新しい仲間
迷路の様な古代遺跡を迷い歩いた。やっとアゴラスに到着した時には、もうすっかり晩になっていた。
くたくたにくたびれて、もう歩けない。でも、甘酸っぱくて爽やかな香りのポムルス入りのパンを食べたら元気が出てくるから不思議だ。
僕とガンダルとカリンは、ほんの少し休んでから、すぐにゾゾ長老の部屋へ向かう。
長くて暗い赤絨毯の廊下が続く。壁にランプの灯りがあるとはいえ、明るいとは言えない廊下に人や動物の頭蓋骨が並べられている。パスカル村のゾゾ長老の館と同じく、悪趣味なホラーテイストだ。そもそも地下であるという圧迫感がさらに怖さを引き立てている。
「この廊下を歩くときは、大抵ゾゾ長老に怒られる時だぜ。楽しい思い出がねぇな。うぅ」
ガンダルがぼやく。
カリンもそれには同意のようだ。
「この廊下をみんな避けて通るわ。だって、怖いもの。頭蓋骨なんて
どこから集めてくるのかしら。気味が悪いわ」
不気味な廊下の突き当たりに、100歳の老人が開け閉めするには、どう見ても重厚すぎる木の大きな扉がある。
「ふぅ」
ガンダルが、重いため息と共にゾゾ長老の部屋のドアにノックをしようとして、ピタッと手を止める。
来客中かな。部屋の中から声が漏れてくる。
「ヒヒヒ!その飛竜を取ると、お前は詰むぞ。いいのか?」
ゾゾ長老の勝ち誇った声が響く。
「本当ですか?
大駒を失いたくないだけでは?ブラフはやめてください。
こう見えて国のブブンパ大会で優勝したこともあるんですよ?」
誰の声だろう。聞き覚えがある。ブブンパでゾゾ長老と戦っているのか。
ゾゾ長老から飛竜を取る時は、勝つか、取らされて詰むかどっちかだ。僕はいつも後者だけど。
「飛竜を取りたければ取るがいい。
たまには老人の助言も聞くもんじゃよ。
じゃあ、聞くが、わしの飛竜を取って、お前にはわしを詰みにする手順がちゃんと見えているのか?」
ゾゾ長老が親しい相手なんだろうか。飛竜は盤上で一つしかない最強の駒だ。
「今は、盤上の敵です。詰み筋が見えているかなんて、言えませんよ。そっちこそ待った!とか言うのは無しですよ?
この飛竜頂きます」
カリンが眉間にシワを寄せている。カリンには、ゾゾ長老とブブンパをしている相手に予想がついたらしい。
「ヒッヒッヒ!
わしの勝ちじゃな。間違いない。19手詰みじゃ。
お前の敗因は、傲慢さじゃな。
わしの勝因は、エタンのような逆立ちしても勝てない相手やトラクのような好敵手に恵まれていたこと。
つまり負けた数の多さ。
わしから飛竜を取るときは、手玉に取られているのが自分かもしれないと考えろ」
「上には上がいるものですね。プリンパル国のどこかにブブンパの強者が集まる村があると噂で聞いたことがありましたが。。。パスカル村のことだったのですね。。。」
「そういうことじゃ。さて、こうしてこうしたらこうなって、こうこうこうの。。。こうこうこうで、ほれ!ブブンパ!」
ブブンパは、将棋でいう王手だ。どうやらゾゾ長老が勝ったらしい。
「認めたくないものですね。若さゆえの傲慢さというものを。
魔法では敵いそうもないので、得意のブブンパで挑んだのですが。まさか返り討ちにされるなんて。
あぁ、これが私の自惚れ、慢心か。やれやれ」
ガンダルが怪訝そうに髭をポリポリと掻いている。
「ヒッヒッヒー!若さを嘆くな。わしから見れば、みんな赤子じゃよ。相手が悪かっただけで、お前もなかなかの腕じゃ。
腐らず精進しろよ?お前は、まだまだ強くなれる」
「完敗ですが、確かにこの一局の中で少し強くなれました。何事も勉強ですね」
どうやらブブンパが終わったみたいだ。ガンダルがノックをすると「いいぞ、入れ」とゾゾ長老の明るい声がする。
ギギギッ
重い扉を押し開けて、部屋にはいると、思ったより広くて明るい室内だ。
ゾゾ長老とキーラが楽しそうにブブンパの盤上を覗き込んで感想戦をしている。
キーラ!!!!
