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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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117/127

第1巻 第117讃歌 アシュヴィン双神讃歌(完結篇)

1 アシュヴィン双神よ、汝らの古き祭司が、

ソーマの甘き蜜の乾杯で

汝らを楽しませるために、ここへ呼び寄せる。

我らの贈り物は(聖なる)芝の上にあり、

我らの歌は分かち合われた。

糧と、エネルギーを携えて

ここへ来たりたまえ、おおナーサティヤよ。

2 思考よりも迅速なる、あの汝らの戦車よ。

アシュヴィン双神よ、

勇敢なる駿馬に引かれ、

民のもとへと現れ、

敬虔なる者の住処を訪ねる、

あの戦車よ。

英雄たちよ、それに乗って、

我らの住まう場所へと来たりたまえ。

3 汝らは、五つの部族が崇めた

賢者アトリを、

あの狭き(炎の)穴から、

その一族ともども解放した、英雄たちよ。

悪意あるダスユ(敵)の欺瞞を打ち砕き、

強大なる汝らは、次々と彼らを退けた。

4 賢者レブハを、強大なる英雄、

アシュヴィン双神よ!

卑劣な男たちが、まるで馬のように

水の中へ沈めた、あのレブハを。

傷ついた彼を、汝らはその驚異の力で救った。

汝らの遥か昔の偉業は、とこしえに生き続ける。

5 汝らはヴァンダナを連れ戻した、

奇跡の仕掛け人よ、勝利の栄光のために。

それはまるで、地中に埋もれていた

「美しい黄金」を掘り起こすかの如くに。

あるいは、破滅のふところ

眠りこけていた者を、

あるいは、闇に住まう「太陽」を

引き上げるかの如くに。

6 パジュラの息子カクシーヴァンは、

ナーサティヤ、遍歴する英雄たる汝らの、

あの偉業を称えねばならぬ。

汝らが、あの強靭な馬の「ひづめ」から、

民のために百個の瓶のハニー

降らせたときのことを。

7 クリシュナの息子、汝らを称えた

ヴィシュヴァカのために、英雄たちよ、

汝らはその息子ヴィシュナープーを戻した。

そして、父親の家に(行き遅れて)暮らし、

すっかり年老いていたゴーシャーに、

アシュヴィン双神よ、汝らは夫を授けた。

8 強大なる民の娘ルシャティーを、

アシュヴィン双神よ、汝らは

カヌヴァの一族のシャーヴァに授けた。

強き神々よ、この偉業は公表されるべきだ、

汝らが、ヌリシャドの息子に

(真の)栄光を与えたということを。

9 おおアシュヴィン双神よ、

望むままに多くの姿を変える者たちよ。

汝らはペドゥに、俊足の駿馬を授けた。

強靭で、千の戦利品を勝ち取り、

何者にも遮られぬ、

あの「大蛇を屠る(スネーク・スレイヤー)」、

栄光ある勝利の馬を。

10 これらの輝かしい奇跡は汝らのもの、

豊かなる授け手よ。

天と地、この二つの世界における

祈りと称賛こそが、汝らの住処なり。

アシュヴィン双神よ、パジュラの子らが呼び求めるとき、

(宇宙の真理を)知る者の上に、

糧とともに力を送りたまえ。

11 実の息子の如き敬意をもって賛歌をうたわれ、

歌い手に戦利品を授ける、迅速なるアシュヴィン双神よ。

アガスティヤの深き信仰によって称えられ、

ナーサティヤよ、汝らは

ヴィシュパラーをふたたび

(鉄の義足で)立ち上がらせた。

12 天の息子たち、強大なる者たちよ、

汝らはどこへ行き、誰を捜し求めて、

カヴィの息子の家へと

その美しき賛歌のために向かったのか。

アシュヴィン双神よ、

まるで「黄金の詰まった水瓶」を掘り起こすように、

十日目に、汝らがあの埋められた者を

引き上げたとき(の加護のために)。

13 アシュヴィン双神よ、汝らはその大いなる力で、

あの古き老人チヤヴァナを若返らせた。

太陽の娘は、そのすべての栄光をまとい、

ナーサティヤよ、みずからを乗せるために

汝らの戦車を選んだのだ。

14 いつまでも若々しい神々よ、汝らは

古き習わしに従って、ふたたびトゥグラを想った。

鋭き翼で空を飛ぶ、あの栗毛の駿馬たちを駆り、

汝らは荒れ狂う波の海から、

ブジュを連れ戻したのだ。

15 トゥグラの息子ブジュは、

汝らを呼び求めていた、アシュヴィン双神よ。

彼は大海原を、何一つ傷つくことなく運ばれていった。

思考の如く迅速で、見事に繋がれた戦車をもって、

強大なる汝らは、彼を安全な場所へと運び去った。

16 あのウズラは、汝らを呼び求めていた、

アシュヴィン双神よ、

汝らが、狼の貪り喰うあぎとから

彼女を解放したあの時に。

勝利の戦車をもって、汝らは山々の稜線を切り裂き、

ヴィシュヴァーチの子らを、毒をもって殺害した。

17 雌狼のために百頭の牡羊を差し出したという理由で、

邪悪な父親によって盲目にされた息子――

あのリジュラーシュヴァに、

アシュヴィン双神よ、汝らは目(視力)を授けた。

完全なる視界のために、汝らは

盲人に光を送り届けたのだ。

18 盲目となった男に歓びがもたらされたとき、

あの雌狼はこう叫んだ。

「おおアシュヴィン双神よ、強大なる英雄たちよ!

