようにすれば、宿場町として売り出せる」
シャルルが目を見開いた。
「宿場町……ですか?」
「そう。旅人のための町だ。宿屋、飲み屋、歓楽街。もともとの町とは切り離して、治安も維持する。働きたいときだけ出てこれるようにすれば、地元の人間にも現金収入の道ができる」
「……それはそうですが、僻地のため、産業を興すだけの人がいません」
納付や木こり、畜産が主な産業。
それも『自給自足』に近いのだ。
今から別の事業、それも客商売なんて不可能だろう。
「そこも考えがある」
カロスタークは、頷いた。
「新しい町を作る。人手は領内で職に困ってる連中に声をかければいい。雇用も生まれるし、町も活気づく」
シャルルはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……すごいですね。そんな発想、私には到底……」
「オレは商人だからな。道があれば人が動く。人が動けば金が動く。金が動けば、町が生きる」
カロスタークは地図を畳みながら、にやりと笑った。
「明日、第二夫人に伝えてくれ。動き出すぞ」
「……はい。必ず」
翌日、シャルルは学院の昼休みを使って、第二夫人宛ての報告書をまとめていた。 カロスタークから受け取った地図と計画書を丁寧に包み、手紙を添える。
「……失礼します」
転移装置を使って届けられた報告書を受け取った第二夫人は、無言で封を切った。 その場には、執務室の空気を張り詰めさせるような緊張が走る。
「……ふむ」
視線は書面を滑るように走り、時折、眉がわずかに動く。 だが、表情はほとんど変わらない。
「……この子、やはり只者ではありませんね」
ぽつりと呟いたその声に、側に控えていた侍女が小さく頷いた。
「町を宿場に……歓楽街まで……。なるほど、治安維持のために既存の町と切り離す、と」
第二夫人は書面を机に置き、指先で軽く叩いた。
「シャルル」
「は、はい!」
背筋を伸ばして立っていたシャルルが、びくりと肩を震わせる。
「あなたは、彼の意図を理解しているの?」
「……はい。町を生かすための、現実的な手段だと……思います」
「そう。ならば、あなたも恥をかかせないよう、しっかりと連絡役を務めなさい。 この計画、すぐに動かします。準備に入って」
「は、はいっ!」
「それと……」
第二夫人は一瞬だけ、微笑んだ。 だが、それは氷のように冷たい、威厳に満ちた笑みだった。
「彼に伝えて。『期待しています』と」
「……かしこまりました」
シャルルは深く頭を下げ、報告を終えた。
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