魂の魔法ゴレゴレム
「ゴーレム、攻撃中止!!
だめよ、ピッケルに出力最大の炎のブレスを出すなんて。死んじゃうじゃない」
石像の近くにふわふわと人魂みたいな精霊の姿が見える。
石像の口の光が弱まっていく。四つ足の石像が、おすわりの様な格好て、動きを止めた。
目から光を失って、静止した。
「な、なに?何があったの?ピッケル、だいじょうぶ?」
「せ、精霊が助けてくれたのかな」
「その通り。私が助けてあげたのよ!魂と土の精霊ゴサスチ様がね!」
ちょっと高飛車な感じの精霊なのかな。跪いてお礼をしよう。
「ゴサスチ様、お助けくださりありがとうございます。
仲間にも紹介したいので、姿と声を人類にもわかる様にしてもらえますか」
「いいわよ!
でも、ピッケルは、どうしてここに?まさかあなたも魔王コフィの墓荒らしじゃないでしょうね?
あら、よく見たらちょっと前に盗まれた魔王の剣を持っているじゃない。返しにきたの?」
ゴサスチ様が黒いマントに、やはり全裸の女の子の姿で現れた。
女神様といい、精霊といい、なぜ全裸なんだ。
「おお。美しい。ガンダルと申します。お助けありがとうございます」
「カ、カリンです。ここは魔王コフィのお墓なんですか?」
「正確には魔王のお墓って言えるかわからないけどね。コフィは、1万年くらい前に、亡くなった妻スピカと一緒に眠りについた。
この土地の魔力は、全部魔王コフィが吸い取っているから、地上には一切魔力がないのよ」
そうだったのか。そして、この剣が魔王のものだったなんて。
カリンが驚いて、あっと声をあげた。
「コフィとスピカって、あのおとぎ話の?!あたし、小さいときお父さんから子守唄代わりにその話を聞くのが好きだったな。
スピカの必殺パンチが山を砕き、地を裂くの!」
コフィとスピカのおとぎ話?僕は、聞いたことないけど。。。そんな本、パスカル村では、見かけなかった。それにスピカのパンチ、強すぎだろ。
そんなことより、この剣、コフィに返さないといけないのかな。。。そうだよな。。。
「これが魔王の剣というのは本当ですか?確かに3年前に遺跡で発見されたと聞いています」
「間違いないわ。先代女神の館と同じ素材でできている剣よ。唯一無二だわ。
まぁ、でも、魔王コフィもまだ当分寝ていそうだし、借りておけば?子供頃使っていた剣で、もう使ってなかったみたいだしね。起きたら返せばいいじゃない。
装備した人が即死する不運の呪いがかかっているけど、幸運なピッケルなら大丈夫そうだし。
その剣の柄が温まった時に漏れる甘く温かいムスクに似た匂いは、女の内臓をうずかせて、心も身体もトロトロに湿らせる最強の媚薬。
かつて先代の女神様さえ虜にしたそうよ。
その香りが世界に漂うのは、素敵なことね。洞窟の中で人目に触れず埃をかぶっているのは、宝の持ち腐れ。
それにピッケルは、魔王の剣を持つに相応しいわ。いい男だしね。
それになんたって調和のドラゴン殺しなんだもの」
え?僕が調和のドラゴンを殺した?どういうこと?即死の呪い。。。ダメならとっくに死んでるってことか。
そもそも媚薬なんて胡散臭すぎる。そんなのインチキに決まっている。
「そうそう、ちょうどいいわ。ピッケル、あなたに伝えなければいけないことがあるわ。調和のドラゴン、カンカラカンのことよ」
「調和のドラゴン。。。僕のせいで弱っていると、闇の元素精霊アスタロト様と次元の元素精霊パルキオ様の使徒キーラから聞きました」
「あなた達のせいでカンカラカンが今さっき死んだわ」
「え?!なんで急に?あたし達のせい?何にもしていないわよ?」
