Epilogue 引越し
「被告人は、無罪」
裁判は、拍子抜けなくらいあっさりと終わった。
「当たり前だ。お前は世界を救った英雄なのだからな」
タキが事もなげに言う。
俺は照れくさくて、頭をかいた。
英雄というなら、第三騎士団のみんなだと思う。
……なんかマンガの主人公みたいなこと言っちゃったな。
「判決をもらったから、いろいろな手続きが一気に動くぞ。
まずは一旦役所に寄るから、帰りは夜だな」
タキに連れられて、役所へ。
国民登録がどうとか、騎士登録がどうとか、居住地がどうとか……
なんだか眠くなってしまったが、気力で立ってタキについていく……
「細かいことは私がやっておくからな」
タキが、ニヤリと笑う。
ありがとう。俺、よくわかんないから、任せます〜……
そして夜。
馬車に揺られて、俺とタキは、第三騎士団の拠点近くの、木造の新築建物にたどり着いた。
「被告人ではなくなったので、いつまでも地下牢には置いておけん。
なので騎士団のほうで、新居を用意したというわけだ」
えっサプライズ新居!?そんなことあるの?!
すっかり眠気が吹き飛んでしまった。
タキの案内で、新居の中を見ていく。
一人暮らし用には結構広いな!?
一階にリビング・ダイニング、キッチン。
それにトイレとバスルーム。
二階には寝室と、倉庫や、書斎みたいな部屋もある。
家具もある程度揃えてくれており、今日から入居できてしまう!
俺の荷物も、もともと少ないが、寝室に置いてあった。
人間の姿になったので、衣類とかの荷物があるんだ、今の俺には。
「すっげぇー!いい家だな!本当にもらっちゃっていいのか!?」
「もちろんだ。今日からここに住むんだぞ」
心なしか、タキも嬉しそうだ。
で、寝室!
ベッドが広い!余裕で2人寝られるぞ!
これには俺もテンションが上がる!ひゃっほーい!
……ん?
タキがクローゼットをごそごそしている。
荷物を……入れてる?
俺の服はそこにあるから……っていうか、なんかいろいろ見えちゃったんだけど!
ドギマギする!!
「あ、あの……タキさん?」
「なんだ?」
「それ……あなたの服、ですよね?」
「そうだが?」
あのね、下着とかが、チラッと見えちゃってるの。
いやいやいや、問題はそこじゃない。
「なんで、俺の家のクローゼットに……タキの服を入れてるの……?」
俺に女装の趣味はない。
俺がタキの服を着ることは、間違ってもない。
…………うん、ない。一瞬考えちゃったけど、ない。
じゃあ、どして……?
「何を言ってる。ここはお前と、私の新居だ」
……………
「えぇぇえええええぇえぇぇえ!?」
「何を驚いてる。そもそもお前、自分がどういう身分で国民登録したかわかってないのか?」
「どういう、身分、で……?へ、平民?」
タキが不機嫌そうに眉根を寄せる。
「私の、配偶者だ。ほれ、できたてホヤホヤの婚姻証明書」
配偶者……ハイグウシャ?
元の世界で、聞いたことのある言葉。
民法の授業で聞いた言葉。
【配偶者】(はいぐうしゃ)
婚姻関係にある二人の、一方から見た他方。夫や妻。
「どえええええええ!?」
「なんだ、不満か?」
頬を膨らませるタキ。
タキ。美しいタキ。
森で俺を拾い、最初に俺を信じてくれたタキ。
この世界に来てから、ずっと一緒に戦い抜いてきたタキ。
意外と食いしん坊で、エルナタウンの人々から可愛がられているタキ。
俺の目の前で、ふくれつらをしてる、タキ。
……不満?不満なんて……
「あるわけないです」
「そうか。なら問題ない」
機嫌が直る。でも……
「いっ、いいのか!?」
「何がだ」
「タキは……お、おおお、俺で……?」
タキがこちらを向く。つかつかと歩いてきて、ずい、と俺の顔に顔を寄せる。
えっちょっと、いきなりそんな!
だがタキは俺の肌に触れることなく、いたずらっぽく笑って、言った。
「これからよろしくな、旦那様」
………その後の夜のことは、俺とタキだけの、秘密だ。
「緊張しすぎるとダメなこともあるとは聞いていたが、本当だったんだな」
ちょ、タキさん!秘密だってば!!




