第13話 柱が折れたら屋根は落ちる ~前編~
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オルトレオーネ子爵家の動きは早かった。
『慰謝料請求』に関しての交渉が終わった直後、シャルルは子爵家からの呼び出しを受け王都の屋敷へと連れ出された。
『婚約』に関して、正妻である第一夫人直々に事情聴取が行われるとのことで数日は帰れないと学院に連絡があったそうだ。
そうなると可哀そうなのはセザールだ。
「ごきげんよう」
「・・・・・・」
挨拶に応えてくれる者はいない。
「ね、ねぇ、聞いてよ。酷いのよ。挨拶を返してもらえなかったの!」
憤慨して訴えてみるが、聞いてくれる者はいなかった。
学院のどこにいても白い目で見られ、かつての友人たちからは避けられる。
「あ、あいつが変なことするかも。助けて!」
教室にいるといやでもカロスタークと顔を合わせてしまうが、以前のように壁を作ってくれる取り巻きも存在しない。
「え? ちょっと、わたし、そっちに行きたいの。すぐそこに、あいつがいるのよ!」
むしろ、その壁が反対側にできていて、カロスタークに近づく羽目になっていた。
クラスメイト達がセザールとも、カロスタークとも距離を置こうとするためだ。
そんなことが三日続くと、セザールには限界が来た。
部屋に籠って出てこなくなったのだ。
出てくるのは食事とトイレ、あとは風呂の時間のみ。
シャルルがいたときには輝いていた世界が、モノトーンになったような変化。
頼れる者はいない。
追い詰められていくのが、カロスタークには手に取るようにわかっていた。
だてに2年間、彼女のことだけを見ていたわけではない。
シャルルが学院から出て七日目。
とうとう、セザールは部屋を出た。
そのまま学院も出て、モンモラシー男爵邸——実家——へと戻ったのだ。
いや、『戻ったつもり』だった。
「え。なに、これ?」
呆然と立ちすくむセザール。
久しぶりに見た自宅は自宅ではなくなっていた。
「どうなってるの?」
なにかがおかしい。
そんな気がした。
ボロボロになっているとかではない。
見た目はきれいだ。
なにもおかしなところはない。
だけど、『家』ではなくなっている。
そんな、よそよそしさがあった。
「お母様、お父様?」
家に入り、恐る恐る声をかける。
いつもなら、真っ先に飛んでくるはずのメイドがこない。
礼儀正しく迎え入れてくれる執事がいない。
実家にあるべき温かさが微塵も感じられない。
人の気配がない。
「っ!」
いや、ある。
一番奥、父の書斎で物音がした。
足を速め、扉を開けた。
「!?」
セザールは息をのんだ。
お父様じゃない!?
誰か別の人!
誰?!
そんな疑問に凍り付いたように動けなくなった。
「!?」
悲鳴を上げそうになったところで、お父様の椅子に座っていた男の人が顔を上げた。
「お兄さま」
セザールの五つ年上の兄だった。
今は領地で代官をしているはずの兄である。
「・・・セザール!」
怖い顔で立ち上がった兄が、セザールへと近づき——。
パンッ!
思い切り平手打ちを浴びせた。
「な——」
突然のことで言葉を失くすセザール。
「お前は、自分の立場というものをわかっているのか?!」
セザールは、ただ震えるばかりだった。
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