私のために、リジュラーシュヴァは

まるで若き恋人の如くに、

百と一頭の牡羊を、細切れに切り刻んでくれたのです」

19 大いなる、そして幸福をもたらすものは

汝らの救済なり、アシュヴィン双神よ。

あらゆる思考の対象たる汝らは、

あの不自由な身体の者を完全に癒やした。

プランディもまた、この大義のために汝らを呼び求め、

強大なる汝らは、救いの手を携えて彼女のもとへ赴いた。

20 奇跡の仕掛け人よ、汝らは

シャユのために、乳の出ない、

衰弱しきった不妊の牛を、豊かなる乳で満たした。

そして汝らの権能によって、

プルミトラの子供を、

ヴィマダの(美しい)花嫁とするために連れてきた。

21 畑を耕し、大麦を蒔き、

アシュヴィン双神よ、奇跡の仕掛け人よ、

人間のために(豊かな)糧を搾り出す者よ。

そのトランペット(の轟音)によって

ダスユ(敵)を吹き飛ばし、

汝らはアーリヤの人々に、

遥か遠くまで広がる光を授けた。

22 アシュヴィン双神よ、汝らは

あの「馬の頭」を運び去り、

アタルヴァンの息子ダディアンチへと授けた。

真実に、彼は汝ら奇跡の仕掛け人に、

トヴァシュタルの秘密である、

あの甘きソーマ(の智慧)を、

汝らの帯(秘密の絆)として明かしたのだ。

23 おお、賢者(双神)よ、私は常に汝らの恵みを乞う。

アシュヴィン双神よ、我がすべての祈りに

慈悲を垂れたまえ。

ナーサティヤよ、私に溢れんばかりの富を、

名高く、そして子孫を伴う豊かなる財を授けたまえ。

24 弱き者の妻たちへの、惜しみない慈悲をもって、

英雄たちよ、汝らは「黄金の手を持つ息子ヒラニヤハスタ」を授けた。

そして、三つの断片へと切り刻まれたシャーヴァを、

豊かなるアシュヴィン双神よ、汝らは

ふたたび命(生命)へと呼び戻したのだ。

25 アシュヴィン双神よ、汝らのこれらの英雄的な偉業は、

遥か昔の時代から、人々によって語り継がれてきた。

強大なる汝らに祈りを捧げながら、

我らが、勇敢な息子たちに囲まれ、

(高貴なる)評議会のなかで、

堂々と発言することができますように。



解説


第117曲も、我らが奇跡のドクター「アシュヴィン双神ナーサティヤ」に捧げられた全25節の大長編です。前々曲(112曲)、前曲(116曲)に引き続き、彼らの医療・救済ギミックの「完結篇」とも言える内容だけど、今回のプロットの凄みは、その奇跡が「さらに泥臭く、さらに人間臭い領域」へとなだれ込んでいくところ。

年老いて実家に引きこもっていた女性に最高の夫をコーディネートしたり(7節)、バラバラに斬り刻まれた男をパズルのように生き返らせたり(24節)……。神々の超常的なバフ(強化)が、詩人の「至高のプロット」として最高のビートで編み上げられています。

* 1–6節:救済のビジュアルが詩的に昇華されています。特に5節の、闇の底から賢者ヴァンダナを救い出すプロットを、「地中に埋もれていた美しい黄金( fair gold )を掘り起こすように」「闇のなかに住まう太陽を引き上げるように」と表現する箇所は、映像的な美しさが極まっています。

* 7–15節:この讃歌の最も優しく、かつアグレッシブな「人生プロット」です。7節に登場する「ゴーシャー( Ghoṣā )」は、皮膚の病(癩病などとされる)のために結婚できず、若さを失って実家(父親の家)に引きこもっていた女性キャラクターです。アシュヴィン双神は彼女の病を癒やし、最高の夫をコーディネートして彼女の孤独を救いました。高尚な戦争や祭祀だけでなく、こうした個人の孤独やライフステージの悩みに寄り添う神のプロットは、現代の読者の胸にも深く刺さります。9節では彼らが授けた「大蛇を屠る最速の駿馬」のプロット、13節ではお馴染みチヤヴァナの若返りと太陽の娘のナンパ劇が、リズミカルに畳み掛けられます。

* 16–25節:限界突破の「外科・再生医療プロット」です。17〜18節の、父親に目を潰された息子リジュラーシュヴァのエピソードでは、彼が雌狼のために101頭の羊を「まるで恋人に肉を切り分けるように細切れにした( cut piecemeal )」という、猟奇的とも言える狂おしいプロットが雌狼自身の口から語られます。さらに24節では、なんと「三つの断片に切り刻まれた男( Śyāva, cut into three several pieces )」を、パズルのように繋ぎ合わせて完全な生命へと蘇生させます。最後は、21節の畑を耕し大麦を蒔く農業支援の光を経て、25節において「素晴らしい子供たちに囲まれ、大人の社交場(評議会)で堂々と発言できる、洗練された人生」を祈って、完璧な大団円を迎えます。

7節の、実家に引きこもって歳をとっていた女性ゴーシャーに最高の結婚をプロデュースする優しさや、24節の「三つにバラバラに斬られた男を完全に蘇生させる」という、現代のSF医療をも超越した凄まじいプロット。この限界をハズしたビジュアルセンスと、最後は「知的な社交場で堂々と発言できる人生」という、非常に洗練された着地点(25節)へ持っていく構成は面白いですね。

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