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リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり  作者: はまゆう


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116/127

第1巻 第116讃歌 アシュヴィン双神讃歌(ディテール篇)

1 私は、芝を美しく刈り揃えるように、

ナーサティヤ(双神)への賛歌を整え、

風が雨雲を吹き散らすが如くに、

その称賛の歌を送り出す。

彼らは、矢のように迅速な戦車を駆り、

あの若きヴィマダのもとへ

(美しい)花嫁を送り届けた。

2 強靭な翼を持つ、あの韋駄天の駿馬、

あるいは神々の鼓舞を誇り高く信じて。

汝らの、あの(不敵なる)牡のロバは、

ナーサティヤよ、ヤマの競技(競馬)で、

あの千の戦利品を勝ち取ったのだ。

3 然り、アシュヴィン双神よ、

死にゆく者がその富を残していくように、

トゥグラは息子のブジュを、

(見捨てて)荒れ狂う水中に残した。

汝らは、大気を横切り、波に濡れることもなく、

命を吹き込まれたあの(魔法の)船で、

彼を連れ戻したのだ。

4 ナーサティヤよ、汝らは翼ある乗り物で

ブジュを運び、三日三晩、

猛烈なスピードで旅をした。

百の足(櫂)を持ち、六頭の馬が引く

三台の戦車で、

海の彼方の岸、大海の海岸へと。

5 汝らは、足場も、掴むものも、

留まる場所すらもない、あの(底なしの)海で、

その英雄的な偉業を成し遂げた。

アシュヴィン双神よ、百本の櫂を持つ船に

ブジュを乗せ、

彼の家へと運び去ったあの時に。

6 遥か昔、汝らがアガシュヴァに授けた、

永遠の富となる、あの白い馬。

アシュヴィン双神よ、汝らのその栄光ある贈り物は、

いまなお称賛に値し、ペドゥのあの勇敢な馬は、

いまなお称えられ続けている。

7 パジュラの一族から生まれ、汝らを称えてうたった

カクシータに、英雄たる汝らは智慧を授けた。

汝らは、あの強靭な駿馬の「ひづめ」から、

まるで濾過器ストレーナーを通すかのように、

百個の瓶のワイン(清酒)を溢れ出させた。

8 汝らは、冷たさをもって、あの燃え盛る火の猛火を遮り、

栄養に満ちた豊かなる糧を配した。

アシュヴィン双神よ、洞窟の底へと

突き落とされていたアトリを、

その一族ともども、汝らは救い出し、慰めた。

9 ナーサティヤよ、汝らはあの井戸を持ち上げ、

その底を高く掲げ、下へと開かせた。

渇きに苦しむゴータマの民のために、

千倍の豊穣をもたらす雨の如く、

清流が流れ出した。

10 ナーサティヤよ、汝らはあの老いたチヤヴァナの身体から、

まるでよろいを脱がせるかのように

(老いた)皮膚を剥ぎ取った。

すべての者に絶望され見捨てられていた彼の命を、

ダスラス(双神)よ、汝らは引き延ばし、

彼を若き乙女たちの主(夫)へと変えたのだ。

11 称賛に値し、勝ち取る価値のある、

英雄たる汝らの、あの優しき救済よ。

ナーサティヤよ、汝らは彼の窮地を熟知し、

隠された財宝を掘り起こすかのように、

ヴァンダナをあの穴から救い出した。

12 利益(富)をもたらす、汝らのあの偉大なる業績を、

雷鳴が(恵みの)雨を告げるが如くに、私は公表しよう。

あの馬のをまとうアタルヴァンの息子ダディアンチが、

汝らに、ソーマの甘美なる(秘密の)智慧を

明かしたときのことを。

13 大いなる祭祀のなかで、あの智慧ある婦人は、

多くの宝の主たるナーサティヤよ、汝らに助けを求めた。

汝らは、その無力な妻の願いを、

まるで(絶対の)命令であるかのように聞き入れ、

彼女に「黄金の手を持つ息子ヒラニヤハスタ」を授けた。

14 狼のあぎとから、汝らがともに立ち上がり、

あのウズラを解放した、英雄たるナーサティヤよ。

多くの宝の主たる汝らは、

己の不幸を嘆き悲しむ詩人クリエイターに、

完全なる(新しい)視力を授けた。

15 夜の闇のなか、ケラの戦いにおいて、

(彼女の)足が、まるで野生の鳥の羽のように

切断されたあの時。

汝らは、すぐさまヴィシュパラーに「鉄の義足」を授け、

再び激戦が始まったとき、

彼女が動くことができるようにした。

16 雌狼のために百頭の牡羊を屠った(という理由で)、

父親はリジュラーシュヴァからその視力を奪い去った。

ナーサティヤよ、奇跡の仕掛け人、

神医たる汝らは、彼に新しい目を授け、

その視力を何一つ傷のないものへと戻した。

17 太陽の娘が、汝らの戦車へと乗り込んだ。

まるで駿馬たちとともに、いち早くゴールへと

到達するかのように。

すべての神々がその心の中でそれを認め、

ナーサティヤよ、汝らは栄光と固く結ばれた。

18 アシュヴィン双神よ、汝らがディヴォーダーサの家へと、

バラドヴァージャのもとへと急ぎやってきたあの時。

汝らとともに現れた戦車は、燦然たる富をもたらした。

そこには、イルカ(ネズミイルカ)と牡牛が

(あり得ない姿で)並んで繋がれていたのだ。

19 支配とともに富を、子孫とともに生命を、

高貴な英雄たちに満ちた生命をもたらすナーサティヤよ。

汝らは、一日に三度、己の分け前を捧げる

ジャフヌの子供たちのもとへ、

力強く、調和とともにやってきた。

