33 帰還
翌日。フレデリックの部屋に、フレンとフレデリック、アリシアの三人が揃っていた。フレンの手には銀細工の施されたワインレッドとパープルを入り交ぜたような色の美しい鉱石がキラキラと輝いている。
「本当に、色々とありがとうな」
フレンが微笑んでそう言うと、フレデリックとアリシアは複雑そうな顔でフレンを見る。
「そんな心配するなって。きっと大丈夫だ。……今のアリシアのこと、頼んだぞ」
「ああ、言われなくてもアリシアは俺が大切にする。俺はあんたであんたは俺なんだから、わかるだろ」
「ふっ、そうだな」
フレンは少し笑ってアリシアを見た。
「それじゃあな、アリシア。未来でまた会おう」
「フレン様……未来の私と、どうかお幸せに」
アリシアは胸の前で両手をぎゅっと握り締め、なんとか笑顔を作ってフレンへ言った。それを見てフレンは少し寂しげに微笑み、握りしめていた鉱石を見つめ、静かに息を吐く。そしてまた二人に視線を戻した。
「それじゃ、二人とも元気で。って言うのもなんか変な感じだけど、それでもだ。元気でな」
フレンの言葉に、フレデリックはアリシアの肩をそっと抱き微笑む。アリシアもフレデリックを見てからフレンを見て、静かに微笑んで頷いた。
フレンは片手に乗せた鉱石をじっと見つめた。
(お願いだ、本来俺がいるべき未来に戻してくれ。アリシアの側にいたいんだ)
静かに目を瞑り、フレンは鉱石に祈る。すると、鉱石が徐々に光りだし、その光は瞬く間にフレンを覆った。
「!」
あまりの眩しさにフレデリックとアリシアは目を瞑ると、光はすぐに収まった。そっと目を開けると、そこにもうフレンの姿はない。
「行って、しまったんだな」
ぽつり、とフレデリックがつぶやく。
(本当に、消えてしまった……ちゃんと未来へ、戻れたのかしら)
戻ったとして、生きているのだろうか。不安がアリシアを襲う。そんなアリシアの肩を抱いたフレデリックの手の力が、グッと強まった。
「アリシア、きっと大丈夫だ。だから、そんな顔しないで」
そう言って、フレデリックはアリシアを両腕の中に閉じ込めた。
「あいつを信じよう。きっと大丈夫だ。未来で未来のアリシアに会って、こうして抱きしめてるはずだよ。あいつはアリシアに会いたくてたまらなかったんだから」
ぎゅっとフレデリックの腕の力が強くなる。少しだけ震えているのは気のせいだろうか。アリシアも、そっとフレデリックの背中に手を伸ばした。
「そうですね、きっと大丈夫です。未来の私たちは再会して、こうして抱きしめ合っている」
(そうであってほしい。フレン様、どうか、どうかご無事で)
キュッとフレデリックの服を握りしめると、フレデリックが体を離してアリシアの顔を覗き込んだ。
「昨日、あいつに変なことされなかった?」
「大丈夫です、前髪にキスされましたけど、唇は俺じゃない、フレデリックがするんだからと言ってました」
ふふっと嬉しそうに思い出し笑いをするアリシアを見て、フレデリックはそっと頬に手を伸ばす。
「そうか。……それならアリシア、唇にしてもいい?」
アリシアは一瞬目を大きく開くが、すぐに顔を赤らめながら優しく微笑んで頷いた。フレデリックは、そっとアリシアに顔を近づける。そして、二人の唇は重なった。
ちゅ、と小さな音がして、二人の唇が離れる。アリシアとフレデリックの視線が交わって、二人はふと目を見開いた。
(あ、れ?何か大事なことを忘れているような)
さっきまで、誰かがいた気がする。とても大切で大事な人のはずだ。それなのに、誰なのか思い出せない。一緒にいて色々とあった気がするのに、何があったか思い出せない。
「え……?」
ポロ、とアリシアの瞳から涙が一粒だけ溢れる。それに気づいてアリシアは、片手で頬をそっと触る。フレデリックはそれを見て、辛そうな顔をしながら首を傾げた。
ついさっきまで誰かがいた、はずだ。大切な話をしていたはずなのに、それが何だったのか思い出せない。だが、フレデリックは自分の中に欠けていた何かが入り込んだような、カチッと何かがはまったようなそんな感覚になっていた。
不思議そうな顔で宙を見ているアリシアを見て、フレデリックは内側から溢れんばかりの愛が込み上げてくる。アリシアのことはそもそも大好きで大切だ。だが、それ以上の何か大きな感情が溢れ、フレデリックはアリシアを抱き締める。
「フレデリック様?」
「……アリシア、愛してる」
(……!)
それは紛れもなくフレデリックなのに、もう一人の誰かに抱きしめられている感覚だった。フレデリックに抱きしめられているのに、同時にもう一人、フレデリックと同じ大切で大事な人に抱きしめられている感覚になる。だが、それが誰なのか思い出せない。懐かしいのに、思い出せないのだ。
フレデリックの腕の中で、アリシアはまた涙を一つ零し、そっと瞳を閉じた。




