第1巻 第71讃歌 アグニ讃歌
1 妻が愛する夫を慕うように
一つ屋根の下の
姉妹たち(十本の指)は彼を促す
朝を愛する牛らのように、
鮮やかに色づき
闇を破って現れ、
赤赤と輝く彼を。
2 我らが父祖らは賛歌をもって、
堅固な砦をも打ち砕いた
そう、
アンギラス族は咆哮とともに、
岩山を砕いたのだ
彼らは我らが
気高き天へと至る道を拓き
光を、昼を、夜明けの兆しを
見出してくれた。
3 彼らは法を定め、
神への仕えを実り豊かにし
熱望する信徒たちへと
それを分かち合った
渇きを知らぬ熱き者らは、
甘き供物をもって
神々の族の力を、
いよいよ強めゆく。
4 あまねく広がる
マータリシュヴァンが
彼(火)を揺り動かし
彼がすべての家々で、
気高く輝き育つとき
彼は文官(ブルグ族)のごとく、
伴走者として従い
さらに大いなる君主(神)への
使節として赴く。
5 人が大いなる父なる天に
甘露を注ぐとき
父は己を悟り、
密なる抱擁から解き放たれた
射手は
その矢を果敢に放ち
神はその輝きを、
己の娘(暁)へと投げかけた。
6 自らの住まいに、
汝のための炎を燃やす者
あるいは汝の愛する礼拝を、
日々捧げる者
二倍の力を宿す神よ、
どうか彼の財を満たしたまえ
汝が促すその人が、
豊かな富と出会えますように。
7 すべての生贄の供物は
アグニへと従う
七つの大河が、
やがて大海へと赴くように
我らの糧は、
同胞の手によって
見出されたのではない
すべてを知る者よ、
神々とともに
我らへの慈しみを見出せ。
8 光が民の主を満たし、
それを育むとき
天からは直ちに、
清らかな雫(雨)が降り注ぐ
アグニは光をもたらし、
気高く汚れなき
恵み深き若き軍勢(マルト神群)に
息吹を吹き込んだ。
9 思考のごとく、
巡礼の旅を速やかにゆく者
太陽のみが、
常に富の主である
麗しき手を持つ王たち、
ヴァルナとミトラは
我らの牛の中に宿る、
尊き蜜(乳)を護っている。
10 おおアグニよ、
我らの祖先からの友情を
壊さないでおくれ
深き智慧を授かりし、
賢者なる神よ
老いは、
湧き上がる雲のように肉体を蝕む
その災いが近づく前に、
どうか私を護りたまえ。
解説
この第71曲は、アグニを仲介者として、古代の聖仙たちが成し遂げた偉業を回顧し、一族の繁栄と守護を願う全10節の重厚な讃歌です。火の発見から宇宙の秩序の確立、そして人間の老いという実存的な祈りまでが、壮大なスケールでうたわれています。
* 1–3節:火を熾す「十本の指」を姉妹に例える鮮烈な比喩から始まります。続く2節では、アグニの光を借りて暗黒の岩戸を破り、太陽(光)を取り戻した神話的父祖「アンギラス族」の功績が称えられます。
* 4–5節: インド版のプロメテウスである「マータリシュヴァン」による火の伝来(4節)と、天父が実の娘である暁を乱したという古代の難解な創生神話(5節)への言及があり、宇宙の運行と生命の誕生が語られます。
* 6–8節:アグニに正しく供物を捧げる者への物質的・精神的な恩恵がうたわれます。アグニの炎が天に届くとき、それは恵みの雨(8節)となって地上へ還流するという自然の循環が表現されています。
*9–10節:太陽やヴァルナ、ミトラといった天空の神々への賛辞を経て、最終節では一転して「老い」への恐怖と、祖先代代のアグニとの親密な「友情」への信頼が切々と訴えられます。
全体として、原初神話の荒々しいエネルギーと、老いを前にした人間の静かな祈りがアグニという炎を通じて結びついた、非常に文学的強度の高い一曲です。