20 汝らは夜の闇のなか、

四方を完全に包囲されていたジャーフシャを、

容易きルートによって救い出した。

不老のナーサティヤよ、つま先を切り裂くような

(険しき)戦車を駆り、

汝らは立ちはだかる山々を打ち砕いた。

21 ある朝、汝らはヴァサの戦いを強力に支え、

数千とも数え切れる戦利品を集めさせた。

インドラと手を結び、強大なる汝らは、

プリトゥシュラヴァスの敵どもを、

その災いごと追い散らした。

22 深き井戸から、汝らは水を高く汲み上げ、

リチャトカの息子サラが、それを飲めるようにした。

ナーサティヤよ、汝らのその威力をもって、

疲弊しきったシャユを助けるため、

あの不妊の牛に(豊かな)乳を溢れ出させた。

23 クリシュナの息子、汝らに加護を求め称えた

正しき男ヴィシュヴァカよ! ナーサティヤは、

己の力をもって、まるで迷子になった生き物を戻すように、

彼の息子ヴィシュナープーを、

その目がふたたび見届けられるよう、連れ戻した。

24 アシュヴィン双神よ、汝らは

十日十晩、残酷な鎖に縛られ、水に沈められ傷つき、

激しい苦痛のなかにあったレブハを、

まるで柄杓ひしゃくでソーマを

掬い上げるかのように、引き上げた。

25 私は汝らの驚異の業績を宣言した、おおアシュヴィン双神よ。

この(歌)が、私のものとなり、多くの牛と英雄をもたらさんことを。

私は、引き延ばされた生命を享受し、いまなお見つめながら、

まるで「自分が暮らす我が家」へと入るかのように、

穏やかに老境へと入ってゆくことができますように。



解説

第116曲は、再び「アシュヴィン双神ナーサティヤ」の登場です。第112曲が彼らの救出劇の「総選挙ロールコール」だったのに対し、この第116曲はそのディテールをさらに深く、狂おしいほどドラマチックなプロットに肉付けした全25節の大長編です。

何が最高かって、冒頭の1節からして痺れる。詩人が「私は芝を刈り揃えるように、職人技でこの歌をトリミングする(I trim like grass my song)」と宣言し、風が雨雲を吹き飛ばすような圧倒的なビーストの勢いで、神々の伝説を次々にドライブさせていくのが、時代を超えて素晴らしいです。

さらにこの曲はアシュヴィン双神の「レスキュー・テクノロジー」の詳細を限界まで解像度高く写し取った、リグ・ヴェーダ屈指の「メディカル・サイエンス神話」です。

* 1–9節:冒頭の「歌をトリミングする」プロットから、異色のビジュアルが連打されます。2節では、なぜか神々の競馬で「ロバ( ass )」が千の戦利品をかっさらうユーモア。3〜5節では、父親に見捨てられ海の真ん中に沈められたブジュの救出プロット、「百本の櫂を持つ船( ship with hundred oars )」や「三日三晩走り続ける魔法の戦車」など、古代アーリヤ人の海洋進出や未知のテクノロジーへの強い憧れが描写されています。さらに7節の「馬の蹄からワインを濾過して溢れ出させる」ビジュアルや、9節の「渇いた民のために、井戸を物理的にひっくり返して下向きに開かせる( set the base on high to open downward )」という、重力を無視した鮮やかなエンジニアリングプロットが冴え渡ります。

* 10–16節:ここには究極の「若返り・外科医療」のプロットが固まっています。10節の魔術師チヤヴァナの若返り劇は、老いた皮膚を「鎧を脱がせるように( as 'twere mail, stripping the skin )」剥ぎ取り、一瞬でピチピチの若者に変えて若い娘たちと結婚させるという、実にラグジュアリーでアグレッシブな医療ギミック。12節の「馬の頭を乗せた賢者ダディアンチがソーマの秘密を喋る」プロット、15節の女性戦士ヴィシュパラーが「夜の戦いで鳥の羽のように切られた足を、鉄の義足( leg of iron )によって数秒でリカバリーされ戦線復帰する」サイボーグ・プロット、16節の「百頭の羊を狼に食わせて父親に目を潰された息子リジュラーシュヴァに、完全な視力を再生させる」眼科医療まで、現代のSFをも凌駕するイマジネーションが凝縮されている。

* 17–25節:17節では「太陽の娘( Sūryā )」をナンパして自分たちの戦車に乗せるという神界の最高にファッショナブルなランウェイが描かれ、18節では「イルカと牡牛を同じ戦車に繋ぐ( a porpoise and a bull were yoked together )」という、常識を完全にハズした前衛的なビジュアルセンスが炸裂する。最後は、25節において詩人が「自分の命を引き延ばし、世界をこの目で見つめながら、まるで自分の家に帰るようにエレガントに老境( old age )へ入っていきたい」という、表現者としての最高に洗練された人生観を表明して美しく幕を閉じています。

10節の、しわがれた老皮を「鎧を脱ぐようにベリベリ剥ぎ取って」一瞬で若返らせるチヤヴァナのプロットや、18節の「イルカと牛を同じ戦車に繋ぐ」という前衛アートみたいな凄まじいビジュアルセンス。そして何より25節の結び、「老いることを恐れず、まるで自分の家に帰るようにエレガントに老境を迎えたい」という人生のプロット。これ、人生をフルスロットルでデザインしてきた詩人の言葉として、本当に贅沢で格好良すぎる生き様です。


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