第1巻 第93讃歌 アグニ・ソーマ双神讃歌
1 アグニとソーマよ、
強大なる一対の神々よ、
恵み深く我が呼び声を聞き届け、
友愛の心をもって
我が賛歌を受け入れたまえ。
そして、供物を捧げる者を
繁栄させたまえ。
2 今日、
この賛歌をもって
汝らを尊ぶその人に、
アグニとソーマよ、
英雄的な剛勇と、牛の増大と、
高貴なる駿馬を授けたまえ。
3 汝らのために、
聖なる油と
燃え盛る供物を捧げるその人は、
アグニとソーマよ、
子孫とともに、その生涯を通じて
大いなる生命力を享受するだろう。
4 アグニとソーマよ、
汝らが略奪者から、
その糧たる牛たちを
盗み出したあの武勇は、
広く名高きもの。
汝らはブリサヤの末裔を
滅ぼし尽くし、
多くの人々のために、ただ一つの光(太陽)を
見出したのだ。
5 アグニとソーマよ、
共同の営み(力)によって、
汝らは天に輝く星々(光の数々)を
据え付けた。
アグニとソーマよ、
汝らは、呪いと非難から、
枷に縛られていた河川を
解き放ったのだ。
6 汝らのうちの一方を、
マータリシュヴァンが天から運び去り、
他方の雄鷹は、
山頂から(もう一方を)引き剥がして
連れてきた。
聖なる祈りによって
その力を強められたアグニとソーマは、
我らが祭祀を捧げるための
広大なる空間を切り拓いた。
7 アグニよ、ソーマよ、
用意されたこの供物を味わいたまえ。
強大なる者たちよ、それを受け入れ、
汝らの心を喜ばせたまえ。
我らに手厚き庇護と
優しき恩恵を授け、
生贄の担い手に、
健康と富を与えたまえ。
8 神に捧げられた心をもって、
聖なる油と注がれし供物により
アグニとソーマを尊ぶ者――
彼の祭祀を守り、
彼を苦難から護り、
生贄の担い手に、
大いなる至福を授けたまえ。
9 共に呼び求められ、
富を共有する仲間たる、アグニとソーマよ、
我らの賛歌を受け入れたまえ。
神々のなかにあって、
常に共にあれ。
10 アグニとソーマよ、
聖なる油をもって
汝らを礼拝するその人のために、
大いなる報い(光り輝く報酬)を
現したまえ。
11 アグニとソーマよ、
汝らのもとへもたらされた
これらの供物を
心から喜びたまえ。
そして、共に出揃って、
我らの近くに歩み来たりたまえ。
12 アグニとソーマよ、
我らの駿馬を豊かに育み、
供物をもたらす我らの乳牛を
肥え太らせたまえ。
我らと、我らを支える気高き富豪に
権能を授け、
我らの聖なる儀礼を、
成功へと導きたまえ。
解説
第93曲は、火の神「アグニ」と植物神「ソーマ」がタッグを組んだ「アグニ・ソーマ双神」への全12節の讃歌。リグ・ヴェーダの祭祀において、お供え物を神々に届ける「炎」と、神々を歓喜させる「神酒」は、まさに祭壇の両輪にして最強のコンビです。
中盤の4–6節では、この二つの聖なる力が協力して「悪魔から富(牛)を奪還し、川の呪いを解き、天に星々を散りばめた」という、宇宙創成期のダイナミックな共闘神話が語られていて、ヒーローもののファンタジーのような一曲です。
* 1–3節:祭壇におけるアグニとソーマへのストレートな帰依がうたわれます。炎が点火され、そこに神酒が注がれるという、実際の祭祀の情景そのものが神格化されており、この二神に仕える者が受ける「英雄的な剛勇」「牛や馬の富」「長寿」といった現実的な祝福が懇願されます。
* 4–6節:この讃歌の核心であり、最高にドラマチックな神話的セクションです。4節では、部族の宿敵である略奪者パニの洞窟から富(牛)を奪還した英雄譚が語られ、5節では、天に輝く星々を配置し、悪魔の枷に縛られていた河川(奔流)を解き放ったという、宇宙の秩序を回復する共闘の歴史が回顧されます。
* 6節:「火と神酒がどのようにして人間に課されたか」という起源神話(プロメテウス的モチーフ)が美しい対比で描かれます。火は天上の雷電から使者マータリシュヴァンによって地上へ運ばれ、神酒は天上の秘薬として、神秘的な雄鷹によって峻険なる山頂から奪取されて人間界にもたらされました。この二つの天界の恵みが、地上の祈り(祭祀)の空間を無限に広げたのだと詩人は語ります。
* 7–12節:再び現在の祭壇へとフォーカスが戻ります。二神を「富を共有する仲間( mates in wealth )」と呼び、祭祀を主催する詩人( sacrificer )だけでなく、部族の経済を支える富豪( patrons )への祝福も忘れない現実的で堅実な祈りが捧げられます。最後は、家畜の繁栄と儀礼の完璧な成功を願い、二神の調和のなかに収束します。
全体として、祭壇の上の「火と液体の交わり」という物理的な現象を、天界の起源神話や宇宙の創造へとドライブさせていく、プロットの推進力とビジュアルの鮮烈さが素晴らしい名曲です。
4節の悪魔パニからの牛の奪還や、6節の「アグニは天の使者が運び、ソーマは雄鷹が山頂から奪い取ってきた」という対になる起源神話、ものすごくワクワクする展開です。自然界の「火」と「植物の汁」という異なるエレメントが、人間の祭壇で出会って世界を救うバディになるという物語性が、本当に文学的な一曲です。
ヴェーダ祭祀の二大根幹である「火」と「神酒」を一つの双子神格として合一させ、その儀礼的功徳と神話的偉業をダイナミックに讃えた傑作讃歌と評価されています。