「え?じゃないわよ。ピッケル、あなたの幸運がカンカラカンを殺したのよ。ドラゴン殺しのピッケルと呼ぶに相応しいわ。あなた、どんだけ強力な幸運なのよ。調和のドラゴンにとっては、ピッケルの存在自体がダメージだったのね。
ダクジャとパルキオがピッケルを封印しようとしたのも分かるわ。
私は、ピッケルを封印するのがいいとは思わないけどね。
でも、確かにさっき封印されていたら、カンカラカンが助かったかもしれない。あなた達が頑張ったせいで、手遅れになったのよ。いや、むしろトドメを刺したのかも。
ドラゴンは、12体揃わないと隕石を退けることができない。
もうピッケルを封印しても、どの道この星は、隕石の衝突を避けられない。
むしろ隕石の衝突を避けるには、ピッケルの幸運の力を頼るしかない」
ガンダルが言葉を失っている。
ドラゴン殺しのピッケル、とんでもない二つ名だ。
カリンがゴサスチ様に訊ねる。
「そんな。あ、あたし達はどうすれば?」
コザスチ様が呆れたように手を振る。
「どうもこうもないわよ。おしまいよ。
隕石が衝突したら、この星は精霊も魔獣も生き物も住めなくなる。まぁ、それもまた自然の摂理よ。
ただ、あなたの幸運、やっぱり変よ。強すぎる。魔王もびっくりよ。
ピッケルの幸運に隕石を退ける力があるのかどうか。
もし、この星を救えるとしたら、まずピッケルの幸運を解明するしかないわね」
そういうことか、もうドラゴンは隕石を退けることができない。僕のせいで。。。
でも、そうだ。僕の幸運の解明ができれば!そうは言っても、なんの手がかりもない。
「何か僕の幸運を解明する手がかりがありませんか?」
「そうねぇ。女神様もまだあなたの幸運を解明していないものね。
この星は、先代女神様が最後に暮らした場所でもあるの。1万年以上前だけど。
先代女神様の館には、トトと呼ばれる異次元から来たゴーレムみたいなものがいるらしいわ。
先代女神様の頃からいる存在なら、何か手がかりを教えてくれるかもね」
「それはどこに?」
「ここからだとかなり遠いわね。海を渡って、山を越えて、隣の大陸の内陸部よ。どうやって説明したらいいのかしら。面倒ね。
それに海を渡るにしても、あなた達が弱すぎて、無理ね。死にそうになるたびに助けるなんて、世話が焼けるわ」
手厳しいが、確かに僕たちは、弱すぎる。
「弱すぎて、申し訳ないです。日々努力をしているのですが。。。」
「あなたがどんなに頑張って少し強くなったって、どうにもならないわ。骨折り損のくたびれ儲けよ。
そうね。。。気休めにもならないけど、これが私があなたにできる最大限のことよ。
特別に魂の魔法を教えてあげる。
ピッケル、こっちにおいで」
ゴサスチ様が僕の頭に手を乗せる。じんわり温かい魔力が身体に染み渡る。
「ふーん。人類にしては、魔力の量があるわね。でも、魂も魔力を扱う力も弱すぎる。スピードが足りないのね。これじゃ、魔獣に魔法が当たらないわ。てんで駄目ね。
そんな無力なピッケルにも扱える魔法は。。。あんまりないわね。。。土の魔法に慣れているみたいだけど。。。
せめてこの赤い目の巨人ユピテルの子孫に眠る力が覚醒していたら。。。でもまだその時じゃないか。。。」
ゾゾ長老のような魔力のスピードがあれば。でも、無い物ねだりを今しても仕方がない。
赤い目の巨人ユピテルの力?カリンのことかな。やっぱり何かカリンの中に眠る力があるってこと?
僕は、今、力が欲しい。試練を越えるための力が!
「お願いします。何か、僕にできる魔法がありませんか」
「んー。あぁ、これか。これがいいわ。人類って魂の力も弱いのね。大幅に魂を補強してっと。んー?やりすぎか?まぁいいか。調和のドラゴンがいないからこんなことできるのかもね。調和のドラゴンがいたら、絶対に制約がかかる違反行為だわ。
よし!
