23 疼き
舞踏会翌日。
「ん……」
ベッドに寝ていたアリシアがふと目を覚ます。
(あ、れ…?ここは、自室?)
ゆっくりと体を起こして周りを見渡すと、どうみても自分の部屋だ。
さっきまで舞踏会にいたはずだ。なのに窓の外は明るい。確か、メリッサからもらったドリンクを飲んだら、なぜか体が熱くなって、それから……。
起こったことを断片的に思い出して、アリシアの体温は一気に上昇する。そういえば、どうやって屋敷へ戻ってきたのだろうか。服装もドレスではなく寝巻きで、メイドがしてくれたのだろうか、どうやら湯浴みも済んでいるようだ。
ふと、自分の胸元を見て驚愕する。大きく開いた胸元に、小さな赤い痕がいくつもついているのだ。
(こ、これって、まさか……)
知識としてはなんとなく知っている。おそらく、キスマークとかいうやつだ。これをつけたのは、フレデリックなのか、フレンなのか?思い出そうとするが記憶が途切れ途切れでわからない。
なんだかお腹のあたりがじんわりとする。不思議な感覚で戸惑っていると、扉をノックする音がした。
「はい」
「俺だ、入るよ」
フレデリックの声だ。思わず顔が赤くなってしまい、両手で頬をおさえていると、フレデリックが部屋に入ってきた。
「アリシア、起きたんだね。よかった。体は、その、大丈夫?」
心配そうに尋ねられ、アリシアは目をそらしながら答える。
「だ、大丈夫です。あの、本当にすみませんでした!あんな、はしたない姿……」
思い出してまた体温があがってしまう。アリシアはいたたまれず顔を両手で隠すと、フレデリックがこほん、と小さく咳払いをした。
「アリシアは悪くないよ。むしろ、ああするしかなかったとはいえ、俺は、アリシアを、その……」
手で口元を覆いながらフレデリックは口ごもる。
(ところどころしか思い出せないけど、それってつまり、私とフレデリック様が……)
「ま、さか、私たち、そういうことを……?」
「い、いや!最後まではしてない!あんな状態の君にそんなことするなんて俺自身が許せないよ。するなら、君がちゃんと本当の意味で俺を望んでくれる時がいいから」
その言葉にアリシアが顔を真っ赤にしてフレデリックを見つめていると、フレデリックはアリシアの胸元を見てから顔を赤らめて目をそらした。
「その、胸元の痕は、ごめん。どうしても我慢できなくて」
(……この痕、フレデリック様がつけた痕なのね)
二人で顔を赤くしながら、無言になる。
「あの、謝らないでください。フレデリック様は私のためにしてくださったのですし、そのおかげで私はこうしてなんともありませんし」
あんなに熱く苦しかった体が、今は嘘のようにすっきりとしている。
「本当に大丈夫?求められるままに応じていたけれど、やりすぎだったんじゃないかと心配になって」
フレデリックの言葉に、アリシアはなんとなく最中のことを思い出して心臓がバクバクと鳴ってしまう。フレデリックの手を見て、口元を見て、記憶がまた所々思い出されて、お腹の奥がじんわりするのを感じた。
(ど、どうしよう、フレデリック様のこと直視できない)
「アリシア、そんな可愛い反応されると、俺もどうしていいかわからなくなる」
フレデリックも戸惑っているようだ。そういえば、とアリシアはドアを見る。
「そういえば、フレン様は……?」
体調のおかしくなったアリシアを、安全な部屋まで連れて行ってくれたのはフレンだ。それに、フレンにも無理を言って困らせてしまった気がする。謝らなければ、とアリシアは思ったが、フレデリックは少しだけ気に食わないというような顔をする。
「フレンのことは、気にしなくていいよ。今日は調べたいことがあると言って街に行った」
「そう、ですか」
「フレンに会いたかった?」
「えっ、そういうわけでは……」
返答に困るアリシアに、フレデリックは手を伸ばして頬に手を添えた。フレデリックの手が暖かい。その暖かさと感触に、アリシアはまた体の奥が熱くなる。
「俺と一緒にいる時に、あいつのことは考えないでほしいな」
「未来のフレデリック様なのに?」
「それでも、だよ。前にも言っただろう」
そっと額を合わせてフレデリックは目を閉じる。顔の近さにアリシアがくらくらしていると、フレデリックは静かに額を離した。
「ふふ、俺のことでいっぱいになった?」
「は、い」
「今日はゆっくり休んでいて。メリッサのことは、いずれちゃんと話し合おう。実の妹だと言っても、やっていいことと悪いことがある」
厳しい顔つきでフレデリックが言うと、アリシアは神妙な顔でフレデリックを見つめる。
「アリシア?」
「フレデリック様、メリッサのことについて、話したいことがあります」
「話したいこと?」
「メリッサは、……実の妹ではないのです」




