第12話 毒と薬は別物に見えて、本質は同種たらん ⑨
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『翼人族』の居留地は森の中の空き地にあった。
何年か前の山火事の跡地だ。
森の中に突然開けた土地があり、そこに木の枝や干し草で簡易の家が建てられている。
簡易とは言うが、しっかりと作られており牧歌的な村という雰囲気があった。
「ここ。ファルケの家」
その村の真ん中にあって、ひときわ大きな家に案内された。
族長の長女ということで、かなり優遇を受けているようだ。
「使い道もないのに、無駄に広い」
ミーランの評価は辛らつだった。
定住するわけでもない居留地の簡易の家。
必要のない部屋なんて労力と資材の無駄というわけだ。
確かにそうなのだろうとは思うけど、とカロスタークは肩をすくめた。
商人としては納得できるし同意もするが、貴族としての見地に立つと一族を束ねる者にはそれ相応の権威が必要だという考えもわからなくはない。
「えっと。とりあえず、誰か呼んでお姉さんに連絡を入れた方が——」
「いらない」
——いいのでは?
言いかけた言葉をさえぎって、ミーランはずんずんと歩いていく。
「私たち目がいい。森の中に居ても『亜人の町』から来る人影を見分けるくらい簡単。だから、ファルケはとっくに私がここに来ること知ってる。知ってて迎も出さない、止にも来ない。これ、来るなら勝手に来いってこと」
「あー。そうなのか」
歓迎はしないが、一族の仲間たちへの手前無下に追い返すわけにもいかない。
こういう対応になるわけだ。
長宅に戻ったらさっそく仕込みだ。
ライアンの音頭でミイラ族のメイドたちが肉を切り、湯を沸かし、野菜を洗って皮を剝く。
生活戦争最前線での戦いが始まることになる。
◇
ミーランの足は、家の中に入っても緩まなかった。
ずかずかと奥へ入っていく。
ついていくカロスタークは気が気でない。
背中が変な汗で湿っている。
奥のままでいきつくと、ファルケがいた。
部下らしい女性に脚の爪の手入れをさせているらしい。
どう見ても、客を迎える態度ではない。
「鳩と木実鳥の番いか、似合い過ぎててウケる」
そして、ミーランとカロスタークを見た途端、そんなことを言う。
なにを言われたのかわからず、ポカンとするカロスタークの横でミーランが顔色を変えた。
「ファルケの羽なし!」
すさまじい剣幕で怒鳴る。
ファルケも目を剥いた。
呼び捨てにされるとは思わなかったらしい。
「妹のくせに!」
生意気な!
目を怒らせるが、怒っているのはミーランも同じだ。
「族長候補のくせにお客に——ううん、違う——土地を治める領主にそんな口を利くような愚か者に言われる筋合いない!」
感情的に暴言を吐いた姉に対し、妹はきっちり論理を展開した。
族長たるもの、一族以外の者との交渉事は必ずある。
その時に、相手とどう接するかは確かに重要だ。
カロスタークには、未だ言われたことの意味が解っていなかったけれど。
「なぁ。どういう意味だったんだ?」
瞬殺で論破され、思考停止と言語麻痺に陥っているファルケを横目に、カロスタークは問いかけた。
それがわからないと、どんな態度でいればいいかさえ判断できない。
「あー。そか。わかんなかったのか」
キョトンとした顔になったあと、ミーランはバツが悪そうに苦笑いした。
「鳩っていうのは私を指した言葉。鳩は鳥の中で特に物覚えが悪いって言われてるんだ。だから、わたしのことをバカって言ったことになる。木実鳥っていうのは言葉の通り木々の実をついばむ鳥ってことなんだけど——。身軽で同じく木の実を食べる猿のことを表すものでもあるのね。つまり、『バカとサルが連れ立ってきた、似合い過ぎてて笑える』ってこと」
「なるほど。そういう意味だったのか」
なにを言われたのかと驚いたが、聞けばありがちな悪口だ。
気が抜けそうなほどレベルが低い。
——とすると。
『羽なし』は、察するに『役立たず』とか『知恵なし』って意味かな。
「妹のくせに何て言い草だ!」
と、ファルケが再起動した。
再起動したが、言っているのは相変わらず「妹のくせに」だけ。
語彙力があまりないらしい。
どっちが鳩なのかって思ってしまう。
「一族の命運がかかった大事な集まりがある。それに招待に来たんだけど・・・来る?」
答えはわかってるけど、礼儀上聞いてあげる。
そんな態度でミーランが確認した。
「いかねぇよ!」
イラ立ったように叫ぶファルケ。
申し訳ないが、人の上に立つ態度じゃないなとカロスタークは思った。
爪の手入れをしてくれていた女性の顔を踏みつけている。
妹に負けた腹癒せということだろう。
見ていて心愉しいものではない。
「行こう。話しにならない」
ミーランが、寂しげな顔を一瞬だけ見せて踵を返した。
目元がキツクなって、並々ならぬ意思が窺える。
姉はダメでも、他の重鎮には来てもらわないと、との使命感が漲っていた。




