最終話:これは私だけのエンディング
静かな春の朝。
グランフォード邸の庭には、ハーブの香りと、どこか懐かしい風が吹いていた。
私は今、かつての“悪役令嬢”という肩書きを捨て──
ただのセリーナとして、生きている。
王太子との婚約は、その後、本人の意志で“いったん保留”にされた。
「君には、自由な人生を歩んでほしい。もしそれが私の隣であるなら……そのとき、もう一度求婚する」
アレクシスはそう言って、笑った。
騎士団長アレインも、近衛騎士長から退き、いまは辺境の訓練所の指導役となっている。
たまにふらっと遊びに来ては、庭の草むしりを手伝ってくれるのはご愛嬌だ。
マリアは、国外の魔導研究所で再スタートを切った。
新しい名前で、もう一度人生をやり直しているらしい。
最後に交わした手紙の文面は、彼女らしい、少し硬いけど優しいものだった。
「セリーナ様の未来が、あなたのものになりますように」
──ああ、そうだ。
私は、この世界で生き延びた。
婚約破棄を望んで、断罪を避けて、闇堕ちルートを壊して、
それでも自分らしく生きる道を、見つけた。
ここにあるのは、
悪役令嬢の物語でも、ヒロインのエンドでもない。
これは──
「私だけのエンディング」
春風に舞うハーブの香りの中、私はふっと笑ってつぶやいた。
「……ああ、今日も平和ね。最高じゃない?」
小さな猫がひとつ、足元をくるくる回って鳴いた。
未来はまだ続く。
“エンド”の向こう側にだって、人生は続いていくのだから。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
この作品は、悪役令嬢×転生×断罪回避という王道要素に加え、
「死亡フラグを“本気で”避けにいくヒロイン」という、ちょっとズレた視点から書いてみました。
元々は“婚約破棄されたい”という逃避願望から始まった物語ですが、
セリーナは回を追うごとにただの逃げ腰令嬢から、自分の人生を選び取る“意志ある女性”へと成長していきました。
そして、もう一人の転生者・マリア。
彼女もまた、祝福されるだけのヒロインではなく、“理不尽さと葛藤を抱えた等身大の少女”として描きました。
本作では、
「悪役令嬢なのに婚約破棄されない」
「ヒロインなのに断罪されかける」
「フラグがバグって逆ハーレム一直線」
……など、“なろう系あるある”をあえて逆手に取りつつ、読者の予想を裏切る展開を目指しました。
何よりの目標は、
「これはセリーナだけの物語だった」と言ってもらえる結末にすること。
もし少しでも楽しんでいただけたなら、それだけでこの作品は大成功です。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
ご感想などをいただけると幸いです。
露草 ひより