C級昇格!
ギルドの扉をくぐった瞬間、空気がいつもと違って感じた。
受付前に立っていたミニマナがにっこりと笑って言った。
「2階でギルドマスターが待っているわ」
ギルドマスター、どんな人物なんだろうか。
僕はドキドキしながら2階にあるギルドマスターの部屋に通された。
もちろん初めて入る場所だ。
天井の高い質素ながら上品な部屋にギルドマスターは立って待っていた。
巨人。
2メートルを超える身体。巨人にしては小さいほうかもしれない。
落ち着いた声が朗報と響く。真面目で堅実な人、そんな印象だ。
「ギルドマスターのバストークだ。
おめでとう、ドラコニア団。君たち、正式に“C級”として登録された」
ぼくの肩でロップスが「おぉ~」と感嘆の声をあげた。
ヴィオラとウチャも目を見合わせ、思わず拳を握り合う。
「え、ほんとに? FからDすっ飛ばして?」
「やったああ!」
この数週間――迷宮での試験、クリスタルの回収、あの難解な障壁の突破……思い返せば、どれも簡単じゃなかった。けど、こうして認められたことが、なにより嬉しかった。
バストークが少し表情を和らげる。その顔がちょっと怖い。笑顔でも子供に怖いと泣かれるタイプだな。
「素質も実績も申し分なしだった。C級の登録チームとしては、最年少だ。ロップスの年齢は不明だが」
バストークが言い添える。
一階に戻ると受付のミニマナが笑顔いっぱいで祝福してくれた。
「おめでとう!やるじゃない!」
すると、カウンターの横から、あの見慣れた顔が近づいてきた。
ダラガルだ。
「……おい、ドラコニア団」
少しばかり身構えたが、次の言葉は思いもよらなかった。
「……悪かった。あのときは、馬鹿するようなこと言っちまって」
彼は視線をそらしながらも、しっかりと謝罪の言葉を口にした。
「最年少でC級に上がったって聞いて……正直、驚いた。
実力を認めざるを得ない。だが、これからも、気を抜くなよ。
甘く見てると、死んじまうからよ」
ヴィオラは腕を組んだまま、「ふん」とだけ返した。
ウチャはすでに「ダラガルって意外とイイヤツかもー!」とはしゃいでいる。
僕は、ふと掲示板に目を向けた。
そこに、貼り出された新着の依頼の一つが、目を引いた。
依頼名:失踪事件の調査(E級)
内容:市内数区で、刃角の市民が行方不明になる事件が続発。現在のところ詳細不明、軽度の調査を希望。
胸の奥が、嫌な音を立てた。
(……まさか、ポニュラのあの絵……)
孤児院を取り囲む、仮面のような顔をした影たち。あれは、ただの不安じゃなかったのかもしれない。
「この依頼、受けよう」
僕は声に出していた。
「ピピン、なんでこれが気になるの?せっかくだからC級の依頼に挑戦してもいいと思うけど?」
ヴィオラが不思議そうに振り返る。
「何か、ひっかかるんだ。放っておくわけにはいかない」
ミニマナが頷く。
「了解。徐々に依頼のランクを上げていくのは堅実なことよ。じゃあ、E級の調査依頼として正式に登録するわね」
こうして、次なる調査が始まった。
数日間、刃角の居住区や下町の周辺を聞き込みして歩いた。
失踪者は全員刃角。いずれも特に問題を抱えていたわけではなく、ある日突然、ふっと消えるように姿を消したという。
そして、ある噂が浮かび上がった。
――“ジェラストラピ”という名。
古代の言葉のような響き。それでいて、誰に聞いても詳細はわからず、ただ「ジェラストラピ様」としての人々の間で信仰のように広まっている。
情報を集めていると、人間の老婆がこう囁いた。
「ジェラストラピ様、迷える民をお助けください……お導きください」
その言葉に、ロップスの尻尾がピンと張った。
「ピピン、嫌な予感がする」
「なんだろう……」
失踪者の家に共通して残された異質な魔力の痕跡。
ロップスが検出した魔力痕跡――それは、かつてぼくらが孤児院で見たものと、同じ性質を持っていた。
「これ……この街の外からきたものだ」
その言葉に、ヴィオラが低く唸るように言った。
「アイツら。ゴチャリングスかもしれない」
「ニューメキに、支部があるってこと……?」
「……可能性がある。アイツらが動き出してる」
あのポニュラの絵。未来を感じ取った、あの予兆。
それが、つながっていく。
すぐにギルドに戻り、調査報告を提出した。
待機していたミニマナが報告書を読み終えると、短く息を飲んだ。
「……この内容なら、正式に“D級調査”に引き上げることができるわ。
ゴチャリングスの活動は、ギルドでも問題になっているの。
最近の情報では、遠方にあるジューケイという大きな街のギルドがゴチャリングスに壊滅させられたのよ。
支部の存在が事実なら、それは軽視できない脅威になる」
他の街のギルドがゴチャリングスに壊滅させられた?!
「やるよ、僕らで」
僕は迷いなく言った。
「放っておくわけにはいかない。これ以上、誰もいなくならないように」
ヴィオラが拳を握り、ウチャがうんうんとうなずく。
ロップスはただ、真剣な目で僕を見ていた。
「支部、必ズ見ツケル!ムー!」
ミニマナが真剣な顔つきで書類を作成する。
「この依頼、ドラコニア団にお願いするわ。ただし、調査まで。もし支部を見つけたら、ギルドで人数を集めて対応する必要があるわ」
僕は、ゆっくりうなずいた。この街でアイツらの勝手を許す訳にはいかない。