僕もカリンも反射的に杖を構える。
「キーラ、お前!どの面さげてここにいるんだ!」
「ヒッヒッヒ!まてまて。ピッケル、落ち着くんじゃ」
カリンが杖を突き出す。
「ゾゾ長老!キーラは、危険です!」
ゾゾ長老が笑う。
「ヒッヒッヒ!危険なんかありゃせんよ。キーラは安全じゃ。もはや同志と言っていい」
カリンがキーラを睨みつける。
「どういうこと?
昼間、あたしたちを襲ってきたばかりなのよ?どういう風の吹き回し?
また、あたし達を騙そうとしてるんでしょ。このペテン師!」
キーラが投げやりに手を振る。
「クビですよ。クビ。封印に失敗して、精霊の使徒は、お役御免です。
ピッケルを封印するのはもう、手遅れになりました。カンカラカンも死んでしまいましたし。
いやむしろ、昼間の幸運な出来事がカンカラカンの息の根を止めたと言った方がいい。今や私もドラゴン殺しの共犯者ですよ」
「ヒッヒッヒ!キーラから全部聞いたぞ。
ドラゴン殺しのピッケルよ。どっちかって言うと危険なのはお前さんの方じゃ。
キーラにピッケルを封印する意志は、もうない。むしろ、ピッケルの幸運の解明に手を貸してくれるそうじゃ。人類の生存のために。
昨日の敵は今日の友じゃ。キーラの言葉に嘘はない。味方と思えば、これほど頼もしい奴は、おらん。仲良くするんじゃ」
「そういうことです。微力ながらお力添えさせていただきます」
「勝負にわしが勝ったら、闇の魔法と空間の魔法を教えてくれる約束じゃったな」
「もちろんです。私に二言はありませんよ」
カリンの怒りは収まらない。
「あんたの力なんて要らないわ!どういうこと?!昨日どころか、今日の昼の敵でしょ?」
ゾゾ長老がカリンを諌める。
「カリン、そんなにキーラを敵視するな。危険ならわしが瞬殺しとるわい。
昨日でもお昼でもどっちでもいいわい。友を得るのに早いに越したことないじゃろ?なぁ、ヤードルや?」
「同意だ」
後ろから、聞き慣れた声がする。
ヤードル!?
「おお!ヤードルやっぱり生きていたな。お前のおかげで助かったぞ!ガッハッハ!」
ガンダルが嬉しそうにヤードルに歩み寄って、ヤードルの背中をバンバン叩く。
ヤードルが迷惑そうに美しい眉間にシワを寄せる。
ゾゾ長老の目がギラリをガンダルを見る。
「ところでお前たち、どこをほっつき歩いておった?かなりの大遅刻じゃな。昼過ぎまでに帰れと言ったはずじゃ、ガンダル?言い訳を許してやろう。理由を言え!」
「ひっ!それには訳が。。。」
ガンダルが背筋を伸ばして、ゾゾ長老の前に出る。それから、ドワラゴンが親方を引き受ける件や古代遺跡でのこと、博物館のことをゾゾ長老に話す。
ゾゾ長老が静かに話を聞いた後、少し黙ってから、口を開く。
「ほう。魂の魔法。これで12種の魔法が判明した。
土、水、草木、氷、風、闇、光、火、雷、魂、時空、調和じゃな。
まだまだ人類は、ほんのわずかしか魔法を知らん。これからが楽しみじゃ。
古代の博物館か。そこに行けば新しいことがわかるかもしれんな。ワクワクするぞ。ヒッヒッヒ!」
カリンが補足の説明をする。
「でも、いろいろな仕組みやカラクリがあるみたいだったけど、何もわからずお手上げで、通り過ぎてきたの。
目印をつけてきたから、地下の封鎖されていた岩の割れ目から博物館まで辿り着けると思うわ」
「なるほど。古代遺跡の模様か。わしは、古代の模様や文字が少し読める。研究していてよかったわい。
目印をつけてきたのは良い判断じゃ。楽しみすぎて、待ちきれんわい。カリファを呼べ!今からすぐに博物館に案内しろ!」
今すぐに!?




