第10話 タノシイ学院生活2~前編~
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教室での大胆というより無謀な『婚約宣言』から二日。
自分の実家が、カロスタークの支配下に入っているとも知らず、セザールの浮かれようはすさまじかった。
全寮制の学院であることから敷地内には寄宿舎もある。
男女は別棟で分かれているが、間には交流可能な談話スペースとなる建物もあった。
セザールとシャルルは、ここに入り浸りとなっている。人様に見せてはいけないような行為にまでは走っていないが、初心な下級生少女が顔を真っ赤にする程度には、ラブラブな様子を隠していなかった。
「慎みというものを忘れてしまったのだろうか?」
カロスタークは情けなくなって溜息を吐いた。
あんなハシタナイ尻軽女を、自分は一生をかけて愛そうとした。
一生かけて守ろうと考えていた。
愛してもらえるよう努力を欠かさなかった。
その全てが、今は空しい。
「まあ、『真実の愛』はともかく『初めての恋』ではあるんだろうな」
政略結婚が基本の貴族にとって、結婚は契約であり恋愛とは関係がない。
そのため、結婚前の恋はタブーだった。
結婚したあとであれば、何人側女を置こうが愛人を囲おうがかまわないが結婚前は厳禁。
それが貴族社会というものである。
だから、初めての恋で盛り上がるのは当然だ。
「同情は誰もしないけど」
それが当然の社会なのだ。
周囲にいる貴族の子女には嫌悪感しかない。
商人出身の女の子たちには理解できなくもないとする者もいることはいる。
口にする勇気まではなかったけれど。
ともかく、談話室の中央を占領していちゃつく二人に対する学院の生徒たちからの好感度は、下がり切っていた。
もはや底を突き破って、マイナスだ。
オルトレオーネ子爵家に好意的で、シャルルの取り巻きとなっていた者たちも今や誰もいなくなっている。
表面上は『二人の邪魔にならないように』しているとなるが、実際は『もうついていけない。早々に身を寄せる派閥を探さなければ』であって、オルトレオーネ子爵家派閥はすでに消滅していた。
最後まで残っていた——残らざるを得なかった——者も今は別の派閥にいる。
シャルルとセザールは、本人たちも気が付かぬ間に孤立していた。
「なんで、こんなところにいるの?」
心底迷惑そうな声が耳朶を叩く。
顔を上げるとセザールのしかめっ面があった。
考え事をしているうちに、どこかへ行こうとしたらしい。
それで、部屋の片隅で物思いに耽っていたカロスタークに気が付いたのだ。
迷惑に思っているのなら、こんなところに来ないでさっさとどこかへ行けばいいだろうに。
「セザール。そんなことを言うものじゃないよ」
優しげな声で諫めるのは、もちろんシャルルだ。
途端に、セザールの顔からしかめっ面がなくなり、『ちょっぴり迷惑ぅ』って感じのふくれっ面になった。
愛しい相手には見せられない顔だったようだ。
当然か。
「でも——!」
さらにぷくっと頬を膨らませて、腕に抱き着いている。
あざとすぎて、砂糖ではなくマジでゲロを吐きそうだ。
「君に捨てられて寂しいのさ。新しい恋を拾おうと頑張っているんだから仕方がないよ」
「こんなところで見つかるかしら?」
「そうだねぇ————」
んーっ、とシャルルが悩む真似をする。
「俺たちが座っていたソファの下にでも潜ったらどうかな? きっと俺たちの幸せの欠片が落ちているから、拾うといい。俺たちからのお裾分けだ」
「まぁ、寛大!」
クスクスと笑って、シャルルの腕をとるセザール。
腕を組んで、カロスタークに背を向ける。
それを、「オレとは手を繋ぐくらいしかしなかったよな」などと思いながら、カロスタークは見送った。
「チッ!」
拳を握り締めていることに気付いて、カロスタークは舌打ちをした。
吹っ切れたつもりなのに、まだ割り切れていないようだ。
「いやいやいや」
首を振った。
これは未練じゃない。
怒りだ。
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