これならもう魔力量だけあれば、スピードが関係ない。
ピッケル、しっかりと見てなよ?一回見せて覚えれるかしら?」
「目で見た魔法は、一回で覚えろと言われて、育てられました」
「ふふふ。良い心がけね。あなたに分かりやすいように詠唱付きで教えてあげるわ。
我が魂よ、万物に宿れ!形を作り、自ら動け。ゴレゴレム!」
お座りして静止していた獅子の石像が、3体の石像に戻って、元の場所に帰っていく。
「ゴーレムを作る魔法よ。事前に作っておけば、スピードが遅いピッケルでも扱えるはずよ。
魂は、時間や空間を超越することができるの。時間と空間に縛られている人類の理解できることではないけどね」
ええ?訳がわからない分からない魔法だ。もっと使いやすい魔法がよかったな。いや、きっと役立つはずだ。
「あ、ありがとうございます」
「背中の穴に炎犬の骨一本くらい刺しておけば、1ヶ月くらい動くわよ。
あと、この先に1万個の石板を集めた博物館があるわ。そこに司書のゴーレムがいるから、炎犬の骨を刺して起動してみて。ゴーレムにしゃべる機能がないから、扱いが難しいかもしれないけど。うまくいけば、地図とか書いてくれるはずよ。
博物には、宇宙の創生から万物の起源、ありとあらゆる知識が保管されているわ。運が良ければ知識を引き出せるかもね。
残念ながら博物館にも、あなたの幸運についての知識は納められていないけど」
宇宙のあらゆる知識!?ろ、ロマン!
ガンダルがお礼を言う。
「人類に叡智をありがとうございます」
「あと、この辺りの元素精霊は、アスチだから海を渡る前に大地の割れ目に行って、会っておいた方がいいわよ。ピッケル、過酷な運命だけど、頑張ってね」
口の中が乾いてうまく声がでない。
応援してもらえることがありがたい。
よし、大地の割れ目に行ってみよう。
「は、はい。まずアスチ様に会いにいきます」
「私は、他の精霊たちと会って話をしてくるわ。みんな大騒ぎよ。じゃあね!」
ゴサスチ様がフワッと消えて、どこかへ行ってしまった。
重たい沈黙の時間になる。
そりゃそうだ。ついにドラゴン殺しピッケルになってしまった。
流石にカリンやガンダルも、僕を見放しただろう。
ドン引きだ。隕石よりも人類に災厄と脅威を与えているのが、僕自身だったなんて。
今や僕は、人類の敵だ。
「プププッ!!」
「ガッハッハ!!!」
そうだよな。笑うしかないよな。こうしてみんな僕から離れていく。その方がいい。近くにいるとどんな幸運で命の危険があるか。これからは1人で生きていこう。
「ピッケル、面白すぎる!!!ドラゴン殺しのピッケルなんて、カッコ良すぎるわ!」
「ガッハッハ!本当にそうだ。強すぎるぞ。こりゃあ、たまげた!」
いやいや、面白がっている場合じゃないだろ?
「次の行き先は、地面の裂け目にいるアスチ様ね!
ピッケル、魂の魔法を教えるのは、絶対あたしを一番最初にしてね。
あー!どうしよう!闇の魔法に、次元の魔法!雷の魔法もこれから出会うのが楽しみ!
早くアゴラスに帰って研究しないと!あたしが新種の魔法を発表するのが楽しみすぎる!」
「海を渡って、未知の大陸か!まだまだ、僕も強くならないとな!ワクワクするぜ!未知の獣の肉を食べたいぜ!ピッケル、絶対に僕を連れて行けよ?!いや、必ずついて行く!」
なんで。なんで。。。目から熱い涙が溢れる。
ガンダルが僕の肩をがっしりと痛いくらいに掴む。
「ピッケル。俺は3年前、炎犬に黒焦げにされた時に、一度死んだ。お前のおかげで、今日まで生きているんだ。
ピッケルのためなら、この命をかけるぜ。結局、ピッケルの幸運を解明しないと生き残れないしな。
希望がある限り前に進むしかないぜ、戦友!」
「ピッケル、何を泣いてるのよ?
あたしが一緒にいるのが、そんなに嬉しいの?
うんうん。よしよし。うふふ。
未知の大陸には、未知の魔法があるはずよ!未知のフルーツ!未知のスイーツも!
ピッケル、行くんでしょ?」
「い、行くよ!」
「たまには、僕について来い!とか言いなさいよ!」
カリンが僕の背中をバシンと強く張り手する。
うげっ!い、痛い!!
「お、僕について来い!」
「ガッハッハ!そうこないとな!腹が減ったぜ。
いけね。早く帰らないとゾゾ長老に怒られるぜ!」
「あははは!それが一番怖いわね!アゴラスでポムルスのパンを食べましょ!」
カリンもガンダルもゲラゲラ笑いながら、歩いていく。
ありがたい。力を貸してくれる人たちがいる。
一人でもやり切る覚悟だけど、仲間がいれば、こんなに頼もしいことはない。
まだ、可能性がある。それに向けて、進んでいこう。




